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斉藤 徹
ご存知の方も多いかと思うが、先週からGoogleとFacebookが激しい小競り合いを続けている。
争点は、ソーシャルグラフの持ち出しについて。つまり、GmailとFacebookにおけるデータ相互互換性の問題だ。以下、簡単に今までの経緯をまとめておきたい。
10月7日
Facebookは「ユーザー自身が情報をコントロールするべき」として、Facebookにアップロードした情報をダウンロードできる機能を追加した。ただしその情報(友人リスト内)には友人のメールアドレスは含まれていない。また現在、日本語版は未対応だが、言語を英語にすると利用可能だ。(Gigazine参考記事)
11月4日
Googleが「Google Contacts Data API」の利用規約を変更。Facebookなど、外部サービスがGmailの連絡先データを一方的に自動インポートする機能を遮断した。彼らが求めているのはデータの相互公開であり、友人メールアドレスをExportさせないFacebookはそれにあたらないとした。(ITmedia参考記事)
11月8日
Facebookは、Google Gmailからデータを取り込むための巧妙な回避手段を発表、すぐに運用を開始した。直接Facebookに取り込むのではなく、一旦ユーザーのPCにダウンロードさせてから、再度Facebookにアップロードするという手順で、これはどおり「Gmailで知り合いを検索」すると自動的に実行される。こちらはすでに日本語化されている。(TechCrunch参考記事)
11月9日
Googleは「Facebookの回避策を避難し、Facebookが友人リストを外部公開する機能を開発しないことに失望しているが、GoogleはGmailデータのExportを妨げる考えはない」と表明した。それに対して、Facebookは「友人メールアドレスは、本人が入力したものではなく、友人が入力したものなので、それはExportすべきデータに当たらない」と対抗するとともに、過去においてGoogleはOukutからFacebookへのExport機能を停止したことがあり一貫性がない」と反論した。
11月10日
Googleは、Facebookが用意した回避プログラムを実行したときに表示させる「警告画面」を急遽挿入した。そこでは2択質問が用意され、いずれかを選択する必要がある。(1)データExportを許さないFacebookに抗議する (2)FacebookからExportできないのを覚悟でデータをダウンロードする
現在、ボールはFacebookの手にある。そして、この顛末を最も詳細にレポートし続けているのは、TechCrunch編集長のMichael Arrington氏。しばらく中立な立場をとっていたが、最新記事では、Googleサイドに傾きつつあるようだ。
・Facebookよ、手遅れにならないうちにユーザーデータをユーザーの手に戻せ (11/11)
この中で、彼は次のように指摘している。
- これはユーザーが希望していることだ。同時にユーザーにはその権利がある。
- これほど巨大化したFacebookには、インターネットのエコシステムを健全に維持する責務が生じている。またFacebookがサービスをデザインし、利用ルールを設定するにあたってはユーザーの希望が考慮に入れられねばならない。
- Facebookはユーザーデータを公開しない理由について、ユーザーやマスコミに―今日も―嘘をついている。彼らの動機は「ユーザーを保護すること」などではない。
- Facebookが先月リリースしたユーザーデータのエクスポートのためのツールは問題から目をそらさせるための煙幕に過ぎず、まったく不十分なものである。
- Facebookに残された時間は少ない。司法省もクラス訴訟の弁護士もこれほど絶好のチャンスをいつまでも見逃してはおかない。
Arrington氏は過激な論調で知られており、かなり大胆な意見となっているが、筆者も一部同意したいところがある。特に上記の2についてだ。
Facebook利用者は世界中で5億人を超え、さらに10億人普及についても強い自信を表明している。そして、Facebookが獲得するであろうポジションは、電話やメールに変わる「世界のコミュニケーション・インフラ」だ。電話やメールはその仕様が公開され、多くの企業が参入することで、健全な競争が成立している。それに対して私企業であるFacebookが、それらに代わる社会インフラとなった場合、その影響力は現在のGoogleの比ではないだろう。
現に、米国の若い世代のメール離れは顕著であり、Facebookが当然のように連絡ツールとして使われている。過去に日本でもmixiのサーバーがダウンした際、一部のmixiヘビーユーザーの連絡網が断絶したため大きな騒ぎになったが、こと左様に、ソーシャルネットワークは、依存しはじめると生活に欠くことのできないインフラと化し、ライフラインとなってゆくのだ。
また、世界中のソーシャルグラフ(メールアドレスなど)やインタレストグラフ(Like情報など)をFacebookが独占することは、検索・広告・コマースすべてのキモを握ることに等しく、その影響力だけでも現在のGoogleをはるかに凌ぐものとなるだろう。
・ 「ソーシャルグラフ」ってなんだろう? (6/21)
ソーシャルネットワーキングはネットワーク外部性の極めて強いサービスのため、スイッチングコストを考えると、オープン化したとしてもFacebookの天下は揺るぎないはずだ。したがって、今回の論争是非はともかく、Facebookにはオープン化に向けて真摯に対応してほしいと切に願いたい。
参考まで、mixiもGmailとの連携機能を持っているが、ユーザーデータのダウンロード機能は実装されていない。Googleはmixiにも同様の主張をするのだろうか。そして、それは世界中のローカルSNSにも該当することに違いない。この点も注目したいポイントと言えるだろう。
さかのぼると、「ソーシャルグラフはオープンで相互互換性のあるカタチにすべき」とのコンセプトで「DataPortability.org」という非営利団体が結成されている。2007年のことだ。さまざまな紆余曲折を経て、IT業界のキープレイヤーの多くが参加するにいたったが、結局、MySpace、Facebook、Googleがそれぞれ独自拡張仕様を発表したことで、その構想はナシ崩し的に無力化してしまった経緯がある。
この巨人二社の論争がきっかけとなり、ソーシャルメディア業界が健全にオープン化へとむかい、真の意味でソーシャルグラフがユーザーの手に戻る日が来ることを待ち望みたい。
【関連記事】
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著者プロフィール:斉藤 徹 (さいとう とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役
2005年が創業。国内での企業向けSNS構築分野でトップシェアです。
(ミック経済研究所,アイティーアール社 2008年調査にて)
現在は,企業コミュニティを単体で捉えるのではなく,多様なソーシャルメディアと有機的に結びつけ「クチコミ動線」を設計・構築・運用するコンサルティング・ファームとしての色合いを強めています。
書籍・コラム・ブログは個人活動ですが,ビジョンとノウハウは,ループス社員一同で共有しています。創業テーマである Socialmedia Dynamics を見つめながら,ソーシャルメディアやクラウドソーシングの分野で高い専門性を磨き続けたいと日々励んでいます。(といっても全く堅い人間ではないです。 特に夜は柔らか過ぎと定評です)
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