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ムーンライトウェイヴ
望月奈津子
世界のITの最先端は言うまでもなく米国シリコンバレー。ですが、それとは別に大きな動きがアジアで起こっています。まずは中国が米国に並ぶ大きな勢力になりつつありことは周知の事実。でも少し先にはインドがITの大きな勢力になる可能性にお気づきでしょうか?インドの人口は、現在12.1億。それ自体驚愕の数字ですが、なんと2020年には中国を抜く勢いで増え続けているのです。しかも中国に比べ若者が多く、現在でも25才以下の若年層が人口の半分以上を占めています。さらにインドの人々には親日家が多く、最近では日印間の経済協力の協定も施行されたこともあり、日本とインドの動きが様々な分野でますます活発になってきています。IT業界関係者にとって今後注目すべきは、インドなのです。
インドについて、IT産業の動向、日本との関わり、さらに今後のパートナーシップの可能性についてまとめてみました。
数年後には中国を超える巨大市場に
インドは実は、世界最大の民主主義国家なんです。米国への留学経験者も多く、グローバル経済の考え方がしっかりとできています。そういう意味で、ビジネスパートナーとして比較的安心してお付き合いできる国なのではないでしょうか。
在日インド大使館の経済・商務担当によると、名目GDPは1兆5000億ドルで世界10位。年間8~10%の成長が見られ、購買力平価では世界第4位だそうです。この成長を支える理由の1つは、増え続ける人口にあります。
とくに若い層が多いということが、IT業界にとって魅力的な国だと思います。若い力に教育をプラスして質の高い労働力を生み出していますし、IT関連のサービスやプロダクトの有望なマーケットでもあります。政府は、若者に対する就業機会の創出、生活の質の向上の両方のために、外国企業への市場開放に熱心なほか、各種インフラ整備にも力を入れています。デリーからムンバイまでの交通網の整備を核にした「デリー・ムンバイ間大動脈構想」と呼ばれる1000億ドル規模のプロジェクトもそうした方針に基づくもので、このプロジェクトには外国企業の技術が数多く採用されています。
またインドには、弁護士、エンジニアを始めとした知的人材が豊富で、科学、技術分野の人的資源は世界3番目に多いと言われています。
インドには、様々な文化的背景やライフスタイルをもつ人々が集まり、22もの公用語があり、都会と地方では生活様式も大きく異なるので、「インドでは」というような言い方でひとくくりにすると誤解を生むことがあります。一方で、都市部でのライフスタイルは日本などの先進国とほとんど変わりません。インド人は勤勉です。土曜日も勤務日という企業が少なくありません。交通渋滞もありますし、混雑する電車通勤も存在します。週末にはファミリーでショッピングモールに出かけ、レストランで食事。若者は、ソーシャルメディアで仲間と繋がっています。
インド大使館によると、15年以内にインドの中流階級は全体の41%を占めるようになるということです。この巨大なマーケットに対して、世界中から熱い視線が寄せられています。
オフショア下請けから研究開発の拠点へ
80年代前半のコンピューター政策のもと、インフォシス、ウィプロなどの現在のインドのITを牽引する企業が誕生しています。91年の経済自由化を機に、飛躍的にソフトウェアサービスが発展し、現地のオンサイトのサポートビジネスから、オフショアビジネスへの道が切り開かれ、欧米企業のバックオフィスやコールセンタービジネスが盛況となりました。
2000年以降はそうした下請け的な単純労働ではなく、ビジネスプロセスマネジメント(BPO)の考え方をベースにした、より高度な研究・技術開発やコンサルティングまでインドが世界に向けて提供できるようになっています。インドのソフトウェア企業の業界団体であるNASSCOM ( National Association of Software and Services Companies)は、インドのエンジニアリングR&Dサービスは、2010年には100億ドルに達したと表明しました。このように、時代のニーズに対応し、様々な形でITのソフトウェア部門が発達してきました。ハードウェアを中心に伸びてきた中国のIT産業とは対照的と言えます。
現在は、マイクロソフトなど780社もの多国籍企業の研究開発拠点が存在します。世界のIT産業におけるインド人の貢献も大きくなっており、マイクロソフトのhotmailを考案したのはインド人で、Windows Vistaの開発にはインド企業が参画していたということです。
特に2010年以降は、インドのソフトウエア技術があらゆる産業に大きく貢献するようになってきました。自動車部品に組み込まれるソフトウエアを始め、製造工場運営に関連するソフト、飛行機のエンジン、次世代マイクロスコープなどにもインドのソフトウエア技術が採用されるようになってきました。NASSCOMは、エンジニアリングR&Dサービスは2020年に450億ドルに成長すると予測しています。
スタートアップのエコシステム始動
さてそれではインターネット関連のスタートアップの可能性を見ていきましょう。繰り返しになりますが、マーケットと人材の両方の面で、インドは非常に有望です。
ネットビジネスのユーザーとして最適の若者の層が厚いので、プロダクトのテストやマーケットとして最適です。一方で質の高い人材が存在します。国内にも優れた教育機関が存在しますし、NASSCOMによれば、インド国内の5000社ほどあるITソフトウェア企業があり、その内BPOだけでも2700万人が就業しています。直近3年間で米国で経験を積んだ技術者6万人が帰国したという話を聞いたこともあります。NASSCOMによると、起業家精神も旺盛なようで、直近1年でスタートアップ約1100社が誕生したそうです。
世界のIT業界に対するインド人の存在感は増す一方です。例えば著名投資家ビノ・コスラー氏はインドの大学を卒業後、シリコンバレーに渡って成功し、現在ではインドのメジャーなITカンファレンスで米国のジャーナリストたちと共にスピーチを行ない、インドのスタートアップの機運を盛り上げています。同氏のほかにもシリコンバレーで活躍するインド人投資家は数多く存在し、シリコンバレーでの総投資額の15.5%がインド人投資家の手によるものだと言われています。
前出のNASSCOMでは、スタートアップのサポートのために情報提供をし、主催のカンファレンスでのスタートアップ関連のセミナーは目白押しです。また、インドのファンドも数々立ち上がっているようで、米国でのスタートアップを知りかつインドにも詳しいメンターもいて、インドのエンジェル投資→シリコンバレーの投資家という流れも出てきています。いよいよITベンチャーのエコシステムが出来上がりつつあるみたいです。また企業の立ち上げコストが劇的に低下していますし、NASSCOMによるとインド国内の一般消費者向けや政府向けの製品ニーズが高まり、中規模都市でもスタートアップ企業が誕生しているのだとか。こうした機運を受け、来年2月にインド・ニューデリーで開催が予定されている広告・マーケティング関連技術カンファレンス大手のad:techニューデリーでは、「スタートアップ部門」が新設されるようです。
日本人に好感
一般的に言ってインド人は、日本人にとてもいいイメージを持っているみたいです。日本製品は品質が高く、日本企業の技術力や品質管理能力、勤勉さ、チームワークのよさを高く評価しているようです。外務省によると、インド人の対日イメージのアンケートを取ったところ、以下のような結果が出たそうです。
日本との関係:75%以上が「非常に良好」「良好」
日本国のイメージ:①先進技術 ②経済力 ③平和を愛する
日本人のイメージ:①勤勉 ②能率的な経営慣行 ③創造的
日本の国際貢献:「日本の経済協力は役立っている(79%)、「日本企業の進出歓迎」(94%)
あまり知られていないのですが、2003年度以降、日本のODAの最大供与国はインドなんです。日本のエレクトロニクス/インフラ企業と日本政府への期待は大きく、既にインド国内のプロジェクトに日立や東芝などの日本メーカーが数多く参画しています。インドの地下鉄は日本の技術供与と投資によって1996年にデリーでスタートしたってご存知でした?先日はバンガロールでも地下鉄が開通し、今後ムンバイなどでも開通する予定です。
そして経済の交流面で、今年8月に歴史的な出来事がありました。日印包括的経済連携協定(CEPA)が発効され、関税面での規制が少なくなったのです。今後日本とインドの間でのビジネス交流がますます活発になることでしょう。
ダイナミックな発展をしていくインドにとって、地理的にも心理的にも近いアジアの友人として、彼らと共に新しい価値を作り、インド国内、アジア、そして世界に向けて発信していくことは意義があるのではないでしょうか。IT分野でインドとのパートナーシップを築くことが、日本の未来を切り開くきっかけに繋がると信じています。インドと一緒に、アジアの他国、またインドを通して中東やアフリカへ進出する道もあります。
日本国内や現地のインド人との個人的な経験から、インドは日本の真の理解者という印象です。協働プロジェクトを通じて、日本の良さを引き出し魅力に変えて、世界にアピールしてくれる、よき、そして楽しい仲間になれる気がしています。
望月奈津子
ムー ンライトウェイヴ株式会社 代表取締役/マーケティング&コミュニケーションディレクター。海外企業の日本進出時のコンサルティングやマーケティング企画から実施までをワンストップ で提供する、ブティックエージェンシーを2007年より主宰。2009年より海外のIT企業の日本進出のサポートを手がけ、2012年には日本企業のイン ドを中心としたアジア進出に際してのワンストップ・ソリューションサービスを開始予定。インドとの初めての出会いは、90年代前半、勤務先でのインド人直属上司。直近の4年間でインドにて2ヶ月半過ごす。日印協会会員/日本インドITクラブ参加。
会社設立前は、15年以上、P&G、ナイキ、ファーストリテイリング、森ビルといったグローバル企業に勤務し、マーケティング&コミュニケーションを担当。
IndiaAndJapan(アット)moonlightwave.com www.moonlightwave.com
少人数制勉強会TechWave塾で「熱いぜ!アジア」というテーマで毎回、アジアに詳しい講師をお呼びして、僕自身も勉強させてもらっているんだけど、正直なところ「中国って可能性は大きいかもしれないけど、日本のIT企業としてはなかなか難しい市場かもね」って思う。いろいろ規制もあるようだし、商慣習も独特。現地にしっかりと溶け込むか、優秀なアドバイザーなしには、成功は簡単じゃないというのが正直な感想。「熱いぜ!アジア」って煽るようなタイトルにしたのに、無責任な話で申し訳ないけど。
今回の記事を寄稿してくれた望月さんにも特別講師として来ていただいたんだけど、インドっていいかもって思った。人口も中国を抜く見通しだし、若者が多いのもネット企業には有利。英語が通じるし、米国的な商慣習に近いというのも安心。
望月さんのお話を聞いた塾生の中にもインド視察を希望する人が何人かいたので、TechWaveと望月さんのムーンライトウェイヴで協力し合って、インド視察旅行を企画することにしました。東京で2度ほど事前勉強会をしたあと1週間ほどインドに行ってad:techニューデリーなどに参加する視察旅行です。詳しくはこちらをご覧ください。(湯川鶴章)