サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

世界最大級のテクノロジーカンファレンス「ウェブサミット」初参加者目線からみるまとめレポート:その2

前回の記事ではウェブサミットがどの様に繰り広げられているかをお伝えいたしました。今回は、そんな人々を魅了するウェブサミットにはどんな企業が参加しているのか、一部を初参加の田村がお届けします。

カテゴリーによって会場が分けられている

テクノロジーといっても多岐に渡る業界の企業が出展している為、5つのパビリオン(昨年まで4つでしたが、今年増設)が設置され、業界ごとのカテゴリーに分けてブースを配置しています。

それぞれのパビリオンの端には中規模のステージがあり、テーマに沿った内容の講演が3日間終日行われています。出入りは自由にでき、一日中聞き続けても飽きない程のコンテンツが盛りだくさんでした。

(カテゴリー抜粋)Environment/energy/cleantech(環境問題)、PANDA(マーケティング)、SaaS、IoT、MaaS、Fintech、セキュリティー、 ゲーム、ヘルスケア等その他多数

2万人を収容するメインアリーナでも終日著名人による講演が開催されており、他にも併設されている50-100名規模のセミナールームで協賛企業がワークショップを行っていました。

それぞれの個性が問われるスタートアップ

スタートアップのブースは他とは異なり、造作がほとんど設置されておりません。会場のサイズに比べて全体的に造作は簡潔に施されており、なるべく多くの企業が参加でき、人々が回りやすいレイアウトに整備されていました。


[スタートアップブースの様子]

業種のみならず、資金調達レベルでゾーンを分けていたのも特徴的です。
(Alpha:約1億円調達済みのアーリー、Beta:約1~3億円調達済みのミドル、Growth:海外展開を視野に入れたレーターステージ)

また、このようにカテゴリーで展示ブースが分けられている為、類似したサービスを提供しているスタートアップが並んでいる光景もありました。来場者が全ての会社から話を聞けるわけではない限られた時間の中で、私が話しかける判断軸となったものが、各企業が皆掲げるこちらのパネルでした。

専門性をアピールすることも一つの手法ですが、誰が読んでも何のサービスか容易に理解でき、他社との差別化ポイントが1つだけでも分かるだけで、一度話を聞いてみようと無意識に出向いていることが何度もありました。この3~5行の文章によって、ビジネスの機会をゲットできるかが左右されることを考えると、見せ方/プレゼンの重要さが手に取るようにわかります。

その中で私が面白そうと思った企業の一部をご紹介します!

SpotDraft(インド、Seed)
リーガルテックは参入が難しい故に、サービス内容や事業性の精度が問われます。SpotDraftでは、従来紙で行使されていた契約書のデジタル化及び自動化するサービスを展開しています。ただ単に紙に記載されていた内容をデジタル版に移行するだけでなく、AIが契約書の内容を把握し、アクションを起こす必要がある条文を事前に検知。判断が必要な時期が到来する頃にユーザーに対してリマインドを送るという機能も付いています。

Dexai Robotics(アメリカ、Seed)
現在無人カフェなども各国で展開されており、ある程度社会でも浸透してきた飲食店でのロボット化。ボストン発のDexai Roboticsでは、料理をロボットでオートメーション化する取り組みをしています。実演ではトッピングを自動で取り分ける作業を行っていましたが、調理する作業の開発は既にできているそうです。私が話した担当者は、現在ボストンのラーメン屋さんでアルバイトしており、試験的導入を進めているとのことでした。様々な企業がこの分野に参入しているという話はよく聞くのですが、実際に見てみるととても興味深く、店舗での導入は間近であることを実感しました。

Boundless(アイルランド、Private)
アイルランド出身のBoundless。オープニングイベントのbreakout our startups にも選出されていました。異国籍の社員を雇用する際に必要となる税金やビザなどに係る問題を解決してくれる会社です。それぞれの国によって雇用形態から解雇の手続きなどにローカルルールが制定されており、一つの会社で全てを把握するのは至難の業です。今後オフラインのみならずオンライン上で国境を越えた雇用契約が増えてくる時代にはもってこいのサービスではないでしょうか。

社会での実現性や事業性を重視した大企業

7万人もの来場者を魅了するイベントにはやはり名だたる企業が出展しており、会期中ほどんど人が途絶えることのない程どこもかしこも人気でした。この様なイベントへの出展は慣れているが故に、それぞれの特徴を活かすコンテンツが散りばめられていました。

・PVH
Tommy Hilfiger やCALVIN KLEINなどを手掛ける大手ファッションメーカーは、次世代でも風靡し続ける為には商品の制作からマーケティングまでデジタル化する必要があると提議しています。ブースでは、3D デザイン・モデリングやデジタルショーケースについて展示されており、その場でデザインをプリントできる機械を使った実演なども行われており、常に人だかりがありました。従来のテックカンファレンスはBtoB、特にSaaS企業によるデジタル化がメインでしたが、PVHのようなBtoCの会社においても最新のテクノロジーの導入が必要とされており、駆使されていることが明確になったのではないでしょうか。

・Microsoft
従来では自社の主な製品(特にAzul)の機能説明や販売しているプロトタイプの展示が多いように感じていましたが、製品を使って実際に社会で起きている問題の解決策を具体的に展示しており、多岐のジャンルにおけるITソリューションを提供していました。例えば、Smart Cityというテーマで開発されたサービスでは、Azulを使って自治体と市民間を繋ぐ、AIチャットボットツールを開発しています。

この左のチャットにて、問題を記入すると既に登録されたデータベースの中から解決策をAIが提示してくれます。この写真では冷蔵庫の引き取り処分をしてほしいというリクエストに対して既に登録されている業者の中から選択し、最終的には同じチャット内で冷蔵庫の引き取り日まで調整できます。世界で展開しているAzulであるからこそ、別言語対応しているのも魅力の一つです。

・富士通
今年日本企業初出展となった富士通。コンテンツはいくつか展開されており、最近ローンチした欧州で繰り広げられているアクセラレータープログラムや、Human Centric Experience Designという自社のツールを使いながら企業の問題解決に対するソリューションをデジタル上で展開するプログラムの実演なども行われており、リアルタイムで経営者の悩みのデータを集積し、それぞれの解決策を提供していたのが特徴的でした。初出展ということもあり、テープカッティングや鏡開きの演出なども。他にはない存在感を出し、たくさんの人の注目も集めていました。

国を挙げてスタートアップの発展を支援

先進国である日本もそうですが、どの国においてもスタータップにとって、政府による支援の影響はとても大きいです。大企業に比べ資金力も信用力もまだ足りていない彼らにとって、国から認められる又は国が応援するコミュニティーに属することはとても大切なアセットとなります。ウェブサミットでは、政府が持つ信用力を活かし、ブース内で各国発祥スタートアップの紹介をする展示が多く見られました。

以下一部をピックアップ。
Made of Lisboa(ポルトガル)
 ウェブサミットの開催地であるリスボンは市がスポンサーとなってスタートアップの活躍を支援しています。ウェブサミットの誘致も勿論その一環なのですが、社外とのリソースが比較的に少ないスタートアップのためのコミュニティ・エコシステム形成を主体的に行っています。

このMade of Lisboaではリスボン発祥のスタートアップ(人および会社)がウェブ上で紹介されています。投資家やインキュベーターの数や位置など、スタートアップエコシステムに関与しているプレーヤーの情報が掲載されており、Made of Lisboaがエリアや起業家に向けて主催しているイベントや、コミュニティーに参加するメンバーによるイベントの開催情報なども更新されていますので是非チェックしてみて下さい。

J-Startup(日本)
METI・JETRO・NEDOが主体となってスタートアップの活躍を支援しているJ-Startupが今年もブースを出展しました。Plug and Play Japanや他企業とコラボして選定した、伸びる日本発スタートアップをいくつかブース内で紹介。最新の技術や他にはないアイデアを持っていたとしても、スタートアップにとって日本からの渡航費等はとても大きな出費となってしまう為、成長性のある企業に対して支援の一環として機会創出のお手伝いをされています。

[奥にスタートアップのブースを設置。10社以上のスタートアップが出展。]

また、気になるところである日本勢のプレゼンスに関しては、全体数と比較するとまだまだですが、年々出展数及び来場数は徐々に増えています。今年は富士通だけではなく、ZETAも日系企業で唯一ワークショップを開催していました。自社の売りであるUX改善事例やトレンド等を講義スタイルで共有され、入り口には長蛇の列ができ、中は立見の人がいるほど大盛況となっていました。

まとめ

ウェブサミットに足を運んで改めて感じたのは、今テックカンファレンスに求められているのはテクノロジーの展示会ではなく、実際の社会で如何に効率的に汎用し生活の向上に繋げていくかというソリューションの共有場所であること、また、新しいアイデアや技術を持ち合わせているスタートアップがグローバル企業と発展する為の土台となり、実践に踏み出すためのきっかけ作りなのではないかと感じました。
業種や企業規模に関わらず、同じようにスポットライトを浴びることができるウェブサミット。至る所に新しいサービスが展示され、皆が本気でビジネスチャンスを得にきているからこそ、差別化を図るプレゼンが重要となり、上手くいけば各国に情報が発信されていくという可能性に秘めたイベントとなっていました。

レポータープロフィール


田村 理紗(たむら りさ)
カリフォルニア州立大学バークレー校にてメディア学を専攻し、卒業後から現在まで
総合不動産デベロッパーにてコワーキング施設の営業や運営、開発などを担当している。

モバイルバージョンを終了