図らずもBing発表の日にMS本社担当者を取材した男の手記「結構いいかも」

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▼よさを実感するには設定を英語に切り替えろ

 時事ドットコム用にマイクロソフト本社にある「未来の家」を取材してくるようにいわれて、シリコンバレーからシアトル、レッドモンドにやってきた。それとは別に自分のプロジェクトとして、モバイル担当者とも取材を入れた。
 数週間前から日本のMSの広報担当者とやりとりしてたんだけど、「検索は興味ないですか」と聞いてくる。そっけなく「ないです」>オレ。
 でアメリカに来てからは、本社の広報担当者とやりとりしてたんだけど「検索のアポ入れといたよ」って。おいおい頼んでないよ。
 でもまあ時間もあるし、聞いてみてもいいか。いろいろがんばってセットアップしてくれてるんだから、って感じで、Bing発表の当日に開発者にマンツーマンで話を聞いた。そうか、たまたま発表の日だったんで、プッシュしてきたんだな。でもこれって普通ならラッキーな話なんだろうなあ。
 でBingの機能をいろいろ見せてもらった。ふむふむ、こりゃなかなかいいわい。でもホテルの部屋に戻って、いろいろ試してみると、なんじゃらほい。グーグルとそんなに変わらないぞ。あれれ。どうやら日本語バージョンはまだそれほど機能が充実していないもようだ。
 Bingの本当の可能性を知りたいのなら、トップページに戻って、設定を英語に切り替えて、アメリカの事象を検索してみなはれ。

▼この方向で検索エンジンの進化が進めばCGM系のサイトってやばくないか

 英語でアメリカのことを検索すると、その使い勝手のよさが見えてくる。そうか、検索エンジンはこの方向に進化していこうとしているのね。で、この方向に進むと、○○比較サイトの運命はどうなるんだろう。サイト運営者の皆さん、うかうかしてられないかも、ですよ。

ここからは、担当者とのやり取りの取材メモ。帰国後に原稿にまとめなきゃ。

-新しい検索エンジン「Bing」の特徴は?
僕たちはdecision enginって呼んでいる。検索エンジンじゃなくて、決定エンジン。
決定エンジンは3つのレイヤーからなっている。
1つ目のレイヤーは、コアとなる検索機能。ユーザーが慣れ親しんでいる検索のやり方がそのまま使えるようになっている。検索の速度や関連性やプレビューとか。
ー伝統的な検索エンジン?
 そう。その部分はやはり必要。ユーザーはもうそうした機能に慣れているから、まったく違うものを提供するわけにはいかない。それが1つ目のレイヤー。
-2つ目のレイヤーは?
 ユーザーの多くは実は、伝統的な検索エンジンに不満を持っている。検索結果が情報の洪水になっているからだ。例えば宅配業者のUPSをキーワードにして検索すると1億5000万ページ以上の結果が出てくるし、いろいろな情報があちらこちらに散らばっている。そこでいろいろな情報を整理して表示するようにした。
ー整理は人間のエディターがするの?
 いやアリゴリズムで。機械が自動的にする。それで3つ目のレイヤーは、人々が決断するのに必要なツールの提供だ。
 つまりわれわれがやろうとしていることは、リンクを集めて並べるという過去10年くらいの検索エンジンのあり方を大きく変えるもんなんだ。それがデシジョンエンジンとしてのBingのコンセプトだ。
 そのコンセプトに基づいて、次世代の検索エンジンを作ろうとしたわけなんだけど、同じような検索エンジン作っても仕方がないし、それにユーザーに聞いてみても検索エンジンの現状に満足している人が多い。そんな状況の中、ユーザーも気になっていないほどの使い勝手の悪さって何なのか、どうすればユーザーの潜在的ニーズを満たすことができるのか、というのを突き詰めた。多くのユーザーグループ調査も行ったし、いろいろなデータ解析もやった。
 では、それぞれのレイヤーでどんなことをやったのか少し詳しくお見せしよう。まず1つ目のレイヤー。伝統的な検索エンジンのレイヤーでの改良点をお見せしよう。
 例えば先に挙げたUPS。まずベストマッチというコンセプトを導入した。過去のユーザーの利用履歴をベースに、UPSというキーワードで検索した人たちが最終的にたどり着く情報をディープリンクで表示した。サイトのトップページから入るようにするのではなく、直接必要な情報のページに飛べるリンクを表示した。
ーでもそれってグーグルもやってるよね。
 やってる。だからここの部分は伝統的検索エンジンの部分。でも競合社と違って顧客対応係の電話番号が表示されるようにした。企業って、あまり多くの苦情電話がかかってきては困るから、サイトの目立たないところに電話番号を隠してたりするんだけど、それを検索ページのところに表示するようにした。
Ups

 それにUPSの場合、消費者は自分宛ての荷物が今どの辺りにあるのかを調べるためにUPSのサイトにアクセスすることが多いということがアクセス解析で分かる。だったら荷物番号を入力できる窓を検索結果のページに置くほうが便利だろうと思って、そうした。これでUPSのページに飛ばなくても検索結果のページから自分の荷物がどこにあるのかを検索できるようになった。
 またアクセス解析の結果、ユーザーの20%がリンク先のサイトに飛んだ直後に「あれ、これ関係ないや」ということで「戻る」ボタンを押して検索エンジンのページに戻ってきていることが分かった。
ーそんなことしなくても、リンク先のページを新しいタブを開いて表示したらいいのに。
 いや多くのユーザーはそんなことができることさえ知らないんだ。マウスの真ん中のボタンでクリックすれば、リンク先が新しいタブで表示されるってことを知っているユーザーは少数派なんだ。
 それで一般的なユーザーのために、マウスオーバーするだけで、リンク先の情報が表示される機能をつけた。これでリンク先を表示することなく、自分の探していることが載ってそうなページなのかどうなのかが分かるようになった。
 「シアトル」「交通」という2つのキーワードで検索すると、シアトルの交通情報のサイトへのリンクが一番上に表示される。事故や渋滞情報などのディープリンクがあって直接その情報にアクセスできたり、その交通情報のサイト内を検索できる検索窓が表示される。
 このほかにも「天気」であるとか「マリナーズ」であるとかの項目の表示でも同様に、余分なステップをできるだけ減らせるように工夫してある。
-それが1つ目のレイヤーの「伝統的検索」部分の改良点ですね。では2つ目のレイヤー、検索結果の「整理」ってどんなこと?
 ここからが競合する検索エンジンと大きく差別化できる部分。
 例えば「イチロー」で検索してみよう。検索結果にイチローの顔写真や「打率」などの統計が出てくるんだけど、左側のコラムに注目してほしい。「略歴」「統計」「ビデオ」「発言」などの項目がリストアップされている。検索結果のリンク先の情報を「略歴」「統計」といった項目にグループ分けしているわけだ。いままでの検索エンジンなら、リンク先の情報がどのようなものなのか分からないけど、ビデオに興味のある人はビデオのグループのリンク先だけを見て回ればいいわけだ。
Photo

 こういうふうな情報のグループ分けを、ユーザーの過去の行動履歴を解析することによって自動的にできるようにしたんだ。
ーすべての情報がこのように自動的にグループ分けされて表示されるのか?
 いや、今のところ検索キーワードの上位20%ぐらいだけ。これからもっと増やしていくつもり。ただほとんど検索されないようなキーワードの場合、ユーザーがどのようなタイプの情報を探したかという過去の履歴の数が少ないため、ユーザーの役に立つ形での自動グループ分けは非常に難しい。だからすべてのキーワードのリンク先をグループ分けするようにはならないと思う。これが2番目のレイヤー。
-3番目は?
 ここが、われわれが検索エンジンではなくDecisionEngineと呼ぶ根拠となっているところ。判断を下すのに必要なツールを提供しているんだ。主に4つの分野にフォーカスしている。「旅行」「買い物」「ローカル、地図」「ヘルス」。検索データを見ると、この4つの領域に関する検索件数が最も多く、しかも検索エクスペリエンスに満足していないことが分かっている領域なんだ。
 例えば旅行を見てみよう。シアトルーオランド間の航空運賃を検索すると、複数の航空券販売サイトを横断検索し、最安値を表示してくれる。価格の動向をチャートにしてくれたりする。いろいろな航空券販売サイトを回る必要がない。
 買い物の場合は、アマゾン、Eベイ、ヤフーなどの価格やユーザーの口コミを横断検索し、内容に合わせて自動的にカテゴリーに仕分けてくれる。いいレビューが悪いレビューかも表示してくれる。
 例えばカメラを買う際に、一番気になるポイントがレンズだったとしたら、Bingでは、レンズに関するいいレビュー、悪いレビューという具合にまとめてくれている。
-バーティカルサーチ?
 そう。ユーザーが不満に思っている領域のバーティカルサーチをすっきりとした形で作って、1つの検索サイトの中にまとめたってわけだ。

【取材後の感想】
検索エンジンが1つ進化したのは事実。競合する検索エンジンもこの方向で進化するのだと思う。そうなることは、幾つかの専門サイトにとって脅威になることは間違いない。
一方でこの進化がパラダイムシフトと呼べるほど大きなものかというと、そんなことはないと思う。
この改良点をユーザーや競合社に見せると、ほとんどの人は「へえー結構いいんじゃない」と言うだろう。でも多くの人が「いいんじゃないの」と思うような改良は、単なる進化であり、劇的なパラダイムシフトではないと思う。マイクロソフトはBingの広報、マーケティングにかなり力を入れるようだが、グーグルならこの程度の改良ならこっそりやって、発表することもないだろう。
劇的なパラダイムシフトは、その過程にあって競合社が「そんなのだめだよ」というようなものなんだと思う。それくらい発想の転換が必要なもんなんだ。
2000年ごろに国内有数の検索エンジンの開発担当者を取材したことがあった。その担当者は自分たちの検索エンジンが多くのインデックスを作れるということを自慢していた。「一番大事なのはどれだけ多くの情報を検索対象にできるかということ。この点でほかのエンジンには負けません」と言っていた。どれだけ多くの情報を持っているかが大事だと考えていたわけだ。
ところがグーグルはどれだけ情報を少なくするかで勝負していた。トップページにごちゃごちゃと広告やリンクを張らずに、ロゴと検索窓をメインにしたすっきりとしたデザインを保っていた。
「情報をどれだけ多く持つか」から「情報をどれだけ少なくするか」への発想の転換が起こっていたわけだ。
競合社に「いいねそれ、真似しよう」と思われるような改良は、過去の延長線上にある進化であり、発想の転換を必要とするパラダイムシフトではないのだ。

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Editor In Chief at TechWave.jp
1990年代初頭からソフトからハードまで50以上のスタートアップ立ち上げを国内外で経験。平行して雑誌ライターとして疾走。シリコンバレーでガレージベンチャーに参画後は、国内でネットエイジを筆頭にスタートアップに多数関与。ブログやSNSの国内啓蒙、ソニーの社内イノベーション事業など関与。通信キャリアのニュースポータルの立ち上げ期の編集デスクとして数億PV事業に育てた後、TechWaveにジョイン。世界最大のグローバルIT系メディアであるスペインの「Softonic」の元日本編集長
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