検索キーワードに関連した広告だから効果が高いと認知されたキーワード広告。待ちに待ったインターネットらしい広告と絶賛され、効果が広く認知されたからこそGoogleは世界一のネット企業の座をつかんだ。しかしキーワード広告の登場は「ネットらしい広告」時代のほんの序の口であり、これからより多くの「ネットらしい広告」が登場してくると考えていることは「次世代マーケティングプラットフォーム 」に書いた通りだ。
キーワード広告を超える広告の新形態は恐らくソーシャルメディアの領域から生まれてくるのだろうとは予測していたのだが、Infinity Venture Summitにスピーカーとして登壇した米RockYou によると、FacebookなどのSNSの中で展開するウィジェットを使った広告がキーワード広告以上の効果を出し始めたという。ターゲティングとクチコミ効果が相乗効果を起こすからで、特定のノウハウを使えば広告のクリック率が30%に達する という。
米RockYouは、Facebook、Myspace、Ning、Friendsterなどの代表的SNSにウィジェットと呼ばれるブログパーツのようなプログラムを提供する会社。RockYouの提供するウィジェットは、こうした代表的SNSのどこでもトップ10に入るほどの人気のあるものが多い。すべてのSNS上のRockYouのウィジェットのアクセス数を統合すると、月間1億800万人のユニークビジター、月20億ページビューにも上る。この数字は、大手ポータルなどの主要サイトと同等の規模になっている。
具体的にどのようなウィジェットを提供しているのか、幾つか見てみよう。
likenessというウィジェットは、質問に答えることで友人との相性を判断するテストだ。例えば「休日に何をしますか」という質問に対し「テレビを見る」「ゲームをする」などの10個の選択肢の中から、あなたがしたいことを順番に選んでいくような仕組みになっている。友人の中で同じウィジェットを自分のページに取り込んでいて、同じ質問に答えた人がいれば、ウィジェットがその人との相性を数値化し表示してくれる。恋人探しのきっかけになることから人気の高いウィジェットで、Facebookの人気ウィジェットのトップ10に常に入っているという。 Speedracerは、バーチャルの車を作り、友達とレースで競うというゲームのウィジェット。レースで勝てばポイントを手に入れることができる。自分の車を好きなようにカスタマイズできるが、カスタマイズするにはポイントが必要になる。 Pieces of Flairは、 おもしろいフレーズが書かれたバッジや自分の信念が書かれたバッジを友人に送ることができるというもの。友人はそれを収集し、自分のページに張りつけることができる。
こうしたウィジエットは、人とのつながりをベースに利用が広がることからソーシャルアプリケーションと呼ばれている。 RockYouの最高技術責任者Jia Shen氏によると、ソーシャルアプリ上の広告はGoogleのキーワード広告を超える効果があると言う。 Googleのキーワード広告の効果が高いのは、検索キーワードに関連した広告や、ページ内のコンテンツにマッチした広告を表示するから。検索キーワードやコンテンツをベースに、ターゲティングされた広告が表示されるからだ。ところがGoogleのキーワード広告ではクチコミ効果はそれほど期待できない。ターゲットされたユーザー本人にはほぼ確実に届くのだが、その効果が周りのユーザーに広がることはあまりない。 一方でSNSは、人のつながりがベースになっているのでクチコミが起こりやすい環境ではあるのだが、広告はターゲティングされていないので、クリック率が非常に低い。GoogleはMyspaceの広告配信を担当しており、MicrosoftはFacebookの広告配信を担当しているが、「それほど高い効果は出ていない」(Shen氏)という。 Shen氏は「ソーシャルアプリは、ターゲティングとクチコミの双方の長所を取り入れているので広告の効果が高い」と指摘する。
例えばジョニー・デップの最新主演映画の広告を展開する際に、単にバナー広告を表示するのではなくlikenessのウィジエットを使って、「ジョニー・デップの過去の出演映画のうちどれが好きですか」という質問をした。バナー広告を表示しただけではクリック率が0.01%しかなかったのが、ウィジェットと同時に展開した場合はクリック率が0.65%に跳ね上がったという。 またPieces of Flairを使ってGapがブランド効果を狙って大統領選挙に関するキャンペーンを展開した。投票を呼びかけるようなバッジを友達に送ることでクチコミ効果が発生するわけだ。一週間で30万個のバッジが送られ、250万人のユニークユーザーによって600万ページビューを達成したという。
同氏によると、ウェブ全体の広告のクリック率は0.2% だが、SNSサイトではそれより低く0.004%から0.13%程度しかない。しかしRockYouのウィジェットの広告のクリック率は0.28% に達する。しかも特定のノウハウを組み合わせると、クリック率は30%に達するという。このノウハウは企業秘密のようで、具体的には教えてもらえなかった。「たまたまいい数字が出ただけではないのか」と意地悪な質問をしたところ「いや、同じ成果を繰り返して出すことができる」と自信たっぷりに語ってくれた。
もちろんこうした広告キャンペーンは、SNS上でなくてもウェブ上で独自に展開することも可能なのだが、人のつながりが既に形成されているSNS上で展開することで、すぐにクチコミ効果を得ることができる。ウィジェット上の広告だと、コミュニティーを形成する手間が省けるわけだ。 RockYouはサービス開始後わずか3カ月で100万ユーザーを達成したというが、これは既存のSNS上でウィジェットを展開できたからだと言う。各SNS上で展開しているウィジエットのユーザー数、アクセス数を集計すると、それ自体で大手サイト並みの規模があることは先に述べたが、RockYouはその規模をサービス開始後わずか3年で達成している。下の図を見ても分かるように特にFacebookがプラットフォームを開放してからの伸びが著しい。
一方でSNS側にもプラットフォームを開放するメリットがある。プラットフォームを開放することで、英Beboにしろ米Friendsterにしろ、プラットフォームを開放するとトラフィックが急増している。 Friendsterはプラットフォーム解放後にトラフィックが一時的に落ち込んでいるが、これはトラフィックが急増したためサーバーが一時的にダウンしてしまったのが原因という。Facebookは、プラットフォームを開放することで2600万ユーザーから1億2000万ユーザーに急増したという。
Facebookがプラットフォームを開放したことでユーザー数が急増したことを受け、他のSNSが次々とプラットフォームの開放を宣言している。GoogleもOpen Socialという共通でオープンな開発基盤の提唱を行っている。 Shen氏によると、SNSが持っているユーザーの属性情報は、RockYouなどのウィジェット提供者に公開されているという。属性情報を提供することでよりターゲットされた広告の配信が可能になるので、ウィジェット提供者とレベニューシェア方式で契約しているSNS側にとってもメリットがあるのだろう。Facebookに広告を配信しているadmob社のニレン・ヒロ氏も、以前取材した際にSNSがユーザーの属性情報を公開していると語っていた。このことを日本のネット事業者に話すると驚く関係者が多いかったが、それだけ米国のSNS事業者とウィジェット提供者は、持ちつ持たれつの関係になっているということなのかもしれない。ただプライバシーの問題もあるので、どういった属性情報を公開するのかはそのSNS次第だということらしい。
追記:クリック率を訂正しました。