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PIVOTで進化する新興メディア「TABROID」、インフォコム・メディアジーン・SixApart三者対談【@maskin】


[読了時間:3分]
PIVOT:意味 (動詞) 中心で回転する = 事業などの方向性を旋回する意味で使われる


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左からシックス・アパート 代表取締役社長 関信浩氏、インフォコム ネットビジネス事業本部 ネットサービス第一事業部 部長 山下正樹氏、メディアジーン/インフォバーン 代表取締役社長 今田素子氏・「仲はいいけど “絶対”の関係ではないんです」(山下氏)

 ギズモードやライフハッカー、Kotaku Japanなどを運営するメディアジーンは10月17日、完全オリジナルブログメディア「TABROID」を創刊した。Androidアプリを紹介するこの媒体は、スタート一ヶ月以内にもかかわらず数百リツィートされる記事も複数出るなど順調に成長し、11月28日には英語版をスタートさせるなど、世界を目ざした拡大路線に向け一歩を踏み出した。

 このメディア最大のポイントは、単独ではなくインフォコムおよびインフォバーンと提携し、インフォコムが持つECやモバイルの事業との連携等を視野に入れている点。メディアジーンの代表取締役社長 今田素子氏は、インフォバーンの代表取締役を兼務しており、コンテンツ制作および広告販売はインフォバーンが担当、メディアジーンはサイト運営を担当する。メディア運営のCMSで日頃付き合いのあるシックス・アパートもインフォコムの子会社となっており系4社のコラボレーションとして新メディアが誕生したことになる。

世界向け事業を展開するシックス・アパート




 まず米SixApartについて説明しておこう。同社は、北米で登場しMovableTypeというブログ運営のためのツールを開発提供してきた企業。2003年にTypePadがリリースされた頃から日本でも参入してきた。その後は、徐々にブログの広告ネットワークを運営するようになり、広告とプラットフォームの2つの柱で運営してきた。

 しかしながら、広告市場は英語が先端を行っており、規模も大きい。日本の場合は、日本語の制約がある上、市場はそれほど大きくない状態。とはいえどちらかに絞る必要もなく、収益のあるプラットフォームと広告という2つのビジネスドメインをバランス良く運営していた。

 一方で北米では広告マーケットの規模大きく成長し続けていることから、広告に専念するという流れが強まりついに2010年11月、米SixApartは米ビデオエッグと合併し広告事業に専念することとなる。プラットフォーム事業は新しい会社SAYメディアが運営し日本のシックス・アパートはその子会社となる。

 その後の2011年1月21日、SAYメディアはシックス・アパート日本法人の全株式をインフォコムに売却。SixApart(シックス・アパート)という社名と、Movable Typeの知的財産権やSix Apartの商標権を買い取ることで、日本から世界規模で普及する製品・サービスをマネージすることとなった。当然ながら海外の顧客サポートも必要で、現在は日本で統括して対応している。

 代表取締役社長の関氏は「最新のテクノロジーに対応しモダンなプラットフォームを運営いくということは当然の流れとしてやっていて、最低限英語でサポートするということはやっていくというスタンス」であることを説明。海外のサポート事務所を設立することも考えている段階だという。

システム開発会社とソーシャルメディアのつながり

 シックス・アパートの親会社となったインフォコムは、歴史ある大企業向けシステムを開発するいわばSIerである。インフォコム ネットビジネス事業本部 ネットサービス第一事業部 部長 山下正樹氏は、モバイルコンテンツ・Eコマースの事業を展開してきたが「もう一つ柱を作らないといけない」と考えていた。

 「今の時代、何ができるかと考えていましたが、この1ー2年ではソーシャルというキーワードを欠かせなかった。私たちの事業分野とソーシャルは遠い関係にあると思っていたのですが、SixApart の関さんの会社に取締役で入ることで、今までやってきたことからソーシャルに関わっていくという方向に関心を持つことができるようになったんです。メディアジーンさんとの出会いも、そういったソーシャル対応という大きな目線の中で生まれていきました」(インフォコム 山下氏)

 「自分達で全てはできないわけだから、誰かの力を借りないといけない」と山下氏は言う。誰かと組みながら事業を作っていき、既存の事業も活性化していくことができる。Androidのマーケットシェアが拡大することは折込み済みで、コンテンツプロバイダーとして考えた時、Appleのアプリマーケットより事業展開をしやすいということから、まずはAndroidに注力することを決めたという。

インフォバーンxメディアジーン

 インフォバーンは受託で企業向けに戦略立案、サイト制作をするもので、そもそもはインフォコムからの依頼を受けたのもインフォバーン。しかし、ちょうどメディアジーンでアプリ紹介メディアのアイディアがあり、今田氏が社長を兼務しているとはいえ思惑が一致した上でパブリックなメディアとしての企画でスタートしている。

 また、シックス・アパートのブログCMS MovableTypeは、メディアジーンのほとんどのメディアで利用しており、インフォバーン/メディアジーン今田社長とSixApart 関社長との関係は深かった。そのこともインフォコムとの距離を縮め提携のスピード感を増していったと言っても過言ではない。

 インフォコムとしては、メディアを一つの事業として運営していくかどうかというのはまだ見えていない。しかし「関さんが言っていたように広告の市場、アプリ販売などの展開も考えられる。内容によってはどんどんメディアを立ち上げていったり、SixApartの事業のオプションサービスなどを開発する可能性もある。流れにあわせてPivotしながら事業を生み出していきたい」とインフォコム山下氏は説明する。

 メディアジーンは、ギズモードやライフハッカー、コタクなどと同じ男性のギークに向けターゲットに向けて王道的手法でTABROIDを運営しているものの、Androidマーケットから情報を取ってきて活用するなど、今まで他のブログメディアでやってこなかったこともやっている。ライセンス契約などをしていない自由度を活かして、例えば「主婦向けアプリを紹介するメディア」などの展開も考えられるという。また、Androidアプリのサイトはいくつかあるが「うちは色が濃く(笑) 差別化はできているかと思います」と今田氏は言う。

メディアという接点から日本発、世界へ

 TABROIDが、初めから世界で出ることを念頭に置いて事業を展開している点に注目して頂きたい。その可能性を与えてくれたのは、日本にいながら世界向け次号を展開しているシックス・アパートの存在があるといっても過言ではない。

 「メディアジーンは、海外のものを買ってくるというケースが多かったのですが、このTABROIDは逆に海外に向けて日本のアプリを翻訳して紹介し、海外でのブランディングもしていきたい。まずはターゲットを設定せず、まずは英語で出していき、ゆくゆくはシンジケーション先を見つけるなど、最終的に日本を元気付けたい」(インフォバーン/メディアジーン 今田素子氏)

 一方でインフォコムとしては過去に海外市場に挑戦したこともあるがなかなか難しさを実感している状態。それでも「海外に目を向け、日本発で出ていくところに共感」とインフォコム山下氏は言う。

 「日本から出ていくとうスタンスで、僕達もうまく出ていければと思う。うちがアプリを作ってTABROIDで世界に出るのもいい。どこから先に盛りあがるかわまだわからないけれど、色々な切り口から出ていければいい。

 スマートフォンユーザーについては、まず触れるのはメディアだと思うんですね。コンテンツがあり、その先に広告ビジネスなどああるわけで、インフォコムとしてはユーザーとの距離を縮めEコマースなどの接点を見つけることで事業を拡大していきたい。そこをうまくリミックスする役割を果たすのがシックス・アパート。うまい具合に役割分担をしているこの布陣をうまく育て、いろいろな方面にリーチを伸ばしていきたい。以前のモバイルはキャリアのポータルありきという前提があったわけで、十分に画期的な状況の変容があると言えます」(インフォコム山下氏)

コラボレーションの好適事例として

 「誤解して欲しくないのは、この布陣は深い関係にありますが、それぞれがそれぞれの事業を中心に考えているため、全く束縛がないんです」とインフォコム山下氏はいう。

 「それぞれが強くなるから組むメリットが出てくる。TABROIDは、そういった考えを前提としたパートナーシップであることを理解した上で、読者の方が同じようなビジネスをするきっかけになればいい」(山下氏)。

 「ニュース紙がメディアであったり、ソーシャルメディアであったり、多様な媒介としてのメディアをカバーする技術が当社にはある。ただ、どこか一社とべったりするのではなく、良くも悪くもニュートラルな関係で動くことができるという立場にあります。MovableTypeもやり方は一様ではなく、実現したい内容に応じて多様なパートナーと連携しながら前進していく。その一例としてこの布陣が生まれていると思うのです。

 それと、デバイスがインターネットに触れる人を増やすのは確か。PCだけなくスマートフォン、タブレット、テレビなど多様化している。それはメディアの多様化を意味する時代になり、一重に「○○PV獲得しました」ではなく、私たちのコラボが示す通り(コストがかけにくい)デバイス向けに参入し、そこから多様な発展を実現することができることを説明していると思う。それは今回、各社が出会い、ローンチするまでの時間の短さを見れば明らかです」(シックス・アパート 関氏)

【関連URL】
・欲しいアンドロイドアプリをギュッと凝縮!TABROID(タブロイド)
http://www.tabroid.jp/
・スマートフォン関連情報提供サイト 「TABROID(タブロイド)」の英語版をオープン ~ 日本の高品質なAndroid アプリを世界へ紹介 ~
http://www.mediagene.co.jp/press/2011/11/000229.html

蛇足:僕はこう思ったッス
当初取材をする前の段階は、どれだけ大きなコストをかけ、どれほど大戦略的な計画を投入するのだろうと考えていた。しかし、話を聞けば聞くほど、ジャズのジャムセッションのように、“うまくいきそうな部分を、自由にふるまいながら合わせていく”という関係であることがわかり驚かされた。デバイスの話に渡る時、このスタイルこそがメディアおよびネットビジネスの主流であることを確信した次第。日本発、世界。それは大きな覚悟でどうにかなるのではなく、しっかり軸足を固めてPivotしながら前進するかどうかが鍵になっているのかもしれない。それを「やるかどうか」が大切なのだろう。

 特に最近「シリコンバレー○○のサービスがすごい、ここを改造すればうちもサービス作って世界にいける。自分らは思いが違う」という“北米ありき脳” で自分たちの殻をやれていない人が増殖している。それより、日本にいる自分達の発想や志を束ねて、PIVOTに継ぐPIVOTで前進する目線を持って欲しいと願ってやまない。TABROIDを応援しよう!

著者プロフィール:TechWave副編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
 8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。codeが書けるジャーナリスト。1990年代は週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーでベンチャー起業に参画。帰国後、ネットエイジで複数のスタートアップに関与。フリーで関心空間、富裕層SNSのnileport、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。“IT業界なら場所に依存せず成功すべき”という信念で宇都宮市から子育てしながら全国・世界で活動中。スタートアップ支援に注力。自らもプロジェクト立ち上げ中。イベントオーガナイザー・DJ。 大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。コラボしてくれる人、会社募集中。
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