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Facebookのローカル広告参入は何を意味するのか(2)【湯川】

 前回のFacebookのローカル広告参入は何を意味するのか(1)では、ローカル広告インフラの覇権をめぐってGoogleとFacebookは当然競合するし、FacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏は戦っていく気満々であることを指摘した。今回は、どちらが有利になるのか、長期的にはローカル広告インフラをめぐる位置情報インフラの覇権を握ることが何を意味するのか考えてみたい。

ローカル広告市場を手にするのはだれだ

 GoogleとFacebookの戦いの行方を決める大きなポイントは、買い物という行為がどの程度ソーシャルな行為なのだろうか、ということだ。

 Zuckerberg氏の指摘する通り、地図周りのサービスではGoogleが完全に先行している。Androidケータイも順調にシェアを伸ばしてきているし、同じような方法でFacebookがGoogleに勝利することはもはや不可能だ。

 それでもFacebookが戦いを挑むのは、Facebookにはソーシャルグラフ(誰と誰が友人であるという人間関係のデータ)という武器があるからだ。

 このソーシャルグラフという武器がどの程度威力があるのか。このことを見極めることが、ローカル広告の覇権争いのみならず、あらゆる広告、あらゆる物販の今後を読む上で重要になってくる。


 渋谷でぽっかり時間が空いたときに、地図アプリを立ち上げると自分の友人が3人が居酒屋に集まっていることが分かる。「4人集まればパーティー割引」のクーポンまであと一人足りない。3人のうち一人が「もう一人友達来て」というサインを出しているー。

 こういう状況ではソーシャルグラフを持っているFacebookが圧倒的に有利だ。

 ほかにも、foursquareなどの位置情報アプリで、友人がお勧めしているレストランや、メニューがあれば試してみたくなるという人は多いはず。グルメサイトの星の数よりも、友人のお勧めのほうが影響力があるのではないだろうか。

 しかしこれらの状況以外はどうなのだろう。例えばユニクロに友人がチェックインしていたとしても、そこで購入する衣類に影響力を及ぼすことができるのだろうか。

blippyに見るソーシャルショッピングの原型

 上記の居酒屋やレストランなどの例以外で、ソーシャルグラフがユーザーの購買行動に影響を与えることができるのだろうか。具体的なサービスがない状況では、なかなか想像できない。そこで現在既に米国で始まっているソーシャルショッピングのサービス「Blippy」をベースにして、少し想像力をかき立ててみよう。

 Blippyにアクセスすると、Facebook上で見慣れた友人の顔写真が表示されている。Facebookと連携しているのでこうしたことが可能なのだが、友人の顔写真があるので安心感があり、登録へのハードルを下げる効果がある。

 登録は簡単。Facebookとのデータ交換を承認しますか、という問いに「yes」と応えるだけだ。それで自分の顔写真やその他のデータがBlippy側で利用できるようになる。

 まずはgmailアカウントを登録するように勧められるので、勧められるがままに自分のgmailアカウントを入力してみた。そうするとBlippyは僕の最近のメールの中から請求書やレシートに関連するデータを探し出し、最近Amazon.comで息子のために購入した本を表示した。

 そこでこの本の簡単な感想を書き、推薦するかしないかの項目をチェックし、Facebookでシェアするにチェックマークを入れてPublishボタンを押せば、この情報がFacebook上の僕の友人のページに表示された。

 gmailの中身を読まれるのはさすがに気持ち悪いので、すぐにアカウントを削除し、gmailのパスワードも変更したけれど・・・。

 ただほかにもデータを自動読み込みする方法がいろいろあるようだ。米国の有名小売チェーンの名前とロゴがずらっと並んでいる。これらの小売店のアカウントでも同様のことができるのだろう。

 その中から大手スーパー「Walmart」を選んで、クリックしてみた。

 Walmartのアカウントを持っていないので入力しなかったが、gmail同様にアカウントを連携させれば購入したものすべてに対して、その情報を友人と共有することが可能なようだ。もちろんどの商品の情報を共有するのか、1つ1つユーザーが判断するという選択も可能だ。

 大手食品スーパー「Safeway」のアカウントとも連携できるようなので、Safewayのコーナーをいろいろ見て回った。

 チーズを試しにクリックしてみた。このチーズについてコメントしているユーザーがいる。このユーザーに対して「Nudge」でレビューを書くようにNudge(つつく)したり、「Ask」で質問できるようになっている。

 これがソーシャルショッピングの原型だと思う。

 将来は、どこか地元の店舗に入ると自動的にアプリが立ち上がり、その店で購入した経験のある友人の顔写真が表示され、友人のレビューを読めたり、その場で友人に質問したりできるようになるのだと思う。

ソーシャルはECも変えるのか

 さて僕はこうした仕組みがオンラインショッピング、つまりECサイトにまで影響を与えるようになるだろうと考えている。

 ECサイトの運営者たちは、自分たちの領域をオンラインに限定して考えているかもしれないが、これからはオンラインとオフラインが融合してくる。オフラインで力を持った仕組みがオンラインの領域まで侵食する可能性は十分にある。

 例えば先ほどのSafewayのチーズのページに「Get this from Safeway」という表示がある。Safewayのサイトに注文できるようになっているわけだ。

 地元の店で友人がお勧めする商品を探してもない場合、「オンラインで注文する」というボタン1つで購入できるようになっていれば、利用するユーザーは多いと思う。

 これからの小売業は、オンライン、オフラインという分け方ではなく、ソーシャル、非ソーシャルという区分になっていくのだと思う。どういう商品が、友人との関係性の中で売れ、どういう商品が個人の判断で売れるのかを見極めて、販売チャンネルを構築していかなければならないのだと思う。

 ではどういう商品がソーシャルの環境でより売れるのだろうか。まずは映画、音楽は間違いなくソーシャルな商品だろう。書籍もソーシャルで売れる側面が強い。

 一方で、カツラなどはだれにも知られずに買いたい商品なのかもしれない。

 ただそうした商品も、匿名のコミュニティのソーシャルな関係性の中でなら売れる可能性がある。工夫次第でかなりの商品がソーシャルの仕組みの中で売れるようになるのではないかと思っている。

 衣類だってそうだ。衣類の本来の機能は、寒さから身を守るためのもの。その目的だけなら、クローゼットにいっぱいになるほど洋服を買う必要はない。我々は衣服を通じて自分自身をプレゼンテーションしている。自己表現している。そのために衣服を購入している。

 つまり衣服は、非常にソーシャルな環境に影響されやすい商品なわけだ。人気歌手と同じような衣服を購入したい人、友人と同じような服がほしいのだが、まったく同じ服は嫌、という人。そうした人間関係の中の細かな消費者ニーズに対して応えることができるようなソーシャルな仕組みをうまく設計できた企業が今後、大きく成長するのだと思う。

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