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[読了時間:8分] 蛇足、蛇足返し、返しの返し、そのまた返しの追加で読了時間が増えました。
TechWaveの姉妹ブログメディアMarket Hackが、マイクロソフトのスカイプ買収はシナジー絶大という記事をアップしているが、MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏も同様の考えで買収を決めたもようだ。米ZDnetのMicrosoft関連情報専門ブログAll about Microsoftが入手したBallmer氏がMicrosoft社員に送付した電子メールによると、同氏はSkype買収の第一の理由に、Microsoftの人気ゲーム機XBOX 360の入力装置Kinectとの相乗効果を挙げている。
We see with Kinect the power of using the biggest screen in the house – the living room TV screen – as the place where people connect with friends and families.
Kinectを使うことで、テレビという家の中で最大のスクリーンが、友人、家族とつながる場所になると思う。“Together, Microsoft and Skype will deliver that kind of communication and connection. In the future, Skype will support Microsoft devices like Xbox and Kinect, Windows Phone and a wide array of Windows devices, and we will connect Skype users with Lync, Outlook, Xbox Live, Messenger and other communities.
将来はSkypeはXboxとKinect,Windows Phoneや幅広いWindowsデバイスをサポートし、そしてLync、Outlook、Xbox Live、メッセンジャー他のコミュニティーとつながっていく。
もちろんKinectのほかにも同氏は、モバイル機器やオフィス系システムとの相乗効果も挙げているのだが、最初にKinectとのシナジーを指摘するのはやはりそこに一番期待しているからと見ていいだろう。
Kinect for Xbox 360が1000万台突破 ギネスが世界記録認定【湯川】 : TechWaveという記事にも書いたが、kinectはMicrosoftにとって久々の大ヒット商品。これと月間1億2400万ユーザーを誇るSkypeをつなげようというわけだ。確かに相乗効果は絶大だ。
Skypeはテクノロジー系のアーリーアダプターには当たり前のように利用されているのだが、ユーザー層をマスに拡大するのに時間がかかっているような印象。事実わたし自身、仕事関連以外の友人とSkpe通話したことはまだ一度もない。
そこにiPhoneが登場し、Skypeと競合するビデオチャットのFaceTimeを投入してきた。iPad2にもFaceTimeが搭載されたので、個人的にはSkypeよりもFaceTimeを使うことが増えてきた。iPhone、iPadの普及速度を見る限り、Skypeを押さえてFaceTimeがビデオチャットチャットの王座につくのではないかと思い始めていたところだ。
このままではコミュニケーションビジネスの中心部分を、Appleに押さえられてしまう。そう考えたのでMicrosoftは、85億ドルという同社過去最大の買収を決意したのだと思う。iPhoneとiPadでAppleがマスを取る前に、Kinect接続テレビとSkypeで、Microsoftはマスを狙おうというわけだ。
十分に納得出来る戦略だと思う。
問題は買収額だ。このビジョンを達成するために支払った85億ドルという買収金額を高いと見るか、妥当と見るか。
英語圏のブログやTwitter、株式市場関係者の反応を見る限り、「高過ぎる、多く払い過ぎ」という反応が多いようだ。
わたし自身は、判断を保留にしている。高いか、安いかは、MicrosoftがどのようなビジネスをSkypeの周辺に構築できるのかにかかっていると思うからだ。
わたしはSkypeのような音声やビデオチャットの仕組みは、今日のテキスト中心のコミュニケーションに代わり、いずれネット上のコミュニケーションの中核になると考えている。そしてコミュニケーションの中核の仕組みは、例えていえば明治、大正、昭和における鉄道のような役割を果たすのではないかと思っている。その時代の阪急、東武などといった私鉄会社は、鉄道を敷いた地域の不動産業やデパートなどあらゆるビジネスに乗り出し巨大産業を形成していった。鉄道が周辺ビジネスを育て、周辺ビジネスが鉄道利用を加速させた。
同様に音声、ビデオチャットの周辺に今後多くのサービスが誕生し、それら周辺サービスが音声、ビデオチャットの利用をさらに促進するようになるのではないか、と考えている。そうした相乗効果を産むようなエコシステムが完成すれば、Skype買収は85億ドル以上の価値を産むようになる可能性がある。
そうなるのかどうか。今のところわたしには分からない。可能性があるのは分かるがMicrosoftにできるのかどうか、分からない。なのでわたし自身、買収額か妥当かどうかは分かりません。読者のみなさんはどう思いますか?下のコメント欄にご意見をお寄せください。
確かにKinectは良いデバイスでXbox360ユーザーに大受けし、PCにも接続できるようになることで期待値も高いもの。ただ、Xbox360は当初からボイスチャットやらfacebookやら連携をしており、ボイスについてはオンライン対戦で普通に使用している状態で(パッケージにヘッドセットが同梱されるわけです)、別にそれがSkypeに代わったからといってそれほどのインパクトはないと思う。また、ビデオチャットについてもPS3を含めコンソールゲーム機(据置き機)を使用している人はよくいる。じゃあ、それ以外の何になるのか? わからないんだけど、創業者でP2P技術などに強いニクラス・センストロームがSkypeに戻っているので、彼のイノベーションを期待した何かを生み出そうとしているのではないだろうか。才能を買ったのだとしたら、買収額にプレミアが加味されてもおかしくない。
あともう1点、Xbox360は日本でのシェアが極端に低い状態。それとビデオチャット、ボイスチャットは最近増加しつつあるものの、日本人はとても苦手(文化的にだと思う)で、MS社などは当然理解しているはず。それも単に対話だけの話ではないという感じがする理由のひとつ。
いや、Skypeの強みはマルチプラットフォームとブランド力にあるんだ。
ビデオチャット自体は、AppleのFaceTimeもあるし、GoogleはGmailでGtalkできる。それにもともとMicrosoft自体もメッセンジャーを持っている。だから技術自体がすごいわけじゃないし、MicrosoftがKinectのビデオチャットをSkypeに変えたところで、ユーザーエクスペリエンスが変わるわけではない、というのはマスキンの言う通り。違うのはコミュニケーションする相手が格段に広がるということ。
これまでのマイクロソフトのビデオチャットのユーザーは、マイクロソフト製品のユーザーが中心だった。AppleのビデオチャットはAppleユーザー、GoogleはGoogleのユーザーが中心。各社ともそれぞれの「領土」があったわけ。新興ビデオチャットに押され気味とはいえ、Skypeのユーザーはすべての「領土」にまたがっている。このすべてのユーザーがマイクロソフトのユーザーとくっつく意味はとてつもなく大きいと思う。
コミュニケーションデバイスって、電話もそうだけど、相手が増えると利便性が急拡大するものだから。
それと途上国でのSkypeのブランドはすごく強いというのも大きな魅力の1つだと思う。
それとなんども言うけど、日本人って自分たちが思っているほど特殊じゃない。「文化的な特殊性」を理由に普及しないと言われてきたサービスのほとんどは時間をかければ日本でも普及している。Wikipediaやブログなどのように。
Skypeが当初から展開してきた電話会社としての地域展開つまり、世界におけるユーザー分布は確かに魅力的。EU圏はもちろん、ブラジル、中国、発展途上国など、通信が整備されていない地域におけるブランド力の高さは特筆すべき点で、収益的にうまくいっていなくても買収の価値の一つになったと思います。
ただ、マルチプラットフォーム展開はMessengerを筆頭に色々な分野でやってきたわけで、SkypeがMicrosoft製となったからといって大きな効果があるかどうかが見えないわけです。アプリにMS関連サービス連携機能をつけたりするのありでしょうけれど、黒字が見えない事業に一人あたり13ドル超(ユーザー数6億と推定して買収額から負債の5億抜いて単純に計算)で利用者を買収するのは高過ぎるといわれて仕方ない。
だから現存のプラットフォームのきせかえベースで考えてないと思うんです。そこにきてKinnectの話。Xbox LIVEの会員は2300万人以上(2010年2月発表値)云々の話ではなく、Kinnectというキラーアプリケーションを軸にお茶の間市場を再度開拓しているんじゃないかって。やっぱりゲーム機はゲームに過ぎないわけで、XboxではなくKinnectのテクノロジーとSkypeのP2Pテクノロジーを融合した、次世代のプラットフォームを構築しようとしているのではないかという読みです。Skypeにはクライアント端末をサーバー化し、中央集権型(まあクラウドでもいいわけだけど)のリソースを消費しないような仕組みがある。それをうまく利用した安価なデバイスを作るのではないか。今までのビデオチャットでは現在があるけど、Kinnectをインターフェースとしたより吸引力の強いテレビ用デバイスが生まれたら、納得すると思います。
希望的観測に過ぎないけど。SkypeとConnectが主語になった新しいストーリーが出てきて欲しい。
そろそろまとめ。
マルチプラットフォーム戦略は、あのAppleだってFaceTimeをWindows向けに開発しているくらい、大手はどこもそれを志向している。でもSkypeほどには成功しているところはない。Skypeは、iPhone上でも、Androidケータイ上でも、Windows上でも、Mac上でも、しっかりとユーザーベースを持っている。だからSkypeを買収する意味は大きい。
でもユーザー獲得コストとして85億ドルは、払い過ぎだよね、というのはだれもがそう考えている。ユーザー数が増えれば増えるほど利便性が幾何学に向上するコミュニケーションビジネスにおいてでさえも、「でもやっぱり払い過ぎだよね」ということでだれも異論はない。
なので何か思惑があるはずだろう、ということになる。
AppleがiPadとiPhoneをFaceTimeで結ぶことによって、よりマスに近いユーザー層を囲い込もうという戦略なのに対し、Microsoftはモバイル機器に搭載されたSkypeとテレビに接続されたKinectを結ぶことによって、より早くより多くのマスのユーザー層を囲いこもうとしているのではないか。Ballmer氏も、社員に宛てたメールの中でSkypeとKinectがつながることの相乗効果に真っ先に言及していることからも、そうした読みが一般的だと思う。
「モバイル+タブレット」でマスのコミュニケーションビジネスを狙うAppleと、「モバイル+テレビ」でマスのコミュニケーションビジネスを狙うMicrosoft。Microsoftは結構いい動きをしているように見える。
問題はこの先だ。不透明な点が2つある。僕は鉄道の比喩を使ったけど、ビデオチャットが昭和初期の私鉄の役割を本当に果たすかどうか、ということがまず1点目。
私鉄会社が鉄道を引くことで、傘下の不動産業やデパート運営を成功させたように、ビデオチャットを広くマスにまで普及させることで、その周辺に新しいビジネスチャンスが台頭する可能性がある。僕はそんな感じがするんだけれど、本当にそうなのだろうか。ビデオチャットは、鉄道ほどのインパクとはなく、バス路線ぐらいにしか新規産業振興に寄与しないのではないか。僕自身も、絶対に自信があるとは言えない。
そこのところでまず意見が分かれるのだと思う。
そしてもう1点は、Microsoft自体に、そうした新しいビジネスのフロンティアを迅速に開拓していける力があるのかどうか、というところ。
結構多くの人が、Microsoftにはもうそんな力はないと考えているみたいで、発表後のTwitter上の反応を見ても悲観的な意見が圧倒的に多いように見受けられた。
マスキンの言うところの「Kinectをインターフェースにしたより吸引力の強いテレビ用デバイス」で「新しいストーリー」を作ることをMicrosoftは考えているのかどうか。またもし考えていたとして、その考えを実現する力がMicrosoftにあるのかどうか。それが問われているのだと思う。