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メディアの未来はデバイスにあり 進化する電子マガジン「Zite」【湯川】

[読了時間:2分]

 僕自身がメディア企業出身ということもあってオンラインメディアビジネスに関して意見を求められることが多い。「新しいニュースメディアを作ったので見てほしい」という相談を受けることもある。でもそうした「新しい」メディアを見せてもらうと、単なるパソコン向けサイトであることが多い。もちろんYahoo!ニュース的なサービスの見せ方を変えたり、「はてなブックマーク」的なアイデアを改良したりなどの工夫は見られる。しかしそれだけのことである。工夫を加えただけのことなのだ。

 これまで何度も書いてきたが、ビジネスモデルが確立したフィールドで新規参入しても先行プレーヤーを追いぬくことは並大抵のことではないし、シェア争いは結末がでるまで時間がかかる退屈な戦いになる。そんなところに時間と労力を使うより、新しいパラダイムに掛けるべきだと思う。21世紀に入ってからだけでも、2,3年から数年単位でネット関連ビジネスのパラダイムが変化している。そのパラダイムを先読みし、次のパラダイムで仕掛けるほうが、Yahoo!や「はてなブックマーク」、さらに言ってしまえばGoogle、Facebookに対抗するよりも成功する可能性が大きいと思う。

 オンラインメディアに関しては、今はタブレットという新しいパラダイムへと移行している。今年は比較的年齢の高い層にまで、タブレットを通じてネット利用が拡大するのではないだろうか。

 来年か再来年には、日本人のほとんどがスマートフォンユーザーになっている可能性もある。らくらくホンでさえAndroidベースになると言われているほどだ。それもまた新しいパラダイムである。

 そして数年先には、スマートフォン、タブレット、テレビまでもが、1つのOSでつながる時代になる。しかも人々は今以上に情報発信することに慣れて、ほとんどの人が情報発信者になっているだろう。ものすごい大きなパラダイムシフトになるのだと思う。

 パラダイムシフトが起るたびに、業界の勢力図が塗り替わる。i-modeの上位コンテンツ提供者が、横滑り感覚でスマートフォンのアプリ市場の上位コンテンツ提供者になる、ということはありえない。ほとんどが、一からの勝負になる。

 なので現状のパラダイムの王者に挑むよりも、新しいパラダイムに挑むべきなのである。

 その新しいパラダイムに挑戦する例として、新しくリリースされたZiteというiPadアプリを紹介したい。


 やはり長文を読む場合は、パソコンよりもタブレットが読みやすい、と僕は思う。最初のiPadは少々重かったが、もっと軽くなればタブレットは長文を読むためのデバイスとして広く普及するのではないかとも思う。

 ネット上のコンテンツを読むiPadアプリとしては、これまでFlipboardが人気だった。デザイン的にも優れていたし、細かな工夫もすばらしいアプリだ。しかし基本的にはTwitterクライアントを電子書籍風にアレンジしたというレベルのものだ。

 Ziteも、Twitterと連携させることで自分がフォローしている人たちのTweetの中に含まれるウェブページを集めてくるし、Google Reederと連携させることで自分が設定しているRSSフィードを取り込むことができる。ここまではFlipboardと同じだが、Ziteは一連の記事の中で実際に読んだ記事、読まなかった記事を自動集計し、個々のユーザーの関心の領域を把握する。そしてフォローしている人のTweetの中にも、RSSフィードの中にも含まれない記事であっても、関心の領域にある記事と思われるものは自動的に取り入れられる仕組みになっている。使えば使うほど、ユーザーのことを理解し、ユーザーにとってより価値のある情報を集めてくるようになっているわけだ。もちろん親指マークの上下を選択し、記事の評価を自ら入力することも可能だ。

Zite: Personalized Magazine for iPad from zite.com on Vimeo.

 この辺りのアルゴリズムがどのようになっているのかは不明だが、社員の多くがカナダのブリティッシュコロンビア大学のコンピュテーショナル・インテリジェンス研究所出身者だということなので、他社に真似のできない基礎技術を持っているのかもしれない。

 この技術がどの程度効果的なものなのかはしばらく使い込んで、その結果から判断するしかないと思う。ただ恐らく言語解析なども含まれると思うので、日本語の情報にはうまく対応できないかもしれない。僕自身、Twitterでフォローしているのは日本人が大半だが、僕のTwitterアカウントと連携させても日本語の記事は一本も表示されなかった。

 残念なことではあるのだが、ということは逆にビジネスチャンスである。同様のことが日本語でできないか、日本語解析の技術を持っている研究者の協力を得れば、同様のアプリを日本語で作ることができるかもしれない。

 Yahoo!Japanに対抗意識を燃やす新聞社や、雑誌社、オンラインメディア企業は、ぜひこうした領域に挑戦してもらいたい。もしくは2年後、数年後にくるパラダイムシフトに照準を合わせてサービス開発に取り組んでもらいたい。はっきり断言しておこう。パソコン向けのオンラインニュースサイトのシェア争いで、Yahoo!Japanにはもはや勝てない。絶対に勝てないのだから。

 メディアの未来は、変化するデバイス環境の中にある。いいコンテンツを作るだけでは、メディア企業に未来はない。

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