サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

「ネットで靴は売れない」に挑む ロコンドの徹底的顧客中心主義【秋里英寿】

[読了時間:6分]

 株式会社ジェイドの代表取締役、秋里英寿さんから寄稿していただきました。ありがとうございます。

 株式会社ジェイドは、ドイツの大手インターネット企業Rocket Internet GmbHの出資を受けて2010年10月に設立。その後、靴のECサイト「ロコンド.jp」の運用を昨年12月に開始し、今年2月15日からリニューアルオープンとして本格運用を始めたばかり。既に150人体制で、最初から一気に飛ばしていく構えだ。

 求人情報サイトDaiJob.comによると、Rocket Internetはインターネットインキュベーターとして、ファッション系EコマースサイトのZalaondo、Grouponに買収されたCityDealなどの立ち上げに成功しているという。

 実際に試し履きができないのでネットでは靴は売れないー。これがこれまでのネット上の「常識」だった。しかし米国ではそんな中、徹底的な顧客中心主義でザッポスが急速に売り上げを伸ばしている。TechWaveの読者なら、その辺りはよくご存知のことと思う。(参考書籍:顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか

 その成功を見てヨーロッパで同様の手法で成功をおさめたのが、独Rocket Internet傘下のファッションサイトZalaondoだ。そのRocket Internetの出資を受け、株式会社ジェイドがロコンド.jpが日本市場で「ネットで靴は売れない」の常識に挑もうとしているわけだ。

 ザッポスやZalaondoは、なぜ成功したのだろうか。その成功には、それぞれの国でのソーシャルメディアの普及が大きく関係しているというのが、関係者の間での主流の意見だ。

 テレビコマーシャルの軽快な音楽に乗ったシンプルなメッセージぐらいでは「ネットで満足できる靴は買えない」という先入観を超えることができない。ソーシャルメディア上での信頼できる友人が「この靴のECサイトは本当によかった」とつぶやいて初めて、「じゃあ僕も買ってみるか」という気になる。広くメッセージを伝えるのはマスメディアのほうが得意だが、説得力やメッセージの熱量では友人のつぶやきのほうがパワーも持つ場合が多い。そして「ネットで靴を買って、本当にだいじょうぶなんだろうか」という先入観、疑問、躊躇をを乗り越えるためには、それくらいの熱量やパワーが必要になる。なのでソーシャルメディアが広く普及したからこそ、ザッポスやZalaondoが成功したと言われているわけだ。

 大事なのは「信頼できる友人」というところ。自分と仲のいい人、自分が信頼する人とネット上で繋がっていなければ、必要な熱量を持った情報伝播は発生しない。ネット業界の用語で言うところのリアルソーシャルグラフが広がっていなければ、靴のECサイトビジネスは成功しないのだ。

 果たしてザッポス日本版とも言える「ロコンド.jp」は日本でも受け入れられるのだろうか。リアルソーシャルグラフの広がり具合を占う意味でも、ロコンド.jpの今後に注目したい。(湯川)


秋里 英寿
(@hide_akis)

 インターネットの靴屋さんロコンド.jp(www.locondo.jp)を運営中。昨年10月創業、現在従業員150名、参画ブランド300まで成長してきたロコンドが今、何を見据えてチャレンジしているかについて、先月のIVS@札幌の内容も交えた。

市場はまだまだ大きい!

 「足幅や甲高など、実際に履いてみないとサイズがピッタリ合うかどうか分からない」という消費者の根強い深層心理がある故、インターネットでの靴の販売はまだまだ未開拓な市場と感じている。

 ただ、それは言い換えると、「まだまだ計り知れない大きな市場がある」という事とも理解できる。実際1兆円を越える国内の靴小売り市場のEC比率は2~3%に留まり、まだまだ成長余地が大きく、靴市場だけで見ても1千億円超の潜在市場が眠る。非常に楽しみな市場である。

お客様のLIFEの一部になるコト

 「1万デザインを越える幅広い品揃え」「全商品送料無料・99日返品無料(返品送料も無料)」「迅速な発送」「365日フリーダイヤルのカスタマーサービス」がサービスの4つの柱。これはインターネットで靴を売る事の必要条件と考えている。履いてみないと買えない商品なので、家で試し履きをして頂こう、という発想で取り組み中。

 一方、これらはあくまでも必要条件であり、十分条件では無いと思っている。我々が目指している姿は「お客様の生活の一部となるファッションサイト」。そしてそれを可能にするのはPEOPLEだと思っている。インターネットでファッションを買う体験を、リアルの百貨店や小売店に負けない体験にしたい。インターネットはより便利では有っても、より不便ではありたくないと思っている。お客様の購入前相談(サイズ、フィッティング、コーディネート)にお答えするコンシェルジュやお支払い/返品/返金時にまつわる安心感など、ネットの世界にいながらもリアルに負けない”顔の見える”お店作りをしていきたいと思っている。

 Product、 Price、 Promotion、 PEOPLE。サービスインをしてから今のところ、ファッションコーディネイトやシューフィッティングや足のお悩みに関わる事など、幅広くコンシェルジュにご相談頂いており、いろんな可能性を感じる。「ネットショップなのに今までに無い対応!」、「リアルでのお買い物より便利だった。」など嬉しい実際のお客様の声を励みに、顧客との距離を縮めるべき今後も努めたい。

 これはある種の「ネットxリアル連携」に近い取り組みとも考えられ、”ファッション”という消費者の日常生活の根幹をなす「リアルな世界」と我々の「ネット上のサービス」をどれだけ上手に連携させ、世界を作っていけるか?にチャレンジのキモが有ると思う。また、矛盾するようだが、その突破口は、我々がどこまで「アナログ」なサービス運営が出来るかにかかっている。

 例えば、複数商品を当サイトから取り寄せ、人の目や時間を気にせず自由に自宅で試着とファションショーが出来るというメリット(もちろんお気に召さない靴は返品可)はネットを利用したリアル体験だと思っている。友人知人への靴のプレゼントも返品可能(サイズ変更可能)だから初めて実現できた演出と考えられる。人混みやお買い物が苦手な私にとっても嬉しい機能。

グローバルからのインスピレーション

 他のサービスでも見られる事でもあるが、海外にはインスピレーションの素になるサービスが多数ある。「靴のECサイト」という切り口で見ても、たくさんのプレーヤーが名を連ねる。下の図は海外と国内のファッションサイト(特に靴の取り扱いを中心とした)の月間ユニークユーザー(UU)の比較。皆さんがおそらくご存知のZappos.com(米)に加え、Zalando.de(独)、Asos.com(英)、soap.com/diapers.com(米)等、たくさんの名前が並ぶ。

 月間400万~1,300万UU(年間売上500~1,200億円)という大きさが既にありながら、今尚二桁成長を続ける驚異的な成長力は特筆すべきと思う。これは、消費者のLIFE(日常的な購買)の一部となったファッションECサイトが圧倒的な成長力を持ち得る事の傍証。日本にも大手のプレーヤーが台頭しているが、ロコンド.jpにとっての市場の広がりはまだまだ大きいと感じている。

最後に

 まだまだサービスインして間もなく理想にはサービスが届いていないが、1足1足に思いを込めて、大切なお客様へお届けして行きたいと思っている。近道は無く、皆様の忌憚ないご意見を頂戴し、一つ一つ積み上げながら、一日でも早くお客様のLIFEの一部になれるようにロコンド.jp一同頑張って参ります。


ロコンド.jpによる東北震災復興支援の様子
著者プロフィール:秋里 英寿

株式会社ジェイド 代表取締役、共同創設者
京都大学工学部卒、東京大学大学院理学系物理学科修了。ボストンコンサルティンググループのプロジェクトマネージャーを務める。2010年ロコンド.jp運用会社の株式会社ジェイド創業。

twitterアカウント:@hide_akis

蛇足:オレはこう思う

ロコンドに寄せられたユーザーからの感謝の手紙を見たことがある。ほかのECサイトで散々な目に遭ったあとでロコンドを利用したらしく「ロコンドはすべてが正反対でした」と絶賛してあった。ザッポス流の顧客中心主義はロコンドでも健在のようだ。

機械やボットによる対応ではこうしたユーザーの絶賛を得ることは不可能。だからこそ150人体制という、ベンチャー企業にとっては比較的しっかりとした体制を最初から取っているわけだ。この辺りも、ちょっと前のベンチャー企業には例のない、ソーシャルメディア時代のベンチャーらしいやり方だといえるかもしれない。

モバイルバージョンを終了