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薄利多売が新聞の生き残り策=ジョブズ語録@D8

 Wall Streeet Journal主催のイベント「D8」でスティーブ・ジョブズ氏は「新聞を救いたい。そのためにできる限りのことをしたい」と語った。ジョブズ氏によると、経営難に陥る米国の新聞社を救済する唯一の方法は、コンテンツの薄利多売だという。

 わたしもそう思うし、実は多くの新聞関係者も心の奥底ではそのことに感づいていると思う。だが薄利多売を実現するには、新聞業界の大幅なリストラが不可欠で、新聞関係者はそれを受け入れたくないだけのことなんだ。


 日本版engadgetのジョブズ氏の発言の抄訳から新聞に関する部分を引用させてもらおう。

自由な社会の基盤は出版・表現の自由にある。米国の新聞業界になにが起きているかはみな知っている。(新聞は)非常に大切だと考えている。ブロガーの国になったアメリカは見たくない。(観客から拍手) 編集者がこれまでになく必要になっている。

インターネットで最大のコンテンツ販売者のひとつとしていえることがある。価格は積極的に下げて、量を狙うこと。われわれはこれでうまくやってきた。いまは出版業界にこれを分からせようとしている。印刷とは違うやり方が必要だ。人々はコンテンツに対価を支払う意志があるとわたしは信じている。音楽やビデオについてもそうだし、メディアについても同じだと考えている。

 「編集者がこれまでになく必要になっている」の部分の「編集者」は原文ではeditorialとなっている。ジョブズ氏はこの言葉を「ジャーナリスティックな機能」という意味で使っている。言いたい放題のブログだけではだめなんだ。民主主義には、社会的使命感を持った新聞の存在が不可欠なんだ。ジョブズ氏はそう力説しているわけだ。

 新聞、雑誌などのコンテンツホルダーに取り入るためのリップサービスとも受け取れるが、実際にこう考えるアメリカ人は多い。米国人は、自由、民主主義、ジャーナリズムといったような表現が大好きだし、ジャーナリズムシンポジウムなどに多くの聴衆が集まったりする。わたし自身、米国で幾つかのジャーナリズムシンポジウムに参加したことがあるが、参加者の多さとその熱気に驚いたことがある。日本でも2、3の同様のシンポジウムを経験したが、参加しているのはジャーナリズム志望の学生と新聞関係者ぐらいで、閑古鳥が鳴いていると言ってもいい状態だった。

 さて社会として新聞を存続させる必要があるとして、では新聞記事の配信をどのような形にすれば新聞業界が存続できるのだろうか。

 「価格を下げて量を狙う」ことだとジョブズ氏は言う。音楽もアプリも、そうすることで課金ビジネスが成立している。コンテンツがすべてフリーになるというわけではない。消費者は価格が低ければコンテンツにお金を払うものなのだ、というのがジョブズ氏の主張だ。

 恐らくその通りなのだと思う。多くのデジタルコンテンツは無料化の方向に向かう。そうした大きな流れはあるにせよ、iTunesやAppStore、さらには日本のi-modeのように、過渡期において課金が成立する仕組みを作ることが不可能でないことは既に実証済みだ。

 だが、ジョブズ氏が気づいていながら語っていないことがある。それは新聞記事の価格を下げるためには、業界全体の大幅なリストラが必要ということだ。薄利多売が成立するためには、業界が寡占状態でなければならない。3000円の新聞を300円にするには、購読者を1000万人から1億人に増やさなければならない。つまり競合他社に潰れてもらわなければならないわけだ。

 なんの根拠もない数字だが、新聞業界は現在の規模の2割程度に縮小さぜるをえないだろうという主張がある。2割というと、半分の新聞社が倒産し、生き残った新聞社の従業員の給料が半減する、というような規模だ。

 この未来を受け入れたくないから、できる限りの時間稼ぎをしている。それが世界中の新聞業界の現状である。だから市場が値下げをどれだけ求めていても、新聞などのコンテンツ業界はそれに応じようとしないわけだ。

 新聞社がGoolgeやAppleに対抗できる企業になれるわけもない。なので会社として業界として、行くところまで行くしかないのだと思う。

 だからこそ大事なのは、中の人たちが自分のキャリアをどう開いていくか、なのだと思う。その未来が訪れる前に何をすべきか、なのだと思う。

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