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「極から個の時代」とビジネスチャンス VCの視点【小野裕史】

[読了時間:3分]

 独立系ベンチャーキャピタルのInfinity Venture Partnersの小野裕史(@8ono)さんから寄稿していただいきました。小野さんは、投資家というより事業家。有望なベンチャー企業に投資すると同時に経営に参画し事業を立ち上げでこられました。これまでにGroupon Japanや、Rekoo Japanなどの立ち上げに大きく関与されておられます。目先の数字だけで投資するのかどうかを判断するのではなく、大きな潮流を読んだ上で投資先を選んでいるといいます。今回は、その大きな潮流と、その中でどういったビジネスチャンスがあると思うのかということにフォーカスした原稿を執筆してもらいました。(湯川)

小野裕史(@8ono)

 最近「ソーシャル」という言葉がちょっとしたブームになっています。いろいろな側面からこの言葉が語られることが増えてきていると思います。しかしわたしは「ソーシャル」の本質は、「極から個への移行」にあるのではないかと考えています。

 マスメディアもそうだし大手情報サイトもそうですが、これまでは情報が大きな「極」だけに集まっていました。情報が一極に集中していたわけです。ところが、最近ではFacebookのように個人が発信する情報の重要性が増しています。マスコミの出す情報以上に個人が動かす情報のほうが力を持つようになってきたわけで、世界的に見てもエジプトやリビアの政変もそうですし、個人のレベルでも欲しい情報が検索よりもTwitterなどの横のつながりで早く的確に見つけられるようになってきています。

 この「極から個への移行」が進んでいけば、社会は大きく変わるのではないかと思っています。近い将来にも株式会社という組織さえなくなるのではないでしょうか。会社という枠組みにとらわれているほうが、力が出せないような世の中になりつつあるのではないかと思います。

 また「ソーシャル」というと個人間のつながりに焦点が当てられることが多いと思いますが、わたしはそうした「つながり」よりも、個人がその「つながり」の中で力を出せる環境になってきたという側面こそが重要なのではないかと認識しています。

 ではそうした「極から個への環境変化」の中でどのようなビジネスチャンスが生まれつつあるのでしょうか。この大きな潮流の中で幾つかキーワードが出てきていますが、そのキーワードごとにビジネスチャンスを見ていきたいと思います。


・リアルタイム

 情報が極からではなく個から発信されるようになってくると、情報の洪水状態になります。そうした状況の中では、リアルタイム情報により多くの価値が生まれるのではないかと考えています。Twitterのタイムラインを読んでいてもそうですが、1時間前の情報より直前の情報、今ながれてきたばかりの情報のほうが相対的に価値があります。1時間前の「雨が降り出した」という情報より、今ながれてきた「雨が降り出した」という情報のほうが、これから出かけようという人には価値があるのです。ですのでリアルタイムデータは、今後のビジネスにおいて重要になってくると考えています。

・ローカル(O2O/Online to Offline)
 これも「リアルタイム」というキーワードと同様の意味で、重要だと考えています。「極から個」への流れに伴う情報量の増大傾向の中で、「時間軸」で見ればより重要性が増すのがリアルタイム情報。これを「空間軸」で見れば、より重要性が増すのがローカル情報という結論になります。情報の重要度は、都道府県別の情報から、数km圏内の情報、数百m圏内の情報というようにローカルになればなるほど、増してくるだろうと思います。遠く離れた人の「雨が降り出した」という情報より、数百メートル圏内にいる人の「雨が降り出した」という情報のほうが重要だということです。

 特にローカル情報は購買活動に結びつくようになると思います。今はまだリアル店舗での購買活動の総額と、オンラインショッピングの総額を比較すると、リアルのほうが圧倒的に多いと思います。

 ネットショッピングをよく利用する人でも、オンラインのクレジットカード決済総額とオフラインのクレジットカード決済総額を比較すると、まだまだオフラインでのクレジットカード利用のほうが多いはず。

 しかしすべてではないにしろ、オフラインの購買活動のかなりの部分が、オンラインに影響されるようになるのではないかと考えています。オンラインのレストランやショッピングなどのローカル情報が密接にからんでくるはずです。ということは今後オンライン・ツー・オフラインは非常に大きな市場規模になるはずです。 経済産業省によると日本の消費者向けEC市場7兆円程まで伸びてきてますが、オフライン含めた消費者向けサービス業界のEC化率はまだたった2%ほどといいます。98%もの巨大市場が眠っている事になります。

・セキュリティ

 個の存在が重要になってくると、個が発信する情報や、発信するのに使うスマートフォンなどのデバイスのセキュリティも重要になってくると思います。その人がどこにいるのか、どういったトランザクションをしたか、という情報がトラッキングできるようになるわけで、そうした情報をどのように守るのかという分野は、ビジネスとして成長領域であると考えています。生命保険や医療保険に加入するような感覚で、今後は情報のセキュリティを守る仕組みに加入するのが当たり前になってくるのではないでしょうか。

・Q0L(Quality 0f Life)

 より良く生きたいという欲求のために人はお金を支払うと思います。楽しい時間を過ごしたい、趣味を楽しみたい、育児に力を入れたい、などという欲求のために人はお金を払うものです。特に先進国の間では、基本的な生活に余裕が出てくるにつれ、こうした領域にお金を費やすようになってきています。

 今後、特に個の時代になり、会社の午前9時から午後5時までの拘束から解き放たれる人が増えてくれば、余暇に費やす時間が増えてくるのではないでしょうか。そういう人たちが費やす金額は、世界的に見れば巨大な市場になるように思います。いわば富裕層ビジネスという表現になるわけですが、世界的なレベルで見れば日本人の多くは富裕層という見方もできるわけで、決してニッチな領域のビジネスではないと思います。

 こうした成長が期待できる領域の中で、幾つかのビジネスが既に登場しています。ここで2つだけ簡単に紹介しましょう。

MY Webwill(https://www.mywebwill.com/)
 これは自分が死んだあとに、Twitterのアカウントやブログ、Facebookなどのソーシャルメディアを管理するためのサービスです。生前に、もし自分が死んだ場合にどのソーシャルメディアのどの情報を削除し、どの情報を保管するか、保管された情報はだれに公開するのか、などということを決めておくことが可能です。死んだあとに、友人に公開するメッセージや写真のURLをメールで送るということを、あらかじめ設定しておくことも可能です。

 わたし自身、亡くなった祖父の日記を偶然見つけて衝撃を受けたことがあります。祖父がどのような人物で、何を考えて生きていたのかが手に取るように分かる非常に価値のある資料で、祖父の日記を通じて、直接的には教わらなかった多くのことを祖父から教わったように思います。

私たちは大量のライフログを、意識せずにどんどん作り出して生活しています。そのログは強烈な価値を持ち、人生のアルバム的な存在になるのだと思います。誰しもが親や兄弟、配偶者、親友など自分に取って大事な人たちの人生を知りたいし、誰しもが生きた痕跡を後世の世代に残したい。そういうことを考えれば、このビジネスは非常に大きな価値を生むのではないかと思います。今ソーシャルメディア上にばらまいている自分の人生にかかわる様々な情報を、どのように集約して、どのように残していくのか。これは今後非常に大きなテーマになるのではないかと考えています。

freelancer(http://www.freelancer.com/)
 世界中のフリーランサーにプロジェクトを発注できるサービスです。ほんとうに様々なフリーランサーをウェブ上で探すことができます。
 たとえばウェブサービスを立ち上げるにしろ、次のように、あっという間にサービスインすることが可能なわけです。
1.ドメイン取得(リテラシーがあれば可能。インド人に依頼。わすか数分で達成)
2.コンテンツ生成(テキストベースで定型化。アメリカ人に依頼。数十分程度)
3.デザインを作成(先進国の人に依頼)
4.SEMを依頼(インド人に依頼)

 このサイトはこの一年間で劇的にトラフィックが上昇しています。グローバルのランキングで300位以内に入っているほどです。
補足:Alexa ランキング http://www.alexa.com/siteinfo/freelancer.com

 こういうサービスがあれば、極端な話、明日会社をクビになったとしても、今よりも儲かる仕事が見つかるかもしれません。


著者プロフィール:小野裕史(@8ono)
インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー
1974 年生まれ、札幌出身。大学院在学中より個人でモバイルメディアを複数プロデュースし、2000 年より株式会社シーエー・モバイルの創業に関わる。モバイルメディア、コマース、コンテンツなど複数の事業を立ち上げ100 以上のモバイルサイトの立ち上げをリードし、モバイルビジネスのリーディングカンパニーにまで成長を導く。
2008 年1月に株式会社シーエー・モバイル専務取締役を退任し、インフィニティ・ベンチャーズLLPを共同設立。
国内外にてモバイルを中心に投資活動を行う。
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