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変遷するミュージックビジネスその1:Apple iTunes StoreとApple TV【@MICKEYTACHIBANA】

[読了時間: 2分]
平成生まれの皆さんは多分アナログレコード(Vinyl Records)をご存知無いだろう?ソニーとフィリップスが策定したCD規格での、デジタル音楽ディスクがリリースされ出したのが1983年頃、ちょっと早く見積もって10歳で音楽に目覚めたとすると、1973年生まれ以降の皆さんは、おそらく初めて買ったディスクはCDだったのではなかろうか。初代のiPodが発売された年が2001年、さらにiTunes Music Storeがデジタル著作権管理機能を整備し、音楽レーベルや版権管理団体と合意の上、音楽のオンライン販売を開始したのが2003年の春となる。その頃、NapstarなどのP2P音楽ダウンロードサービスの利用が蔓延してきて、ちょっとした社会問題になっていた。レコードレーベル各社も、ユーザーがレンタルCDをリッピングしたあげく、そのような違法流通経路にアップロードしてしまう事よりは、むしろジョブスの提案にのって、違法ダウンロードを撲滅しようと考えたのだ。今ではWalMartを抜いて、音楽ソフト売り上げ世界一のAppleであるが、その後Pandoraが、従来の一方的に聞くだけのネットラジオとは異なり、気に入ったアーティストや曲から類似する音楽を続けて聞く事ができるという画期的なストリーミング方式を開発し、サブスクリプションと広告の2本立てのビジネスモデルを確立しシェアを伸ばした。従来からあった、聞き放題のサブスクリプションモデルの方でもFacebookと連携する新らしいサービスが出てきて活性化が進み、全陣営が入り乱れて戦国時代に突入、主導権争いが再燃している。一方ではマドンナが2007年にワーナーミュージックからLIVE NATIONに移籍した事で大きな話題を呼んだ。つまりトップミュージシャンがCDの売り上げよりも、ライブ活動に収益化戦略を移したという、エポックメイキングな事件があった。Youtubeでプロモーションビデオを自由に聞いてもらい、またソーシャルメディアでファンと頻繁にエンゲージする事でライブに動員、チケットやグッズ販売で大きく稼ごうという、今までとは明らかに異なったビジネスモデルだ。裏返して言えば、音楽がデジタルデータになる事でCDが売れなくなるばかりか、ダウンロード販売も先が見えている。貴重価値はライブ演奏にあるとの結論を早々と下したという事だ。アメリカでは、タワーレコード(2004年に倒産)やバージンメガストア(中東以外は閉店)が街から消えさり、ビデオのブロックバスター(2010年に倒産)、書籍のボーダーズ(2011年に倒産)も無くなったのだから、ライブネイションには先見の明があった。これらの事象は、明らかにインターネットやモバイル機器の普及に影響を受けている。筆者は音楽ビジネスのプロでは無いが、これらの変革を目の当たりにしてきた一ユーザーとして、体験を交えて連載記事を書いてみる。1回目はAppleだ。ただ、iTunes Storeの仕組みについて今更解説をするつもりは無い。ここでは、王者Appleのマーケティング戦略について、気付いた点を書いてみる。


(左上の図から時計回りに遷移する)

今年はビートルズが初めてアメリカのTV番組、エドサリバンショー(1964年2月9日)で紹介されてから50周年という事で、その貴重な録画がApple TVでThe Beatlesチャンネルとして期間限定ながら無料で提供されている。同時に12枚のアルバム作品がリマスタリングされてデジタルリリースされ、一枚$9.99(一曲の場合$1.29)で購入できる。1955年にアメリカでデビューしたロックンロールの王様エルビスプレスリーに対して、1962年イギリスでデビューしたビートルズはその後ロック界で最も影響力を持つ事になる。そのビートルズのアルバムをブラウジングしながら、懐かしい曲のイントロを聞いていくうちに、「聴視者は以下のアルバムも購入しています」という所謂レコメンドにジミヘンドリックス、レッドツェッペリン、ディープパープル、エリッククラプトンと60年代後半から70年代の人気バンドのアルバムが次々と表示される。バレンタインデーの5日前にぶつけてきたこのキャンペーンによって、ベビーブーマー世代を中心に相当数のロックアルバムが売れるだろう。なかにはレコードで初めて買って、その後CDを買って、さらにデジタル版を購入する人もいるばずだ。もちろん購入すれば、iCloud経由でiTunesでもApple TVでも聞く事ができる。 #Beatles #EdSullivanShow

 

【関連URL】

・Now playing on Apple TV: The Beatles’ 1964 appearance on The Ed Sullivan Show
http://gigaom.com/2014/02/10/beatles-ed-sullivan-show-apple-tv/

蛇足:Mickey’s インスピレーション
Beatlesは1960年に結成され、1962年にレコードデビューしているから、今年でBeatles50周年というキャンペーンをしているのはAppleだけになる。70年代、80年代の人気ロックバンドが今後続々と50周年を迎える事になる。Roling StonesでもAerosmithdでもSantanaでも、キャンペーンのきっかけは無限大だ。音楽の定番(ヒット曲)は、時代を超えて毎年思い出深い記念日に売り上げが稼げる。クリスマスになるとWham!の1984年のヒット曲「ラストクリスマス」が定番で復活する(日本では山下達郎の1993年の「クリスマスイブ」)事になる。話は逸れたが、Appleは製品力は勿論の事、そのマーケティングに優れたブランドである。Pandoraのストリーミング方式が大きなシェアを取り、そこにSpotify、Rdio、MOG(現在は無い)などのサブスクリプション方式が台頭してきた事に対抗して、Appleが取ったマーケティング手法が、Apple TVでビートルズの50周年記念番組をきっかけにApple独占のビートルズの楽曲、さらにはロック黄金時代のバンドの名盤へと、動線を繋いで行くこのキャンペーンだったと思える。ベビーブーマーの中には、ビートルズのアルバム12枚を一気に大人買いする人だっているだろう。最近、Appleはハードウェア中心の会社だから、GoogleやFacebookのような、ソフトウェアや検索技術といった会社に比べて将来的な成長性が弱いという記事もあったが、こと音楽流通ビジネスに関しては他社よりもパーツが揃っていて優位にあるようだ。現在の所、蛇口を開けば何時でも流れ出してくるといった感じだろう。

因に、既にお気づきの方もおられるかと思うが、筆者の各記事には、今回の連載のどこかで取り上げるべきサービスであるSoundcloudから音楽のリンクを張っている。今回はビートルズのアメリカデビューに遅れる事3年、1967年のアメリカ公演の際に使われたラジオプロモーションの貴重な音源と1978年のパリでの公演のライブ音源を張っておく。SpotifyやRdioでもウェブページへリンクを埋め込む事は可能なのだが、日本でサービスが開始されていない現状ではストリーミングできない事が判明、調べてみた限りではSoundcloudが一番グローバルな気がしたからだ。もし、音が出ないようであれば、TechwaveのFacebookページの方へご連絡頂きたい。なぜ音楽のリンクを入れているかという事だが、これはアフェリエイトとかステマとは一切関係無い。Soundcloudは音/音楽の為のYoutube、ミュージシャンの為のDropboxと思えばいい。基本はフリーなクラウドスペースだが、沢山使うプロユーザーはお金を払って追加スペースを買うフリーミアムとなっている。筆者はブログの投稿記事に、想定する読者層に会わせた音楽を提供する事を試みている。よって、赤ちゃんに関する記事にはライトな室内楽を、車に関する記事には自動車業界のプロの方に失礼の無い楽曲、若い人向けの記事にはエッジの聞いた曲をという風に、苦心しながらコンテキスチャルな要素を加えている。記事を読みながら一緒に提供された音楽を聴いてみるという提案が、読者に新鮮な体験として受け入れられるか。それによってページ滞在時間が増えているのかどうかはMaskinさんに聞いてみないと分からないが、そういう実験だ。そう言えば、かなり昔になるが、エッセイに作家が選んだ音楽CDが付属しているCDブックなる書籍もあった。もちろんこの件に関してはアフェリエイト収入は無い。勤務中に聞く事は無理だと思うが、通勤時間にスマホで記事を読んでいる方は、先ず記事をスクロールダウンして、音楽を再生してから読み始めてみて欲しい。是非お試しを。

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