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信念を持って蓄積した15年のソーシャルの知見 武田隆著「ソーシャルメディア進化論」【湯川】

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 TechWave塾も第6期を終え、これまでに30人近くの企業経営者を講師として招いてきた。わたし自身、彼らから多くのことを学び、そのことを機会があるごとに塾生などとシェアしてきた。その中で「あー、その人の話が聞きたかったな」と言われる講師の一人が、コミュニティー構築、運営を請け負う株式会社エイベック研究所の武田隆さんである。

 武田さんは15年も前からインターネットの本質はソーシャルであると見通し、ソーシャルの研究を続けてきた人物だ。もちろん15年前には「ソーシャル」という言葉が現在のようにネット用語として使われることはなかったから、「仮想コミュニティー」と呼ばれていたように記憶している。呼び名は違えどコンセプトは同じ。インターネットの本質は情報の検索ではなく、ユーザー同士の交流である、ということだ。

 実際には、このネットの本質を理解していた人は少なからずいた。2000年頃には、仮想コミュニティーブームが到来し、コミュニティーサイトが数多く登場した。

 しかしそのほとんどは跡形もなく消滅していった。マネタイズ出来なかったり、コミュニティー運営の意義を見いだせなかったからだ。通信料の従量課金の問題や、限定的なユーザー層の問題もあったのかもしれない。

 その後は「コミュニティー」という言葉を発することさえタブーな状況になった時期もあった。わたし自身、何かのパネル討論会で「ネットの本質はコミュニティー」という自説を述べたら、別のパネラーの嘲笑をかったことがある。「いまだにコミュニティーって言ってるんですか。コミュニティー事業が成立しないってもうはっきりしたじゃないですか」・・・。

 恐らく武田さんも同じような経験をされたことだと思う。だれにも理解されない時期があったことと思う。武田さんに聞くと、一時期は非常に経営的に厳しい時期があったそうだ。それでも武田さんはコミュニティー構築、運営請負事業を続け、マーケティングデータを集め、コミュニティー活性化のノウハウを研究し続けた。試行錯誤でコツコツとデータとノウハウを集め続けた。武田さんを信じて冬の時代を生き抜けたエイベック研究所の仲間の一人は「もはや米国の成功事例にさえ学ぶところがないと思うほど、われわれで独自のノウハウを蓄積できたと思う」と語るほどだ。

 その後、ソーシャルの時代を迎えるわけである。


 2年ほど前にエイベック研究所主催のイベントに出かけたら、大きな会場が満席になっていた。その次の年の同じイベントは立見席が出る盛況だった。

 時代がエイベック研究所に追いついたのである。

 最近ではソーシャルを専門にするマーケッターや、オピニオンリーダーが増えてきているが、そうした新規参入組と武田さんの圧倒的な違いは、データである。だれもソーシャルに見向きもしなかった時期でさえ蓄積し続けたデータが大きな説得力を持つのである。

 武田さんと議論を交わす中で、意見が食い違うことがある。わたしは「絶対そうなるはずだと思う」と主張すると、武田さんは「言っていることは分かるのですが、ただ弊社のデータによると、そう考える人は◯%しかいないんです」と反論してくる。これには勝てない。詳細に集めたデータには勝てない。

 武田さんが持っている面白いデータに、コミュニティー活性化率というものがある。1つの投稿に対して、幾つ投稿が返ってくるかを調べた数字だ。何%だったかは忘れたが、この数字を超えるとコミュニティーが炎上する可能性がある。この数字を超えない程度にぎりぎりの活性化率を保つことがコミュニティー運営のかぎなのだそうだ。

 その武田さんが、これまでのノウハウを一冊の本にまとめた。これは全力でお勧めしたい。

 エイベック研究所によると、「花王、ベネッセ、カゴメ、レナウン、ユーキャン他、クライアント企業様より事例公開の許可をいただき、ソーシャルメディアを網羅的に分析し、『インターネットの心あたたまる関係』と『収益化』を両立する方法をわかりやすく解説した1冊が完成いたしました」という。

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書名 :ソーシャルメディア進化論

著者 :武田隆(たけだ・たかし)
出版 :ダイヤモンド社
定価 :1,890円(税込)
発行日:2011年7月29日(金)
ISBN  :978-4-478-01631-2

■内容目次
序 章 冒険に旅立つ前に

第1章 見える人と見えない人
ソーシャルメディアの成り立ちを時系列になぞりながら、
社会・メディア・消費、それぞれに訪れている変化の波を整理する。

第2章 インターネット・クラシックへの旅
インターネット誕生の歴史をひも解き、その思想的、
技術的背景がソーシャルメディアの本質に色濃く影響していることを示す。

第3章 ソーシャルメディアの地図
TwitterやFacebook等ネット社会の中心的存在となったソーシャルメディア。
それらを機能の違いにより4象限のマトリックスにマッピングし、
それぞれに潜む不毛性を暴く。

第4章 企業コミュニティへの招待
「インターネットの心あたたまる関係」と「経済効果」を両立しうる施策、
企業コミュニティ。
筆者自身が携わった約300社の事例をもとに
企業と顧客の関係構築の場を形成する過程を追う。

第5章 つながることが価値になる・前編
企業コミュニティを活性させ、収益化する技術は存在する。
ソーシャルメディアをマーケティングに生かしている企業の取り組みから
施策とノウハウを紹介。

第6章 つながることが価値になる・後編
消費者の声はいかにして新商品開発に取り込まれるのか。
MROCと呼ばれるソーシャルメディアを活用したマーケティング・リサーチの
最新手法。その誕生の経緯と成果を詳述。

終 章 希望ある世界
インターネットによって世界はひとつになりつつある。
その萌芽を示し、ソーシャルメディアによって刻々と変わりゆく
私たちの生きる社会のこれからを予見する。

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