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本格的データベースマーケティングの時代―「位置情報」は新しい金脈になる【岡本泰治】

[読了時間:1分]

リリース数はともかく未だ揺籃期にある位置情報系サービス。そこから多くのデータが蓄積されたあと何が出来るか。データベースマーケティングの専門家・ディレクタス岡本泰治さんからの寄稿です。(本田)

岡本泰治
(@TaijiOkamoto)

 私は1993年の会社創業以来、一貫してデータベースマーケティングに関わってきました。創業時はダイレクトメール、その後現在までEメールマーケティングのサービスを提供しています。

 データベースマーケティングは決して目新しいマーケティング手法ではありません。「顧客データ分析により顧客ごとのマーケティングコミュニケーションを最適化し、売り上げを最大化する」という発想は1960年代から存在しましたし、1990年代後半のCRMブームでも同様のコンセプトが語られました。

 最近再びデータベースマーケティングとその周辺技術が注目されていますが、その背景にはいくつかの要因があると思います。
1)マーケティングの主導権がユーザーに移る「個」の時代の到来
2)ITインフラの発達による取得可能データの拡大
3)コンピュータ性能の飛躍的向上とデータ処理技術の進歩

「個」の時代の到来

 1)の流れは以前から起きていたことですが、ソーシャルメディアの浸透で決定的なものになりました。今や個人がマスメディアと同様の情報発信力を持ち、ソーシャルメディア上では企業も一つの人格として個人のネットワークの隅に参加させてもらうしかありません。そしてその中で商品やマーケティングコミュニケーションのあり方、さらには企業そのものの価値を認めてもらうことがマーケティング上の最重要課題になる時代です。

 そんな「個の時代」に企業がユーザーに受け入れられるためには、ユーザーを一人の人間として理解した上で相手にとって心地よいコミュニケーションをデザインする必要があります。せいぜい性別や年代、家族構成程度でしかユーザーを認識せず、画一的なメッセージを送り続ける従来のマーケティングコミュニケーションはいよいよ本当に限界にきています。

 これからは顧客理解のために可能な限り多くのユーザーデータを収集し、それらを分析して最も適切なコミュニケーションを行うことができる企業だけがユーザーとの絆を結ぶことができるのではないかと思います。(考えてみればそれは昔から優秀な商人が対面で当たり前に行ってきたことをコンピュータの力を借りて大規模に行っているだけですね。)

リアルタイムデータの登場

 2)に関しては、登録情報や購買履歴といったユーザーの「過去データ」だけでなく、webアクセスログという「リアルタイムデータ」を活用できるようになった点が大きいと思います。リアルタイムデータによって、より高い精度でユーザーの状況を推測することができるようになりました。

 例えばANAではこれまでもユーザーの過去の搭乗履歴や登録情報に基づいて最適と思われる情報をメールで配信してきましたが、そこにwebアクセス履歴のデータが加わりました。最近海外ツアーのページを閲覧しているユーザーに対して海外ツアーの告知メールを送信する、という具合です。それらのメールは従来の過去データに基づいたメールに比べるとコンバージョン率が4~8倍にも達し、リアルタイムデータの有効性が検証されています。

位置情報で広がるデータベースマーケティングの可能性

 さらに大きな価値を持つと思われるのが位置情報です。スマートフォンの浸透や各種位置情報サービスの登場で一気に注目を集めるようになりましたが、特にリアルタイムの位置情報を元にコミュニケーションができれば、そのままリアルの行動に結びつく可能性があります。

 例えば私がGAPの登録ユーザーで、前日にwebサイトでチノパンをチェックして今GAP渋谷店に来ていることが分かれば、お店(または近く)にいる間に「岡本さんだけのチノパンセットクーポン」をスマートフォンに送ることでチノパン+ジャケット・シャツのセット売りをして購買促進と単価アップを実現できるかもしれません。

 位置情報については「いかに取得するか」が大きな課題になると思います。ユーザーがチェックインすることで常連の地位を確保できるfoursquareなどはユーザー心理をくすぐるゲーム性を組み込んだ秀逸な仕組みだといえます。継続的にユーザーが進んで位置情報を提供してくれるような仕組みを構築できた企業が大きなアドバンテージを得ることになるはずです。

弊社も位置情報サービスを開発しました

 弊社でも上記のような流れを意識してユーザーの位置情報を取得するためのサービス『LOCS』を開発しました。http://locs.jp/

 位置情報の取得には独自のスマートフォンアプリを開発してユーザーに利用してもらうのが一般的ですが、それだと激しいアプリ競争に巻き込まれてしまい、ユーザーを確保するのに一苦労です。そこで最も有力なプラットフォームであるfacebookのチェックイン機能をそのまま使ってもらってユーザーの位置情報を取得しようと考えました。

 企業側は『LOCS』の管理画面からの簡単な操作で「期間中お店に5回チェックインすると○○をプレゼント」といったキャンペーンをfacebookアプリとして立ち上げることができます。(事前に自社のfacebookページとお店のスポットを作成しておく必要があります)

 ユーザーは最初にPC上のキャンペーンページでメールアドレスや住所などを登録し、あとはお店でfacebookでチェックインするとその情報がアプリを通じて企業に渡るという仕組みです。(ユーザーのチェックイン情報は企業の管理画面からダウンロードできます。)ユーザーが自分のチェックイン状況をfacebook上で確認できる「マイページ」も備えています。

 もちろんこの『LOCS』をベースにして本格的なLBM(位置情報によるマーケティング)の仕組みを作ることも可能です。まだまだこれからの分野なので、ご一緒に新しいノウハウを開発できる企業様も広く募集しています。ご関心があれば是非お気軽にお声掛けください。

最後に、気になるfacebookのこと

 facebookは間違いなく現在最強のデータベースマーケティング企業です。巨大なデータベースに基づいてユーザーに関心が高いであろう情報を表示する最適化ロジックはfacebookにとっても秘中の秘でしょう。

 先日のf8で発表された「オープングラフ」はこれまでの「いいね/Like」を「聴く」「作る」「食べる」「走る」といった動詞にまで拡張してアプリに組み込むことを可能にするもののようですが、要はfacebookがユーザーの全てのライフログをより強力に収集する仕組みだといえます。

 便利で面白いアプリが次々と登場し、facebookにはかつてないほどの大量の貴重なユーザーデータが集積されていく可能性があります。その巨大なデータベースと企業はどのように付き合っていくのか。もちろんfacebookの戦略次第ですが、そのことは今後のデータベースマーケティングを考える上で無視できないテーマになってくると思います。

ちょっと宣伝

 10月27日・28日に開催される「ad:tech Tokyo2011」において「データベースと最適化 ~最先端ダイレクトマーケティング手法とは~」(10月27日17:00~)というセッションで登壇する予定です。弊社クライアントでもあるロゼッタストーン社の鈴木氏とご一緒にデータベースマーケティングの最前線について議論しますので、もしよろしければご来場ください。http://www.adtech-tokyo.com/ja/

著者プロフィール:岡本泰治(twitter:@TaijiOkamoto)

株式会社ディレクタス代表取締役。
1993年の会社設立以来、ダイレクトメールサービス、Eメールマーケティングと一貫してデータベースマーケティングに携わる。1999年よりEメールマーケティングに主軸を移し数多くの大手企業のEメールマーケティング戦略を立案。Eメールマーケティング実施に必要な全ての機能をワンストップで提供している。著書に「ケースで学ぶマーケティングの教科書」(秀和システム)。
http://www.directus.co.jp/

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