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iPadの雑誌アプリの広告枠がすでに完売。iPadは雑誌の救世主となるか 【三橋ゆか里】

デジタル時代への取り組みに積極的なコンデナストやタイムズといった海外の出版社は、iPadの発売がアナウンスされた直後、雑誌のiPad版を開発することを発表しました。紙の雑誌の広告収入が激減し、媒体、また出版社そのものの存続が危ぶまれる中、なんとかその打開策となる施策を模索しているのが現状。まだまだ多くの出版社が足踏みしている状態ですが、雑誌のiPad版の広告の売れ行きが好調という、ほんの少し、その背中を後押ししてくれるような心強いニュースが。

そもそもiPadの発売に合わせてアプリを準備している雑誌は少数派、また手探りであるため広告枠が制限されているいう点はあるものの、多くの雑誌のiPadアプリで、その広告枠が完売しているそう。雑誌”Time”のiPadアプリは、ユニリーバ・トヨタ・フィデリティといった大手広告主を獲得。8号分の”Time”で、毎号一箇所の広告枠が20万ドル(3/28時点の為替レートで約1849万円)で契約されたそうです。また、”The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)”のiPadアプリには、Coca-Cola(コカ・コーラ)やFedEx(フェデクス)といった計6社の広告主が登場する予定。4ヶ月間の広告パッケージが40万ドル(3/28時点の為替レートで約3699万円)だそうです。中には、紙の雑誌の広告主であることを、iPadアプリへの広告掲載の条件にしている出版社もあるみたい。このモデル、価格設定についても試行錯誤が続きそうですね。

広告の価格については、まだ発売もされていない、つまりリーチできる読者数が定かではないデバイスなのに高すぎるという広告主の声も。確かに読者の目に触れて何ぼの広告ですが、iPadで可能になる広告の内容やインタラクティブな要素を考えると、一概に高いとは言えない気がします。少なくとも最初のうちは、ダウンロード型のiPadアプリとして紙の雑誌のレプリカを提供する雑誌が多いようですが、ネットへの接続や動画、ソーシャルネットワークとの連携といった、iPadならではの新しいタイプの広告も検討されている模様。Time Inc.の”Sport lllustrated”は、動画を使った広告のプロトタイプをいくつか用意しているそう。中にはFord Mustangのドライブゲームや、欲しい車の色を自分で好きに変えて楽しめるような広告があるんだとか。コンデナストなどは、購入する広告数に応じて広告の機能レベルを分けることを予定しているそうです。

“Time”や”Esquire”といったiPadアプリの多くは、紙の雑誌と同じ価格帯で販売される予定。Rodaleの”Men’s Health magazine”の4月と5月発売のiPad版には、おまけの10ページが加えられ、価格は紙と同じ$4.99だそう。これまでも”Hearst(ハースト)”で、iPhoneを含むデジタル化の試験媒体として活躍してきた”Esquire”は、広告は一切いれず、紙の$4.99より2ドル安い$2.99での販売を予定しているそう。定期購読モデルも検討されているようですが、まだどこも具体的なプランは発表していませんね。まずは1号ごとの売れ行きを見てから、といったところでしょうか。

ブログやツイッターなどで、今や誰もが情報の編集者・発信者になれる時代。そして雑誌や新聞は、その存在意義や価値を再認識する必要に迫られています。オンラインの有料課金モデルでも色々試されているけれど、まだしばらくトライ&エラーは続きそう。出版業界の救世主として、iPadへの期待は高まる一方。でもコンテンツを提供する上で、iPadはあくまで一つのプラットフォームに過ぎません。読者にとって有益な情報を、いかにシームレスに提供できるか。試行錯誤しながらも色々チャレンジし続ける出版社の姿勢は立派だと思う。日本の出版社にも、積極的に動いてほしいと思います。そう遠くない未来に、何かしらの光が見えてくることを願ってやみません。

【追記 2010年3月30日】
“The Financial Times (FT)”と”The Wall Street Journal(WSJ)”のiPadアプリ版の定期購読料が明らかになりました。FTのiPadアプリは2ヶ月間無料。無料期間が終了後は、FT.comと同じ1週間$3.59 (52週分)、年間190ドルがかかるそう。時計メーカーのHublotをスポンサーとして迎えることで、2ヶ月の無料期間が実現したみたい。WSJのiPadアプリの価格は$17.99/月とお高い。紙版も購読している読者は、1週間$1.99、約8ドル/月で提供。iPadアプリはWSJオンライン版の2倍することになります。

【スタッフブロガー】三橋ゆか里

肩書きウェブディレクター。ディレクションの他、翻訳やライティングなど、フリーでお仕事してます。ツイッターIDは”yukari77“。

個人で運営している【TechDoll.jp】というサイトで、海外のテクノロジー、ソーシャルメディア、出版、マーケティングなどの情報を発信しています。目指せタイムリーな情報発信!

これまで雑誌のECで→UIデザインのコンサル→ウェブ制作会社などを渡り歩いてきました。そこで得たスキル、人、全部かけがえのない財産。幸せの方程式は、テクノロジー(UI, IA..)×マーケ×クロスカルチャー×書く・編集。いま一番夢に近いとこにいる。

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