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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
ダイヤモンド社は20日、岩崎夏海著の小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の発行部数が22日に100万部を達成すると発表した。表紙の女の子イラストとビジネス書というミスマッチングに目を奪われた人は多いと思うが、なぜ社会現象といわれるような状況になるまで売れたのでしょう。
この本は、高野球部の女子マネジャーが組織をまとめようと参考になる本を探しているところ、書店店員に間違ってピーター・F・ドラッカーの名著「マネジメント」を勧められたところから始まる小説型指南書。通称「もしドラ」と呼ばれ、ドラッカー・ブームの牽引役になってます。IT業界は組織力が最も重要ですので、TechWave書評として書かせて頂きました。
なんでこんなに注目されるの?
まだ手に取ってない人は、アニメ風イラストの表紙から、まさか、これがビジネス書とは思っていなかったのではないだろうか。筆者も、この表紙から購入を長らくためらっていた一人だ。しかし、この本は、元ネタとなったドラッカーの書籍のように読むのに難しいようなものではない。スラスラ読める単なる小説なのだ。ドラッカーを読んだことがなく「どの辺がドラッカー?」という人も少なくない。
筆者が思うに、このギャップが人気の秘密ではないかと思う。「ドラッカーなのにこの表紙」「読んでみたら相当手軽」「けど要素はドラッカー」という3つのギャップが、いわばツンデレ(始めは難しく、後は好感触)の成功といったらいいか。
ストーリー
本書の主人公は高校2年生の川島みなみ。学業中心の進学校の野球部を「甲子園に連れていく」と決め、それを実現するために、ドラッカーのマネジメントを読み進み、それを自分なりに実行していくストーリーです。
彼女が本書にはまっていった始めの出来事は「マネージャーの資質」という部分でした。実際の会社でも、勘違いマネージャーは一杯いますが、彼女も本当に自分にマネジメントができる資質があるかドキっとしたようです。しかし、ドラッカーの言葉には、多くの人に希望を持たせる一言がありました。(以下、ドラッカー本のエッセンシャル版(記事末に紹介)から引用)
始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。
インパクトのある一文。川島みなみは、このフレーズを見て、さめざめと泣き続けます。この涙。人間としての資質を再確認することの怖さ。人間の可能性の偉大さに感動するこの涙の存在を重視するこの内容こそが、本書最大の魅力といえます。
マネジメントのエッセンスを理解できる最高の媒体
本書は、ドラッカーの「マネジメント」のエッセンスを少しずつ、(かなり変わったシチュエーションの)野球部運営に適用していきます。ちょっと強引かもしれませんが、ドラッカー本における「顧客とは誰か」を、野球部にも適用しようとしたり、部員や監督の確執の理由を、マネンジメント的切り口で分析し、解決方法を考え、実際に実行するあたりは、マネージャー志望でなくとも幅広いケースに応用できそうです。
マネジメントの対象は当然ながら組織です。組織を構成するのは人ですから、小説というキャラが立ち、ケーススタディの語り部となる媒体に説明してもらうのはとても有効に作用します。リアリティ&イマジネーションをもって理解でき、かつ印象の残りやすい。本書を読み通した後、ドラッカー「マネジメント」を読む効果がさらにアップするんです。
この本のもう一つのいいところは、実社会おける打算的な人々をシニカルに描いている点です。内申書に響くから、社会に出たとき体育会系は有利だからと、計算ずくになっている頭でっかちから、本当に野球がしたいが実力がないと失望する人まで。彼らをマネジメント本の様々な立役者に見立て分析していく様は、圧巻です。
人間性をえぐり、問題や課題と対峙し、目標にむかって前進していくメインストリームは、マネジメントという人間組織の有り体の本質と相まって、小説における物語と調和していきます。小説の中の何気ない一言。荒削りな文章もありますが、全ての登場人物が主役並に取り上げられ、人物像が浮き彫りになるだけに心に響きます。
ドラッカー本に筆者が好きな言葉があり、それが本書でも引用されています。
人は最大の資産である。
どんな組織にも人がいる。全ての人には確かな資質があり、強みがある。その強みを生産性につなげていくことがマネジメントの本質だということを再認識させてくれます。
そういう意味では、マネジメントは「生きる」ということ、つまり人間性の追求のような気がします。自分の資質、同僚の資質を裸でぶつけあい、真摯に目標へのにじり寄っていく姿。そこには激しい衝突があるかもしれませんが、同時に強い生命力に感謝することなるのだと思います。
あとがき
始めにこの本を読了した時、筆者は書き手としてとてもねたましく思えました。IT系の世界で、難しいものを誰にでも理解できるようにと長年活動してきましたが、この本はまさにその骨頂点です。こうした書籍を執筆できるチャンスを得た著者の岩崎夏海さんの実力と幸運を引きよせる才能に嫉妬しました。そして、この本に出会えたことを、本当に嬉しく思えたのです。
(増田(maskin)真樹)
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1990年より執筆およびネットメディアクリエイターとして活動を開始。
週刊アスキーを初め、日経BP、インプレス、毎日コミュニケーション、ソフトバンク、日経新聞など多数のIT関連雑誌で活躍。
独立系R&D企業のマーケティング部責任者の後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの立ち上げに参画。帰国後、ネットエイジでコンテンツディレクターとして複数のスタートアップに関与。ニフティやソニーなどブログ&SNS国内展開に広く関与。
現在、複数のメディア系ベンチャー企業にアドバイザー・開発ディレクターとして関与。大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。書き手として、また実業家として長年IT業界に関わる希有な存在。
6月17日 翔泳社より「Twitter情報収集術」を発売。
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