消費者が主導権を握る時代へ、最後は人間の持つ知恵が事業を牽引することを理解せよ IBM 中山裕之 氏 【ad:tech tokyo 2017 ABM vol.17】

ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member インタビュー特集, Marketing, 人工知能

ad:tech tokyo 2017アドバイザリーボードメンバーインタビュー特集
日本を代表するイベント「ad:tech tokyo」が今年も2017年10月17-18日にかけて開催されます。このイベントの総勢40名の業界リーダーで構成されるアドバイザリーボードのインタビューを連載形式で掲載しています(特集一覧はこちら

人工知能への関心が急速に高まっている一方で、高度技術に向き合えない人も多いのではないでしょうか? 「マーケターの仕事は180度変わる」と断言する日本アイ・ビー・エム コグニティブビジネス推進室長の中山裕之氏に話を伺います。

消費者が主導権を握る時代へ、最後は人間の持つ知恵が事業を牽引することを理解せよ

日本アイ・ビー・エム パートナー/グローバルビジネスサービス事業本部 コグニティブビジネス推進室長の中山裕之氏

—— アドテックのセッションでも人工知能が一つのテーマとして注目されています

昨今の過熱気味とも言える人工知能ブームに正直不安を感じ始めています。

人工知能人工知能と言われますが、「人工知能とは何ですか?」と改めて聞かれたら何と回答しますか? 実は誰も明確に定義をしていないにも関わらず、言葉だけが先行している感は否めません。現代における人工知能に関するよくある誤解は「人工知能脅威論」、つまり高度化した人工知能が人間を駆逐し反逆を始めるというものと、人工知能にお願いすれば何でも叶えてくれるという「人工知能万能論」があるように見受けられます。囲碁や将棋の世界で今や人間が人工知能に勝てなくなっていることが強烈な印象を与えたのかもしれませんが、俗に言う「シンギュラリティーの世界」はまだまだ映画の世界の話であって、現時点ではまだ夢の話といってもいいでしょう。

前述したように、世の中に人工知能という言葉をきちんと定義している人はいないのです。それなのに人工知能という言葉がいろいろな形で使われてしまっています。ですから、アドテックを通じて人工知能と呼ばれる技術の周辺で何が起こっていて何ができて何ができないのかを知ることが大切ではないかと考えています。IBMでは、人工知能という言葉は使わず、AIについても「Augmented Intelligence(拡張知能)」と呼び人間の知識を補佐するものと定義し「コグニティブ(経験的知識に基づいた)・コンピューティング」という言い方をしています。昨年来実際に現場でコグニティブプロジェクトを多数経験してみてわかったのは、「この技術は間違いなく時代を変える」ということです。

—— 多くの人がデジタルデバイスを利用する時代、市場との付き合い方はどう変わっていくのでしょうか?

今やネットワークに接続するデバイスの数は、世界の人口をはるかに超え、本格的なデジタル社会が到来しました。デジタル社会の到来がもたらしたものは、顧客と企業の距離を劇的に縮めただけでなく、デジタル空間に莫大なデータを産み出しています。顧客と企業の距離が近づいたことは、企業にとって大きなチャンスでもあり、同時に大きな危機にもさらされているのです。

今や、消費者は広告やCMを見て物を買う時代ではなく、自らネットで検索しクチコミを見て物を買う時代です。今やビジネスの主導権が完全に消費者に移ってしまったのです。

このような時代において、企業はデジタル空間に眠る莫大なデータを活用し「消費者に選ばれる企業」になる必要があり、消費者に選ばれない企業は衰退の道を歩むことになるでしょう。

これまでは、限られた調査結果や統計データから推測して、売れるであろう商品を設計していくしか方法がありませんでした。結果として、企業側主導で商品をつくり、テレビCMやウェブ、メールなどの広告によって大規模に宣伝していったわけですが、これらの手法は消費者に受入れられなくなり始めています。いま求められているのはライバルを横目に毎年のように新製品を投入するのではなく、世の中における状況を知り、消費者一人一人に必要とされるものや役に立つものを提供し続けることです。

—— 「コグニティブ・コンピューティング」を活用することで何が実現できるようになるのでしょうか?

デジタル空間に眠る膨大なデータを使って、個々の消費者の行動パターンや思考を理解することが可能になり、消費者との関係を劇的に変化させる可能性を持っています。昨今ですとチャットボットが注目されていますが、人の言葉を解釈するだけでなく、会話の内容から相手の求めていることを推測するようなことも可能になります。オンラインで消費者の行動を理解して、その先を見据えた提案をするようなことも可能になりつつあります。

どういうことかというと、例えば、「IBM Watson」に代表されるコグニティブ・コンピューティングでは、自然言語つまり話し言葉や音声といった従来のコンピューターでは理解できなかったデータを扱えるようになっています。これまでのコンピュータによるデータ処理では、構造化されている=つまりそれがどんなデータであるかラベルがついてないと理解ができませんでした。例えば、話している言葉をそのまま処理しても意味を理解してくれなかったわけです。

また、従来は人間がルールを決め、ロジックをプログラムに落としこんでコンピュータを動作させると言った演繹的なアプローチを採用しています。一方でコグニティブの世界では、過去の経験とデータに基づき、その状況に応じた最も正しいと思われる答えを導き出すといった帰納法的アプローチを採用しています。これは人間もそうですよね、自分が置かれた状況と過去の経験と照らし合わせ、最も妥当な行動を取ります。実は人間は演繹的というより、帰納法的な思考パターンに基づいて行動しているケースが多く、これと同じことがコンピュータでもできるようになったのです。

—— マーケターは「コグニティブ・コンピューティング」をどう使いこなすことになるのでしょうか?

コグニティブ・コンピューティングは冒頭でも申し上げた通り万能で何でもやってくれるものではありません。複数の新たな技術を正しい組み合わせで使えば、蓄積された知見からさまざまな可能性を推論して最も正しい内容を引き出してくれます。これにより、データの収集や加工と言った面倒な作業が無くなり「どういったデータに基づき、どのような価値を消費者に提供して行くべき」といったマーケター本来の仕事に集中することができるようになると考えています。

ただ、データがたくさんあるからと言って、どんなデータでも投げ込めばいいわけではなく、どのデータをどう解析してどう活用するか、仮設を立ててからデータを蓄積しなければせっかく集めたデータもゴミと化してしまう可能性があります。

仮説をきちんと立て、その仮説の検証を継続的に行うことにより、どんな時にどんなアクションをとるべきか、状況に応じて適切な答えをリアルタイムに導き出せるようなるわけです。それがマーケターの本来の仕事であり、世間で言う人工知能の本来の機能を発揮する方法となるでしょう。つまり、マーケターの仕事は、想像力を膨らませて仮説を立て、消費者の反応をリアルタイムで分析し、消費者に価値を提供し続けることになると思います。このプロセスは人間の知恵の追求であり、こんな面白い世界はないと思うのです。

—— マーケティングの概念そのものが変容するように感じました

そうですかね。私は本来のあるべきマーケティングの姿に戻ると考えています。これからの時代は、より未来が予測しにくくなるでしょう。そうなると昨日正解だったことが今日正解とは限らなくなります。企業競争力を維持するには仮説検証サイクルを猛スピードで回すことが不可欠となるわけですね。

近い将来さまざまな技術を統合的に使いこなすことで、消費者の行動パターンやSNSの投稿状況などを調査しながら、個々人のその瞬間のニーズを推察するだけでなく、検証することも可能になります。うまく想像力を働かせることができれば、消費者一人一人に適した施策をリアルタイムに導き出すことができるようになるわけです。

これはかつて、自宅の勝手口に来て用件を聞くだけでなく、家族の趣味嗜好を熟知し、お願いしていないのに適切な商品をお届けしてくれるような「お抱えコンシェルジェ」的なサービスも提供できるようになることを意味しています。

このように従来マーケターが持つ、クリエイティビティーやインテリジェンスを活用することにより、消費者に対してよりよい提案が可能になり、その結果、世の中の人々の生活がより豊かなものになるのではないかと夢見ています。

—— ありがとうございました。


中山裕之
日本アイ・ビー・エム パートナー
グローバルビジネスサービス事業本部 コグニティブビジネス推進室長

プライスウォーターハウスコンサルタント会社(現日本アイ・ビー・エム)入社後、業界横断で最新のITを活用した業務改革プロジェクトに従事。CRMS本部長、社長補佐、Enterprise Application事業部長などを担当し、2016年4月より現職。現在はコグニティブビジネスの日本での普及に奔走している。

【ad:tech tokyo 2017 概要】
日時:2017年10月17日-18日
場所:東京国際フォーラム
参加人数:15,000+
詳しくはこちらから

【関連URL】
・ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member (ABM) Interviews
http://techwave.jp/category/features/adtech-tokyo-2017-advisory-board-member-interviews

蛇足:僕はこう思ったッス
maskin-bit-2016 IBM Watsonは、もともとアメリカのクイズ番組の問題を解くために生まれたもの。実際はこのインタビューに出てくるような状況を読んで回答するようなチャレンジでははなく、かならず単一の答えが出てくるクイズ問題だったとのこと。今やIBM Watsonといえば情報を推論して探し出す能力に長ける存在。製薬関連の論文内容2000万件を蓄積し、ガン患者の治療法を見つけるといった成果はコグニティブコンピューティングひいては人工知能領域全体の可能性を示唆しているように感じました。

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Editor In Chief at TechWave.jp
1990年代初頭からソフトからハードまで50以上のスタートアップ立ち上げを国内外で経験。平行して雑誌ライターとして疾走。シリコンバレーでガレージベンチャーに参画後は、国内でネットエイジを筆頭にスタートアップに多数関与。ブログやSNSの国内啓蒙、ソニーの社内イノベーション事業など関与。通信キャリアのニュースポータルの立ち上げ期の編集デスクとして数億PV事業に育てた後、TechWaveにジョイン。世界最大のグローバルIT系メディアであるスペインの「Softonic」の元日本編集長
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