サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

日本に必要なのは1億円単位で出資する「Series B特化型ファンド」【The Startup:Yuhei Umeki】

THE STARTUPというブログですばらしい記事をアップし続けているYuhei Umekiさんに、Umekiさんのブログとのダブルポストという形で寄稿していただきました。THE STARTUPとは目指す方向が同じですので、これからもどんどん寄稿していただこうと思います(湯川鶴章)


Yuhei Umeki
THE STARTUP

 最近は国内では本当にスタートアップ向けの資金の出し手のプレイヤーが増えてきた印象があります。事業モデルの見極めが仕事であるはずのVCだがレッドオーシャンに後発で参入していくことに抵抗はないのでしょうか。

 シードの出し手が増えたことにより、シードの資金調達の難易度は下がりわけのわからなさそうなサービスでも資金調達が容易に成功していたりします。シードでファンディングできてはいいものの次のステージは誰が面倒を見てくれるのでしょうか?100社あったシードステージのベンチャーから次のラウンド(シード=Aラウンドとすると、Bラウンド)に進めるのはどれくらいあるのでしょうか?確率は10%もないくらいだと思います。

*Series Bってどのステージだって突っ込みが必ず入りそうですが、私の中ではシード=Aで300-500万、Bは3,000万-1億くらいだと見ています。通常国内ではBでいきなり1億単位で入るディールは多くはないですが、1億単位で入れた方が事業推進のスピードが上がるので1億単位で入れるようなディールがもっと増えてきていいと思っています。

Series Bファンドは構造的にSeries Aファンドより儲からない?

 Series Bでの調達を検討できるスタートアップは、国内では1万人以上はユーザーがいてそれなりのアクティブユーザーがおり、それなりにサービスが伸びていくであろう兆候が見えてきたというステージではないでしょうか。

 シード投資が「ローリスクハイリターン」と思われているようだが、決して私はそうだとは思いません。たしかに出資金額は300万〜500万程度であり小さい額だが、全損する可能性はゼロではない。1/10が当たってくれればいいという感じであるが、ただの確率論であり外す可能性だって十分にある。根拠の薄いポートフォリオ論です。

 シードは「ミドルリスクミドル以上リターン」といえるかと思います。ミドルリターンと定義したのはだいたいAラウンドで入れた投資家は回収を急ぎたいので、BラウンドでAラウンドに投資した金額を取り戻す分のシェアは売却し、シェアは下がるため敢えてミドルリターンと置いてみました。

 一方でSeries Bでの投資ではある程度サービスの土台があり伸びる兆候があるという点では、そこまで大きな失敗はしないのではないかと思います。Bラウンドでの焦点は「サービスが伸びた後にどういうマネタイズの可能性があるか」ここに大きく当てられるケースが多そうですね。
このステージまで来ていれば、大きく外すことはないと思うのですが、次はラウンドCへ突入するか売却 or IPOでラウンドCなら株式譲渡などがない限りシェアは変わらず持ち続けることが一般的に見えるため、基本的には売却かIPOまでいかないとリターンはない。そういった意味では「投資金額を最低限回収できる」点ではAラウンド特化型の方が優れているかもしれませんね。

それでもSeries Bファンドが社会的には必要な理由。単純にそこのプレイヤーがいないから

 ビジネス単体で見るとSeries Aに特化した方がSeries Bよりリスクが低くVCからしてみると良いのかもしれませんが、Series Bで1億くらい突っ込み「売却やIPOまでの道筋を示せる」、そういうプレイヤーが今市場には少ないのでそんなプレイヤーが社会的には必要だと思います。

 このステージでそれなりの投資のプレゼンスを見せているのはGCPですが、彼らはファンドの総額が400億であるということと多分に関係しているのかもしれません。GCP1社ではSeries Bに進みたいスタートアップたちに取ってはあまりに選択肢が少なく、Series Bに進める力のある「それなりにイケているスタートアップたち」がGCP1社に群がるという構造はあまり健全とはいえない気がします。

 伊藤忠TVやCAVなどの事業会社系でプレゼンスの高いところにSeries B投資を期待したいところですね。

 伊藤忠TVはiQONへのGMOと同ラウンドでの1.4億の出資などはSeries B投資の良い事例だと思います。CAVは最近は韓国のカカオトークなどへの出資を発表しましたが、国内ではスタートアップの発掘に注力していく模様ですね。

 CAVこそ1億単位の投資でAmebaとがっつりシナジーを出すなど、GCPの対抗馬を担える数少ないポジションにいるVCだと思いますので、スタートアップに特化するのではなくBラウンドでスタートアップを吸収して事業シナジーを出し、引いては吸収合併などでのExitの選択肢を増やすなどしてみたら良いポジションかと思います。

 スタートアップ発掘は他社に任せて手を引いて、爆発する兆候のあるスタートアップにBラウンドで入るというのが賢明かと思います。

 私がCAVの中の人でしたら現在の国内マーケットを鑑みた上で、このポジショニングを取るでしょう。まだブルーオーシャンだし。

CAVに期待?

 具体例として挙げてみると「美人時計」は GCPのディールですが、Amebaと十分なシナジーがあるはずであり、億単位で投資することにより、「Ameba×美人時計 」とすることで美人時計は単体で頑張るよりも早くバリューが上がったのではないでしょうか。

 GCPは独立系でありCAVは事業会社系。CAVの方がAmebaというSNSとは違った強みのある媒体とのシナジーが組み方によってはかなりバリュエーション豊富に考えられます。(GREEもファンド活動を明らかにしましたが、あくまでSNS周辺分野への投資と見られます)nanapiとかだってAmebaとシナジーありそうじゃないですか。アメブロのニュース記事とnanapiの人気記事の連動とかアリな企画だと思います。

 CVCの経験者として言及すると「事業シナジーを生む」というのは多くの社内調整を必要とするためキャピタリスト的にはそう楽な仕事ではありません。ですが投資を受ける側からすると「あそこと事業シナジーがあるかも」というのはとても魅力的に映り、期待してしまうのが真実だと思います。

 私がCAVの中の人なら事業部とのアライアンスを強烈に推進できる体制をなんとしてでも作り出しそれを強みとした投資活動を展開します。スタートアップもVCにプレゼンをしますが、VCも自らの魅力をスタートアップ側に示せなければディールは成立しません。私が担当者ならスタートアップに対して上手く事業シナジーの絵を見せることでスタートアップから投資してもらいたいと思ってもらえる努力をするかと思います。

 ということでSeries B特化型ファンド(1億くらい突っ込むファンド)は必要で、かつそれが事業会社で強烈なシナジーを出せるとこだと国内のスタートアップ界もさらに活性化しますわね。
というお話でした。

著者プロフィール:Yuhei Umeki

スタートアップ環境にまつわる考察記事を展開するブログ「The Startup」を執筆。
慶応義塾大学在学時代に大手ネット企業のモバイル系子会社にてベンチャー投資に従事。
その後複数のスタートアップで広告、EC、ソーシャルアパートメントを運営する不動産ベンチャーなど様々なジャンルに従事。
VC経験と様々な事業経験を元にした考察を描きRettyなどスタートアップへのマーケティングのアドバイザリーも手掛ける。
twitter @umekida

モバイルバージョンを終了