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企業の宣伝・マーケティング部門が取り組むイノベーション(2) 王子ネピア 平川淳子 氏

どの分野においてもデジタル化の波がもう十分すぎるほどに到来している昨今、なかでも変化の激しい広告宣伝の世界において現在各企業の広告宣伝担当者はどのようなことを考えているのでしょうか。すでにイノベーションを起こした成功事例を持っている企業だけでなく、まさに取り組み真っ最中の企業の方にも自社の現状やこれからへの展望をお伺いする特集です。

第2回は王子ネピア株式会社マーケティング本部商品企画部 平川淳子 氏にご登場いただきます。保湿ティシュの人気ブランド「鼻セレブ」もデビューから10年以上が経ち、ユーザーのティシュの使い方も変わってきているといいます。その中で、どういったデジタル施策への取り組みをされているのか、お話を伺ってきました。

王子ネピア株式会社 マーケティング本部商品企画部 平川淳子氏

—「鼻セレブ」といえば花粉症の人が愛用しているイメージですが、実際需要期もそのシーズンなのでしょうか。

「保湿ティシュも登場から10年以上経ち、市場がしっかり根付いてきました。それとともに、実は通年ニーズが伸びてきているのです。もちろん、まだ花粉症シーズンが需要期のピークではあるのですが、オフシーズンとの売り上げの差が縮まってきています。

理由はユーザーの皆さんに保湿ティシュが浸透したことによって、普通のティシュと保湿ティシュの使い分けが行われるようになってきたから。以前は花粉症の時期だけ、という使い方だったのが、今は花粉症以外にもお化粧の際や来客用、子供用などシーズン関係なく使われるようになっています。市場が日常化してきた現れだと思います」

—そんな中、春に発売された「鼻セレブ」の高ランク商品「大人の鼻セレブ」ではデジタル施策を行われたんですね。どういった施策だったのでしょうか。

「インテリア特化型の写真共有サイト「ルームクリップ」でサンプリング施策を行いました。インテリアにマッチする商品をテーマに、大人の塗り絵をデザインに取り入れた見た目にも可愛らしい商品でしたので、サイトのユーザーさんに実際にインテリアに取り入れていただいた写真をサイト上へどんどんアップしていただいたのです。もちろん自分たちでもインテリアの中に溶け込ませた商品写真は撮影していましたが、期待以上に投稿写真がおしゃれで、自分たちの撮影したものとは違うリアルなご家庭での楽しみ方を垣間見れ、新たな発見がたくさんありました。」

マーケティング本部商品企画部手塚愛理氏(写真右)によると、鼻セレブにはパッケージのコレクターがいて歴代の動物パッケージを集めている人もいるのだとか。

—デジタル施策自体は長く取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

「デジタルへの挑戦自体は少し遅めだったのではないかと思います。ティシュは家族単位で購入される商品ですので、どうしてもユーザー年齢は高めで40代50代が強く旧来型の展開が欠かせません。しかしながら次世代のユーザーを育成するためにはデジタルは取り入れなければ取り残されてしまいます。デジタル中心にしていくための試みの一つとして2015年下期からキャンペーンをそれまでのハガキ応募からweb中心のシリアルキャンペーンに挑戦しました。

また、スマホで操作しやすいページ作りも強化しました。蓋を開けてみれば郵送応募以上の応募数が獲得でき、次世代のターゲットである30代、40代もしっかり集めることができていました。いかにスマホファーストが大事なのかを実感した施策ですね」

—そのキャンペーンが結果的に1年半継続していく浅田真央さん応援キャンペーンなんですね。

「浅田真央さんの応援キャンペーンは第1弾が2015年12月にスタートし、2016年7月に第2弾、2016年12月開始の第3弾まで続きました。第1弾は彼女からの直筆レターが届くというものでしたが、第3弾は直接浅田さんに会えるイベントへのご招待をプレゼント。ちょうど選手として現役復帰してから引退するまでの彼女のストーリーとタイミングが合い、応募者は弾を重ねるごとに増えていきました。

浅田真央さんの偉大さを実感するとともに、SNSなどを通じて真央さんファンの皆様をはじめ、浅田真央さんを応援するたくさんの方からのコメントをいただけたことがとても嬉しかったです。」

—SNSでファンと繋がり、さらにメディア露出も獲得とは大成功ですね!一方で課題感などはあるのでしょうか。

「私たちの商品はティシュに限らず、使い切るのに1ヶ月程度かかるものが多く消費財でありながらも比較的消費サイクルがゆっくりという特徴があります。そのためにキャンペーンは3ヶ月程度の期間が必要でその間のデジタル設計は瞬間的なブームとは違うので熟考が必要ですね。そして何よりも今は「いかに店頭につなげるか」が課題です。webデータと販売データの検証は簡単ではありません。

今後も色々な施策に挑戦しながら、WEBからREALに繋げる施策を展開していきたいですティシュって重くはないけど箱が大きくて、配達を気軽に頼むほどではない価格帯ということもあり、店舗購入される方が多いので」

—確かに、興味深い特徴がある商品ですね。ただこれからキャンペーン期間が短い施策も展開なさるとか。

『激吸収』ブランドの既存商品(左)と今回新発売する「キッチン&食卓用除菌ウエット」。キッチン周りの拭き掃除を手軽に行える商品だ。

「『激吸収』というキッチンタオルブランドからキッチン&食卓用除菌ウエットが10月1日より新発売します。今回、初の試みとして先行トライアルキャンペーンを仕掛けます。発売前のキャンペーンですから「使って応募」ではなく、「商品PR動画を見て応募する」という施策です。まさに9月上旬スタートなので、結果はこれから。今後は、動画マーケティングにも積極的にチャレンジしていきます」

—それは反応が楽しみです!また結果のお話も聞かせてください。ありがとうございました。

蛇足:私はこう思いました
 SNS施策の醍醐味は「自社の製品がユーザーの生活にどのように溶け込んでいるか」を知れること。これは数字だけで見ることはできませんが、マーケターだけでなく開発者や社員全体のモチベーションにも繋がる大事な効果で、取材をしていく中で多くの担当者さんが「うれしかった」とお話しされます。そこでの新たな発見を上手に次へ繋げることが力が継続的なコミュニケーションの厚みになっていくのではないかと感じます。
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