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Facebook新機能はメディア業界再編を一気に進めるか【湯川】

[読了時間:3分]
 米Facebookは、音楽を聞いたりニュース記事を読んだりという出来事が自動的に友人に公開され、口コミを通じたメディア消費を飛躍的に拡大する新機能を発表したが、驚いたのは同機能に賛同する欧米のメディア企業の多さだ。音楽、映画、新聞などのメディア企業の多くが、新機能に準拠したアプリの開発に名乗りを上げている。FacebookのCEO、Mark Zuckerburg氏は「(新聞王ルパート・マードック氏率いる)ニュース・コープは、いずれすべての人がニュースを友達を通じて知るようになると考えている」と述べ、ニュース・コープがマスメディアからソーシャルメディアに軸足を移す考えがあることを示唆した。Facebookの新機能は、欧米のメディア企業、コンテンツホルダーの意識改革を促進し、業界再編を一気に進める引き金となるのだろうか。

 Facebookの新機能は、音楽やニュース、映画、テレビ番組などのメディアコンテンツを消費するためのアプリから発信される情報を、口コミが発生しやすい形でユーザーのページに表示するというもので、具体的にはオープングラフという技術の新機能になっている。(関連記事:Facebookのオープングラフの新機能とは【湯川】 : TechWave

 オープングラフに対応したメディア関連アプリを使うと、「〇〇さんが〇〇という楽曲を聞いています」「〇〇さんが〇〇というニュース記事を読んでいます」「〇〇さんが〇〇という映画を見ています」というような情報が友人のページに表示されるようになる。


 例えば「〇〇さんが〇〇という曲を聞いています」という表示をクリックすると、その場で同じ曲を聞くことができる。曲の最初からではない。友人の〇〇さんが聞いているのと同じ部分から曲が始まるのである。つまり離れた場所にいながら、同じ曲を同じように聞くわけだ。「このサビの部分が最高だね」といった文字による会話も可能になる。

 また複数の友人が同時に同じ曲を聞いているという情報は、Facebookのシステム側が重要な情報と判断し、共通の友人のページの「ニュースフィード」と呼ばれる目立つコーナーに表示される。自分の仲のいい友人の二人以上が同じ曲を同時に聞いているのなら聞いてみたくなる。同じ曲を聞いて会話の中に入ってみたくなるもの。この仕組みで、人間関係を通じてこの曲が次々と広まっていくようになっているという。

 マスメディアが上から下への一方通行の情報伝播だとすれば、この仕組みはソーシャルメディアの横の情報伝播を促進するものだといえる。

欧米の多くのメディア企業が既に対応

 驚いたのは冒頭に書いたように欧米のメディア関係者が、ソーシャルメディアの情報伝播に大きな期待を寄せ始めたことだ。オープングラフに準拠した音楽アプリの開発を発表している企業は以下の通り。

 オープングラフに準拠したニュースアプリの開発を発表している企業は以下の通り。

 先週米サンフランシスコで開催されたFacebookの新戦略発表会「f8」では、Washington Post紙の「Washington Post Social Reader」と呼ばれるニュース記事を読むためのアプリが紹介されていた。

 またテレビ番組や映画に関するアプリを開発する企業は以下の通り。

 なぜこれほどまで多くの欧米メディア企業はFacebook対応を進めるのだろうか。1つには手軽で無料ということがあるのだと思う。大半の技術部分はFacebookが既に開発済み。Facebookが用意した簡単なコードをプログラムに貼り付けるだけで、メディア企業は自社アプリをオープングラフ対応アプリに進化させることができる。またメディアコンテンツが口コミで広まることに対してFacebookは課金する考えはない。

 とはいえ、どのようなユーザーがどのようなメディアコンテンツに興味があるのかといった顧客に関する重要マーケティングデータがすべてFacebookに取られてしまう。顧客データこそが他社との差別化のカギになるとも言われる中で、メディア企業の中に葛藤はないのだろうか。

 葛藤はあるようだ。映画コンテンツ配信事業大手のNetflix社CEOのReed Hastings氏は、Facebookからアプローチされてからこの問題について社内で議論したのだという。「顧客データをFacebook側に取られれば、Netflixの企業としての競争力が弱まるのではないかと社内で長い間、話し合いました。答えが出ないので、直接(Facebookの)Mark Zuckerburg氏に聞いてみました」とHastings氏は言う。「Facebookは何を目指しているんだ」とHastings氏が聞くとZuckerburg氏は「Netflixこそ何を目指しているんですか」と聞き返してきた。Hastings氏が「Netflixの売り上げを〇〇ドルにすることさ」と答えると、Zuckerburg氏は「Facebookが目指すのは、Netflixの売り上げをその倍にすることです」と答えたという。

 ソーシャルのパワーはHastings氏自身、実感していた。Netflixにもおすすめ映画のレコメンド機能がある。しかしCEOのHastings氏でさえレコメンドされた映画を実際に見ることは少なかった。ところがFacebook上で友人が見ている映画のタイトルが表示されると、その映画を見てしまった。近々その友人と会うことになっていたので、同じ映画を見て映画について語り合いたいと思ったからだ。これがソーシャルのパワーの1つのカタチである。

 顧客データこそが企業の競争力の源泉というこれまでの常識に従って進むか、それともFacebookが提供できるソーシャルのパワーを活用して売り上げを伸ばすべきか。Netflixは後者を選んだという。

Facebookのソーシャルの力は新しいビジネスモデルを可能にするのか

 Spotifyは欧米で人気の音楽配信サービスだ。自分の好きな曲をリクエストできるインターネットラジオ、というイメージだろうか。曲名やアーチスト名で検索すれば無数の楽曲ライブラリーの中から瞬時に曲を表示し、その場で再生できる。パソコンを通じての視聴は無料。スマートフォンなどのモバイル機器で視聴する場合のみ有料になる。

 SpotifyのCEO、Daniel Ek氏は、音楽配信サービスは無料であるべきだと考える。でなければ違法コピーが横行するという。ただし一部サービスを有料にすることは不可欠。アーチストに収益を分配しないと、いずれ音楽業界全体が崩壊してしまうからだ。そこで上のようなビジネスモデルを構築したという。

 同氏はFacebookのソーシャルの力を通じて利用者を増やすことで、アーチストに分配する収益も増えると主張する。

 FacebookのZuckerburg氏は「友人の輪を通じて消費者は、これまでと比較にならない大量のメディアコンテンツに接触する機会が増えた。接触機会が増えることで、これまでは無理だと思われていたような定額制などのビジネスモデルも可能になる。一部メディア企業はそのことに気づき始めた」と語る。

 メディア企業にとっての選択肢は2つ。1つは、オンラインでの露出をできるだけ控えるようにする一方で、コンテンツを暗号化してコピーできないようにし、対価を支払ったユーザーにのみコンテンツを提供するというやり方。もう1つは、SpotifyやFacebookが提唱するように、できるだけ多くのユーザーにメディアコンテンツを利用してもらう中で、新しい別の価値を提供することで収益を上げるというやり方。

 これまでは前者の方法を採用するメディア企業が圧倒的に多かった。しかしソーシャルの伝播力をフルに利用できるようになれば、後者の方法も可能になるかもしれない。果たして今回のFacebookの新機能がFacebookのソーシャルの伝播力を最大限に引き出し、これまでと比較にならないくらい多くの人がメディアコンテンツに触れるようになるのだろうか。いいコンテンツはマーケティング予算なしに簡単に広まるようになり、新しいビジネスモデルが確立されるのだろうか。

 SpotifyやFacebookの主張が正しければ、メディア消費のカタチは大きく変わるだろう。そして人々のメディア消費のカタチの急速な変化に対応できるメディア企業は大きく成長し、変化に対応できないところは没落していくことだろう。Facebookの新機能は、メディア業界の勢力図を大きく塗り替える引き金を引くことになるのだろうか。

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