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日本三大SNS、2010年7-9月期業績比較【ループス斉藤徹】

[読了時間:7分]
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役
斉藤 徹

 日本三大SNSサービスの、2010年7-9月期の四半期決算発表が出揃った。

 3ヶ月前の記事では、「ハイブリッドモデル」(自社ゲーム+オープンゲーム)で先行したモバゲータウンが他社を圧倒するも、成長鈍化のきざしがある ことを報告した。一方、約半年遅れて「オープン化」したGREEはページビューが急上昇しはじめ、今後の再成長を予感させている。また、mixiは「ソーシャルグラフ・プロバイダー」という独自コンセプトを掲げ、国内でも普及しはじめたFacebookとの対決姿勢を鮮明に打ち出したことをレポートした。

直近決算発表に基づくmixi,GREE,モバゲーの業績比較 (8/16) 

 筆者がこの三社比較記事をはじめたのは2009年だが、そのころと比べて、三社を取り巻く環境は劇的に変化し、当時とは異なる対立軸が生まれはじめた。これを国内ソーシャルメディア事情としてまとめると次のようになるだろう。

 さらに、今後の国内メガソーシャルメディアにおける注目株として、国内最大規模のブログに加え「アメーバピグ」で急成長しているサイバーエージェントと、ついに念願の黒字化を果たした「ニコニコ動画」を擁するドワンゴが浮上してきた。
 
 この国内ソーシャルメディア市場の多様化を受け、恒例となっている当レポートも少しずつ進化させていきたいと考えている。今回の記事では、三大SNSに加 え、やはり同タイミング(3/6/9/12月)に四半期決算を発表した「Ameba」と「ニコニコ動画」を比較対象に加え、多面的な分析、考察を試みてゆ きたい。
 
 なお,この分析レポートは,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行してい る媒体資料を情報ソースとしている。当記事においては,それらの客観的な数値に基づき,できる限り公平な視点で各社の業績を比較することを心がけている。
  
■ 各社の最新四半期(2010年7-9月期)、全社業績比較

まず、各社の四半期決算資料に基づき、企業としての財務分析からはじめたい。

この中で「前期比」とは2010年4-6月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。四半期業績で比較すると、売上面ではDeNAとサイバーエージェントが群を抜いており、また利益面ではDeNAとGREEの営業利益率50%という驚異的な数値が目立っている。
 
■ 各社の最新四半期、ソーシャルメディア関連事業の売上比較

その中で、ソーシャルメディア関連事業のみを抽出し、その事業売上を比較してみたのが次のグラフだ。
 

 各社サービスとも会員数は1500万〜2300万人(後述)と均衡しているにもかかわらず、売上面で最大10倍超と圧倒的な差がついた。特に格差が大きいのは課金売上であり、ソーシャルゲームの収益性の高さが再認識できる。
 
 ソーシャルゲームがなぜここまで儲かるのか、その原理と収益方程式については次の記事で分析しているので、未読の方は参考にしてほしい。
 
「ソーシャルゲーム」はどうして儲かるんだろう? (7/20) 
 
 ただし、この収益性を支えているのは、モバゲー「怪盗ロワイヤル」、GREE「釣り★スタ」などの大ヒット内製ソーシャルゲームだ。 その意味では、50%の営業利益率の源泉は「ソーシャルゲーム・デベロッパー」としての収益にある。プラットフォーマーとして自社ゲームの効果的露出を図り、大量のテレビCMで利用者を動員し、絶妙のゲームチューニングで継続的なアイテム課金を促進する。これが超収益性を生み出す成功の方程式と言えるだろ う。
 
 
■ 各サービスの会員数とペーシビュー数の推移

 では、続いて各サービスの会員数(登録会員数)とペーシビュー数に関して、2010年の推移をグラフ化してみたい。

 会員数はそれほど大きな差はないが、ページビュー数に顕著な特徴がある。モバゲーとGREEの成長だ。2010年前半がモバゲー独り勝ち期間だとすると、2010年後半はGREE急追の期間となりそうだ。この半年はオープン化開始時期のずれにあたる。またGREE新ゲーム「モンプラ」のヒットなどもプラスに影響しているだろう。モバゲーはすでに日本の携帯総トラフィックに対して10%を越えており、当該分野においては上位均衡点に達したと見てよさそうだ。

 なお、この四半期から、mixiは会員数を非公開としたためログインユーザー数から推定、同様に、モバゲーはページビューを非公開としたため横ばいと推定した。また、ニコニコ動画のベービジュー数は四半期平均値から推定している。


 
■ 各サービスのARPU比較

 さらに,各社のマネタイズ特性を探るために,会員あたりの月売上高(以下、ARPU: Average Revenue per Userと省略)を比較をしてみたい。

 この表は,各サービスが会員一人あたり月にどのくらいの売上をあげているかを示している。例えばmixiでは、1会員につき、広告で 49円/月(広告ARPU)、会員課金で10円/月(会員ARPU)、合計59円/月(総ARPU)の売上を上げたということを意味している。

 広告ARPUで見ると、mixiはニコニコ動画に対して約10倍となっているが、金額差は44円/月と小さい。それに対して課金ARPUでは、モバゲーがやはりニコニコ動画の約10倍、金額差で326円/月をつけており、会員課金の差が直接業績の明暗に結びついていることがわかる。
 

 これは、会員ARPUのここ1年間の推移をグラフ化したものだ。そもそも会員ARPUは短期間で大きく変動しにくい指標ではあるが、この1年間のモバゲー会員のARPU、特に会員課金ARPUは、なんと2.5倍に急伸していることがわかる。

 伸びはじめのタイミングは、モバゲーがオープン化に先立ち、自社ゲームを複数投入したタイミングだ。特に日本最大のヒットゲーム「怪盗ロワイヤル」は、オー プン後も地道なチューニングを継続することで課金ユーザー比率や顧客単価を高めたことで知られている。Zynga最大の差別化要因もチューニング技術にあると言われているが、モバゲーのARPUと比較すると1/10以下(Facebookと国内携帯コンテンツの差も大きい)であり、世界でも傑出したマネタ イズノウハウを保有していることが推測できる。

「怪盗ロワイヤル」の舞台裏 - DeNA大塚氏インタビュー (8/5) 

 ただし、モバゲーの会員ARPUもページビューと同様、成長の限界に近づいている。したがって、モバゲーが今後も成長を続けるためには、クロスデバイス(PCやスマートフォンへの進出)やクロスボーダー(英語圏や中国への進出)が必須となることがわかる。これはGREEも同様であり、今後 はげしい陣取り合戦がくりひろげられることが予想される。

 なお、当四半期決算で、アメーバピグ内のゲーム利用ARPUが1000円を超えた(CNET記事)というニュースが報じられたが、これはゲーム有料ユーザーを対象にしたARPPU(Average Revenue Per Paid User)の金額だと推定される。
 
 
■ 各サービスの会員属性の比較

 参考まで,5サービスの会員属性(性別、年齢別属性)を比較しておきたい。

 従来は「10代のモバゲー、20代のmixi、30代のGREE」という印象が強かったが、ソーシャルゲーム普及とテレビ広告によってGREEとモバゲーの年齢属性はかなり近づいてきた。目をひくのはAmebaの高年齢傾向とニコニコ動画の男性傾向だろう。
 
 
■ ソーシャルゲーム分野、現状と今後の見通しについて

 

 最後に、最も変化の激しいソーシャルゲーム分野について、各社の現状と今後をまとめておきたい。
 
 まずはソーシャルゲーム・プラットフォーマーとして、mixi、GREE、モバゲーに、Ameba、ハンゲーム、さらにFacebookを加えて、それぞれの進出状況をまとめてみた。ただし、通常のソーシャル・ネットワーキング対応は含んでいない点をご注意いただきたい。(例えば、mixiや FacebookにはiPhoneアプリがあるが、あくまで自社ソーシャル・ネットワーキング機能のみであり、mixiアプリやFacebookアプリを稼働させるプラットフォームにはなっていない。そのため、この比較表においては未対応としている)
 

 
 注意したいのは、mixiとFacebookを除く4社は、それぞれプラットフォーマーとソーシャルゲーム・デベロッパーとしての顔を持っている点だ。この表では、あくまでプラットフォームとしての進出状況と今後の見通しを記載したもので、ゲーム・デベロッパーとしての進出状況は次のチャートに別途まとめている。

 現在、もっともすばやく多面的な展開をすすめているのがモバゲーだ。PCおよびスマートフォンアプリ分野においては、それぞれYahoo提携とngmoco買収によって着手済み、残すスマートフォンWebに関しても開発意向が表明されている。

 そして、先日大規模な発表を行ったmixiも進んでいる。この中では唯一、スマートフォンWeb上でソーシャルアプリが稼働できるようになっている。ただしFlashやHTML5を利用した高度なアプリケーションには未対応であり、これからの課題となるだろう。

 GREEは前2社と比較して対応が遅れているが、現在急ピッチで開発がすすんでいるようだ。元はてなCTOである伊藤直也氏や、元アルカーナ社長である原田和英氏など、業界大物のGREE入りが話題を呼んでいるが、それらを含め、今後のサービス展開に期待したい。

 続いて、これはソーシャルゲーム・デベロッパーとしての進出状況をまとめた表だ。プラットフォームとともに、DeNAがゲーム・デベロッパーとしても他プラットフォームへの積極進出している様が見てとれる。

 しかし、最大の注目株はサイバーエージェントだろう。子会社開発も含めると、mixi(6タイトル)、GREE(5タイトル)、モバゲー(14タイトル)、 さらにはFacebookやAmeba内にも多くのゲームを投入しており、すでに国内最大級のマルチ・ソーシャルアプリ・デベロッパーとなりつつあるの だ。ソーシャルゲーム売上も急増中で、この四半期では12.4億円と前期比約2倍となっている。

 そしてプラットフォーマーとしての野心も見逃せない。アメーバピグ(釣りゲーム、カジノゲームの2タイトル)内にソーシャルゲームを追加した他、9月には「Amebaモバイル」という携帯ゲー ム・ポータル(9タイトル)をスタートさせている。現時点では自社ゲームのみだが、将来的にはプラットフォーム化して、広くサードパーティのゲームを受け 入れるのではないだろうか。なお、アメーバピグとAmebaモバイルの売上比率(アメゴールドの利用比率)は6:4だが、タイトルを大量投入しはじめた Amebaモバイルが、より戦略的な位置づけになると推測される。
 
 
■ 今後、最重要市場はスマートフォンに
 
現在の主戦場である3G多機能携帯電話はこれからシェアが低下し,2012年には出荷台数ベースでスマートフォンに逆転されると予想されている。(ガートナー「Mobile Internet Report」予測値より) 
 
国内外スマートフォン動向を総まとめ – iPhone vs Android の先に見えるもの (4/26) 
 
 また日本国内の多機能携帯電話トラフィックも近い将来は頭打ちになることが予想されるため、ソーシャルゲーム関係者にとっては、PC、さらにはスマートフォンへの進出が極めて重要な成長戦略となる。
 
 ただし、ガラパゴス化していた多機能ケータイと異なり,PCおよびスマートフォンはワールドワイドな争いになる。しかもPCではFacebook,スマートフォンではAppleという覇者的存在がおり,プラットフォーマーとしての参入障壁は相当高い。
 

 この図内の「ホワイトスペース」としている最もチャーミングな領域は、「iPhone/iPad/Android」がカバーするスマートフォン/タブレット分野だ。
 
 それぞれの企業がこの超成長市場を狙って動きはじめている。特にゲーム横断コミュニティを提供するSGN(Social Game Network)ベンチャー「ngmoco」を買収したDeNA、中国レンレンや韓国サイワールドとアプリプラットフォームの共通化で提携したmixi、 さらには親会社であるNHNがLivedoorを買収したハンゲームの動きも見逃せないところだろう。

 他方、当記事内ではあまり触れなかったが、国内ソーシャルグラフをめぐるmixiとFacebookのシェア争奪戦も本格化してきた。mixiは、今後、Facebookファンページに相当するビジネス向けソリューションや、さらなる海外ローカルSNSとの提携に関して、積極的に取り組む意向を表明している。
 
【続編】Facebookは日本に普及するだろうか? (10/21) 
 
 ガラパゴス文化に守られ、独自に、世界でも類のないほど高度に成長してきた国内のソーシャルゲーム関連企業だが、ここに来て、一気にグローバル化の波が押し寄せてきた。すでにDeNAやGREEは声高に海外進出をビジョンに組み込んでいる。彼らがボーダーレスにはばたきはじめ、ジャパニーズ・ベンチャーの活力を世界に証明する日が来ることを切に願いたい。

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著者プロフィール:斉藤 徹 (さいとう とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役
2005年が創業。国内での企業向けSNS構築分野でトップシェアです。
(ミック経済研究所,アイティーアール社 2008年調査にて)
現在は,企業コミュニティを単体で捉えるのではなく,多様なソーシャルメディアと有機的に結びつけ「クチコミ動線」を設計・構築・運用するコンサルティング・ファームとしての色合いを強めています。 

書籍・コラム・ブログは個人活動ですが,ビジョンとノウハウは,ループス社員一同で共有しています。創業テーマである Socialmedia Dynamics を見つめながら,ソーシャルメディアやクラウドソーシングの分野で高い専門性を磨き続けたいと日々励んでいます。(といっても全く堅い人間ではないです。 特に夜は柔らか過ぎと定評です)

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