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音楽とインタラクティブの祭典、南仏「MIDEM」視察記【原田卓】

このところもともと音楽業界のカンファレンスだったのにIT関連の出展が増え、非常におもしろいカンファレンスに変身する例が増えている。Twitterを世に広めたことで話題になった米SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)もそうだし、南仏のカンヌで開かれたMIDEMもそうだ。MIDEMって、マイデムて発音するんだろうか?それともミデム?まあ言語によって発音が変わるので、欧米人はあまり気にしないんだろうけど。そのMIDEMに、Orinoco株式会社の原田卓さんが参加。その様子を寄稿してくれることになりました。原田さん、ありがとうございます。

[読了時間:7分]


Orinoco株式会社
原田卓

MIDEMというイベントを皆さんはご存知だろうか。おそらく音楽業界に精通した方じゃないとその名を聞くことはないと思う。MIDEMとは”Marche International du Disque et de l’Edition Musicale”の略であり、毎年1月下旬に南仏のカンヌで開かれている、音楽業界最大の展示会の一つだ。1967年に始まってるから40年以上続いていることになる。世界中からレコード会社、音楽出版社、マネジメント会社、小売りチェーン、音楽ジャーナリスト、そして新たな音楽ビジネスに携わるテクノロジー会社が一堂に集まるイベントだ。

デジタル時代のためのMIDEM – MidemNet

皆さんもご存知の通り世界の音楽市場、というより旧来のCD市場は下降の一途を辿り、IFPI (International Federation of Phonogram and Videogram Producers)によれば2010年のパッケージ音楽の売上げは2009年に比べて13%縮小している。その代わりデジタル音楽の売上げは全音楽市場の約25%を占め、そのシェアは上昇するばかり。

筆者も長いこと音楽ビジネスに関わってきたが、90年代後半から違法ダウンロードの脅威にどう立ち向かうかというテーマで業界全体が躍起になっていたが、その後iTunesや着うたの浸透でむしろデジタルを前向きに捉え、そしてソーシャル時代に突入した今はアーティストと音楽のファン・コミュニティーをどのようにして作り上げ伸ばして行くかというテーマに音楽業界全体が取り組んでいる。

MIDEMも新たな時代に照準を合わせ、旧来の音楽カンファレンスに加えて、数年前から音楽に関連する新しいテクノロジーを披露する場としてMidemNetという部門を設けている。そのMidemNetへの日本からの参加者が少ないということで、MIDEMの開催者であるReed MIDEM社より依頼を受け、弊社が日本における代理人業務を請け負うことになった。まずはこの目で見てみないことには何も始まらないということで、Reed MIDEM社に招待されてカンヌに赴いた。

一度は行ってみたいカンヌ

ニース・コートダジュール空港から約20キロ離れた美しい港町のカンヌ。港に停泊する豪華なクルーザーやヨット、海岸沿いの大通りに立ち並ぶ高級ブティック、レストラン、ホテル・・・やはりあの映画祭で有名な町なだけに何ともセレブな場所だ。MIDEMが開催されるPalais des Festivals et des Congresという大型施設はカンヌ映画際にも使われている。よくテレビや雑誌で見かけるレッドカーペットの行き先がPalaisだ。

MidemNetは大きく分けると大ホールで行われるキーパーソンによる基調講演とパネルディスカッション、音楽業界関係者に向けてプロモーションや配信方法など様々なテーマでデジタル手法を伝えるMidemNet Academy、そして最新のデジタルサービスを披露するMidemNet Labに分かれている。とにかくイベントが目白押しなので全てをカバーするのは不可能。MidemNet Labを中心に出席し、いくつかの大ホールでのパネルも見る、という日程を組んだ。

新しい音楽ベンチャーの出現 – MidemNet Lab


MidemNet Labのメインイベントは何といっても、最新の音楽系ベンチャーが各々のサービスをVCのパネルに向けてプレゼンをするPitch Sessionだ。モバイルアプリ、B2B、B2Cという3カテゴリーで最終選考に残った計30社がそれぞれ持ち時間5分でプレゼンをし、パネルから厳しい質問攻めに合う。過去にはここから出来て間もないMobile RoadieやSongkickが出てきたと聞く。

最終選考に残った30社をご紹介しよう:

モバイルアプリ部門
Airbuzz (France)
Amidio (Russia)
Bounce Mobile (UK)
Jammbox (Australia)
Khush (USA)
Mix Me In (USA)
NearVerse (USA)
Playmysong (Finland)
Songpier (Germany)
Steam Republic (Finland)

B2B部門
Audiomagnet (Germany)
Decibel (UK)
GigsWiz (Finland)
Interlude (USA)
Jingle Punks (USA)
MATIvision (Greece)
Merchluv (USA)
MusicHy.pe (New Zealand)
Next Big Sound (USA)
RootMusic (USA)

B2C部門
22tracks (Netherlands)
Geisha Music (Finland)
Play.fm (Austria)
Psnoar (UK)
Rockola.fm (Spain)
Shuffler.fm (Netherlands)
SongHi (Finland)
Thounds (USA)
Viinyl (Canada)
Zooz (USA)

各部門とも「これはすごい」と納得できるものから「絶対失敗するだろうな」と疑問符がつくものまで、ピンキリだ。大きな流れとしては、「アーティスト専用モバイルアプリやFacebookファンページを作れるDIYプラットフォーム」「ソーシャルでのデータを見やすく表示してくれるダッシュボード」「ソーシャルで大量に流れる音楽をキュレートしてくれるサービス」という分類が出来るように思えた。

その中で「これはすごい」「いいかも」と思えたのものを幾つかご紹介したい。

Jammbox (http://www.jammbox.com/)
オーストラリアの会社だが、このプレゼンの1週間前にDiscovrというiPad用のミュージックアプリをリリースしたばかりで、このアプリが世界各国のApp Storeのミュージック部門でトップセラーとなっている。ただ、CEOによればDiscovrは彼らにとってサイドプロジェクトに過ぎず、現在開発に力を入れているのがJammbox MagazineというiPad用の音楽マガジンだそうだ。Flipboardに音楽版といってもいいと思う。Discoverを見る限り、UIデザインに長けている集団。リリースは近日中ということで、とても楽しみだ。

Interlude (http://www.interlude.fm/)
アメリカで登記をしているが開発はイスラエルで行っている会社。動画に選択ゲーム性を与え、結果的に視聴者一人一人が違うバージョンの動画作り上げ、それを友達とシェアできるというプラットフォーム。言葉では説明できないので彼らのサイトの掲載されている使用例を是非試して欲しい。音楽PVや広告動画としても面白い使い方が出来そうだ。

Next Big Sound (http://www.nextbigsound.com/)
Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアにおけるアーティストの動向を計り、見やすいUIで表示してくれるダッシュボード。同様のサービスは他にもあるが、ここのは非常に見やすく分かりやすい。最初の14日間は無料なので試しに日本のレーベルやマネジメントも使ってみるべきなのでは。

RootMusic (http://www.rootmusic.com/)
BandPageという、Facebook最大のアーティスト用ファンページのDIYサービス。何と7万以上のファンページがこのBandPage経由でFacebookに作られている。Rihanna、Prodigy、50 Centなど超大物アーティストもこのサービスを利用している。

Shuffler.fm (http://www.shuffler.fm/)
オランダで数ヶ月前に立ち上がったばかりのベンチャーだが、数多くある音楽ブログでストリーミングされている音源をキュレートし、一つのネットラジオにしてしまうという、コロンブスの卵のようなアイデア。一週末をかけて作り上げたという。こんなシンプルなアプローチでもうまくキュレートすれば良いメディアが生まれる。

そして最終日に発表された各部門の優勝者だが、大方予想通りの結果となった。モバイルアプリ部門がJammbox、B2BがNext Big Sound、そしてB2CがShuffler.fmだ。この3つのベンチャーはそれぞれの部門で優勝したことによってより多くのレーベルやVCの注目が集まることになる。事実、発表会の直後のネットワーキングセッションでは3人のCEOと一言挨拶をしようと、多くのジャーナリスト、VC、レーベル関係者などが長い列を作っていた。

大物が登場 – 大ホールでの基調講演・パネル


Foursquare創始者のNaveen Salvadurai、Vivendi CEOのJean-Bernard Levy、そして日本からも夏野剛さんが基調講演やディスカッションに登場していたが、筆者が出席したディスカッションの中で一番面白いと感じたのがフランスの有名DJ・プロデューサーのDavid Guetta。Guetta氏はアルバムをこれまでに300万枚以上売り、年間150ものギグのために世界中を飛び回っている。そしていち早くFacebookに力を入れ、現在は1500万人以上のファンが彼のファンページを”like”、その数は未だ毎月100万単位で増え続けているのである。「アーティスト公式HP」なるものに力を入れるのが定石だが、彼ははっきりと「HPよりもFacebookが大事だということに何年も前に気づいた」と言い切り、選任スタッフも据えて様々なコンテンツをFacebookに提供したきた、と説明していた。何しろ何年も前から「ファンコミュニティーを作り上げ、対話をしていく」というのが音楽ビジネスの基幹だ。要するに音楽ほどソーシャル時代に合うコンテンツビジネスは無いはずなのだ。

何と言っても出会いが大事


日中のイベントをこなし、ヘトヘトになって会場を出ると、今度は楽しい夜のイベントが待っている。会場のPalaisはもちろん、カンヌの町中のレストランやバーがライブ会場に姿を変え、世界各国から集まったアーティストが夜な夜なパフォーマンスを繰り広げている。カンファレンス会場で、そしてライブ会場で世界各国の音楽とテクノロジー関係者と出会い、次のビジネスに繋がるチャンスが生まれる。音楽コンテンツホルダーとテクノロジープラットフォームが結びついて新しいビジネスが次々と生まれる。筆者も実際にMIDEMで出会った幾つかの会社と長期的な提携について今後話し合うつもりだ。

日本のベンチャーも参加しよう!


前段のPitch Sessionに残念ながら日本からのベンチャー企業が登場していない。勿体無いことだ。日本にも世界を舞台にサービス展開を狙うベンチャーがいるはず。彼らにもこのMIDEMに積極的に参加してもらい、ステップアップの機会にしてもらいたい。

南仏の美しい風景と食事が楽しめる環境の中で新たなビジネスチャンスに繋がる多くの出会い・・・MIDEMはそんな素晴らしいイベントだ。

2012年度MIDEMにご興味のある方はinfo@orinoco.jpまでお問い合わせください。

MIDEM日本語サイト:http://www.midem.jp
MIDEM英語サイト:http://www.midem.com
MIDEM YouTubeチャネル:http://www.youtube.com/midem

【ゲストブロガー】Orinoco株式会社・原田卓


1973年生まれ、37歳。東京に生まれるも生後数ヶ月でニューヨークに移住。リベラル中道左派の音楽家の家庭で育ち、幼少期から世界中を旅行し、音楽家やアーティストに囲まれながら育つ。1997年ソニー・ミュージック入社、海外契約業務に従事。2001年アマゾンジャパン入社、エンタテインメント部門統括。2005年アップル入社、iTunes Music Store立ち上げおよびマーケティングに従事。2006年アマゾンジャパン再入社、マーケティングおよびモバイル統括。2008年YOOXジャパン代表取締役就任。2009年より現職。米イェール大卒。
Email: taku@orinoco.jp
Twitter: @takumeister

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