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やっぱりジャーナズムはおもしろい-「働く、編集者」(加藤晴之著)

 30代のころだろうか。「新聞記者ほどおもしろい仕事はない」と思っていた時期があった。社内の記者とはもちろん他社の記者と議論するのも大好きだったし、「記者以外の職種の人とは目指すものが違うので友達にはなれないのではないか」と思ったこともある。
 今は反対に、社内や業界内の飲み会にはほとんど出席しないし、「ジャーナリズム」という言葉を口にする人からはできるだけ距離を置きたいと思っている。今でも「新聞記者はおもしろい職業の1つである」とは思っているけど・・・。
 何が自分を変えたのだろう。
 恐らく数多くの自称「大物ジャーナリスト」に幻滅し続けてきたからだろう。「あなたにはジャーナリズムを論じてほしくない」という人たちが数多く存在するからだろう。
 加藤晴之氏は「ジャーナリズム」という言葉を口にするジャーナリストである。それはそうなのだが、加藤氏は「ジャーナリズムは不滅である」などといった理想論を吐くわけでもなく、霞を食べて生きている「“天上人”ジャーナリスト」でもない。「週刊現代」の名物編集長として、訴訟覚悟のキャンペーンも展開してきたし、販売部数にも気配りしてきた。覚悟もできているし、現実を見ることもできるわけだ。

 本の中で加藤氏が指摘しているように紙ベースのメディアは今、非常に苦しい変革期を迎えている。わたしは記者や編集者、カメラマンの今後の選択肢は2つしかないと思っている。1つは自分のスキルを徹底的にみがき、マーケットの急激な縮小の中においても生き残るプロ中のプロになるという道。もう1つは、カメラマンならカメラ教室の講師になるというように、自分のスキルを生かして周辺の産業に移動する、という道だ。
 前者の道を選択した人にとって、この本は非常に役立つノウハウが満載されている。覚悟もあり現実を見ることのできる加藤氏が、記者や編集者向けに自分の持つノウハウを洗いざらいぶちまけた本なのだから、ベテラン記者や編集者にとっても役に立たないわけがない。自分の行動の指針を「公共性」におくべきだ、という加藤氏の主張を忘れずに、ジャーナリストの道をまい進していただきたい。
 さて腰抜けのわたしは、後者の道を選択したわけだが、そんなわたしにとっても久しぶりにジャーナリズムのおもしろさを感じさせてくれた本だ。見た感じ硬派で恐そうなんだけど、大阪人の茶目っ気もあり、人間に対する愛情も豊富。そんな加藤氏の魅力をそのまま詰め込んだような本になっている。

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