1990年代初頭から記者としてまた起業家としてITスタートアップ業界のハードウェアからソフトウェアの事業創出に関わる。シリコンバレーやEU等でのスタートアップを経験。日本ではネットエイジ等に所属、大手企業の新規事業創出に協力。ブログやSNS、LINEなどの誕生から普及成長までを最前線で見てきた生き字引として注目される。通信キャリアのニュースポータルの創業デスクとして数億PV事業に。世界最大IT系メディア(スペイン)の元日本編集長、World Innovation Lab(WiL)などを経て、現在、スタートアップ支援側の取り組みに注力中。
米調査会社のガートナーがそう言っている。Softpediaの記事。
Gartner Technology Business
Research Insight reached the conclusion that even all the heavy
promotion of e-book readers during 2009 wouldn’t be able to match what
2010 would bring.
2009年の電子書籍リーダーのプロモーションもすごかったけど、2010年はこんなもんじゃない。もっとすごいって書いている。
ソニーなんかが早くから電子書籍リーダーを手がけているけど、本当に市場を開拓したフロンティア的存在は、アマゾン。アマゾンは、リーダーという機械と、通信回線、コンテンツ(電子書籍)、それにアマゾンが以前から持っている支払いの仕組み、などを1つのパッケージにして提供したことで、少なくとも米国内で多くのユーザーの支持を獲得した。
確かに、本のレビューとかを読んでいて、その本を購入したくなったらボタン一つですぐに注文できて、しかもその場でダウンロードが始まって、すぐに読むことができるのは便利。アマゾンのウェブサイトは本屋にまで出向かなくても、その場ですぐに注文できる利便性で、読書に関連する消費の形を1つ進化させた。そのアマゾンがキンドルを投入することで、注文から商品の受け取りまであっと言う間に終えてしまうというところまで、さらにもう1段階進化させたわけだ。
アマゾンのキンドルを受けて、アメリカでリアル店舗をチェーン展開する大手バーンズ・アンド・ノーブルがグーグルのアンドロイド搭載の電子書籍リーダーを持って参戦してきたし、来年にはアップルが電子書籍リーダーにも最適のタブレット型パソコンを発売する見通し。これは来年は本当に電子書籍が本格普及するのではないか、と僕でも思う。
さて読書に関する消費の進化は、ここまでアマゾンが一手に担ってきたのだが、次の進化はアップルやグーグルが担うことになりそうだ。なぜなら、アップルやグーグルが作った仕組みの上で、サードパーティーが電子書籍リーダーのソフトウエアの開発を競うからだ。iPhoneのアプリ市場AppStoreでは、電子書籍を読むためのアプリが既に500タイトル以上も売られている。アップルがタブレットを発売するとしたら、当然ながらこれらのアプリをタブレット上で利用できるようにするだろう。アプリ開発者は、読書を少しでも便利にできるような仕組みを競って開発するだろう。
読書を便利にする仕組みってどんなものがあるだろう。例えば便利な機能に各種デバイス間の同期機能がある。今でもiPhone上のキンドルのアプリは、キンドル本体と自動的に同期されるようになっていて、キンドルで読んでも、iPhoneで読んでも、どちらかの機器で最後に読んでいたページが常に最初に開くようになっている。
ほかには、例えば僕なら次のような機能がほしい。洋書を読んでいて知らない単語やフレーズがあれば、タッチ一つで翻訳してくれるという機能。タッチした単語やフレーズは自動的にデータベース化され、iPhoneの単語帳アプリに自動的に同期されて、ちょっとした時間のすきに暗記できるというような機能がほしい。
また一人一人がブックマークしたパラグラフやセンテンスがソーシャルブックマーク的に収集されて表示されれば、その本のどの部分がエッセンスなのか、読む前に分かったりするようになるかもしれない。
このほかにも、僕の凡人の頭脳では思いつかないような機能が今後登場するだろう。いや絶対に登場する。
つまりアプリ開発者が機能開発を競争することで、読書というエクスペリエンスは急速に変化、進化する可能性が大きいわけだ。
もし、ソニーやアマゾンが、自分たちの電子書籍リーダーをプラットフォームとして解放しなければ、どうなるか。よほど優秀な開発者を社内に何人も抱えてなければ、アップルやグーグルの読書アプリの進化に取り残される可能性があるだろう。
来年こそ、読書というエクスペリエンスが、これまでになかったほどの進化を始める最初の年である。紙の書籍を読むことよりも、何倍も何百倍も便利で楽しい電子書籍のリーダーに消費者が飛びつくのは間違いない。
今ある書籍の電子化をめぐって今だにいろいろもめているみたいだが、電子化に消極的な人を説得することに労力を費やすよりも、新しく出す書籍を電子書籍として出していけばいいと思うんだけど、どうなんだろう。電子書籍リーダーの普及を見て電子書籍を出版したいと思う著者は増えるだろうし、電子書籍の大成功を見て、今、電子化に消極的な人たちもいずれより積極的に電子化に乗り出すことになると思う。進化を促進したいのなら、進化を拒む中核部分よりも、進化を望んでいる周辺部分に最初に働きかけるべきではないだろうか。