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2012年 日本の活路は「バーチャル」にあり【湯川】

[読了時間:4分]
 ちょうど1年前の今日、昨年の12月22日に、2011年のソーシャルメディアは「リアル」「クローズド」がカギ【湯川】という記事を書いている。日本のインターネットは長年、どこのだれだか分からない人と同じ興味で盛り上がる「バーチャル」な空間としての使われ方が中心だった。代表例が2ちゃんねるだ。それに対し、Facebookのように実名、もしくはそれに準ずるようなハンドル名で、実際の人間関係をオンラインで維持するような「リアル」な空間も広がる、という予測だった。

 当初は「リアル」「バーチャル」という分け方にさえ一部で反発があったが、ネットの特性を理解する上で、この分け方が不可欠であるという考え方は、この1年間で格段に広がったと思う。DeNAはアニュアルレポートの中で、「リアル」「バーチャル」の「コミュニティ」という表現でネットの現状を分析し、ソーシャルゲームには「バーチャル」な空間のほうが向いていると主張している。それほど、この分け方への理解が一般的になったといえる。

 ちなみにこうした「リアル」「バーチャル」という言葉の使い方は日本独特のようで、米シリコンバレーのベンチャーキャピタリストに「リアル・ソーシャルグラフ」「バーチャル・ソーシャルグラフ」と言っても通じなかった。説明すれば理解してもらえたが・・・。米国では、ネットは早くから「リアル」な空間の側面が強かったから、こうしたわけ方は不要だったのだろう。

 日本でも今年1年は、多くのアーリーアダプターたちが実名でリアルな人間関係をネット上で維持することに慣れ、「リアル」な空間の可能性の大きさに気づいた。そんな1年だったのではないだろうか。

 さて日本でも「バーチャル」に加え「リアル」が出揃った今の段階で、少し大胆に来年以降を予測させていただければ、日本のIT業界は今後、大きく「バーチャル」に傾くのではないかと考えている。いや正確に言うと、「バーチャル」にこそ日本経済の活路があり、そこに注力しない限り日本経済の拡大のチャンスはないのではなか。そんな風に考えている。


 もちろんネット上の「リアル」な空間を利用したサービスは今後も成長するだろう。米国を中心とした英語圏のIT企業は今後も、ネット上の「リアル」な空間に向けてのサービスで盛り上がるだろうし、その影響は日本を始め全世界に広がるのだと思う。「リアル」こそが、世界のITの主流であり続けることは間違いないだろう。

 ただその一方で、「バーチャル」な空間、「バーチャル」なコミュニティを世界に拡大することが、日本企業にとってのビジネスチャンスになるのではないかと考えている。

 「バーチャル」コミュニティ拡大の推進役を果たしているのは、もちろんソーシャルゲームである。ソーシャルゲームに関しては賛否両論あるのかもしれないが、新しいビジネス領域のフロンティア、特に娯楽関連のフロンティアに対して、批判はつきもの。批判されることがある領域だからこそ、大手企業は社会的評価が定まるまで参入してこない。なのでベンチャー企業に成長のチャンスがあるわけだ。Facebook上の共有が400件を超える人気記事「若者よ、アジアのウミガメとなれ」を寄稿してくれた著名起業家の加藤順彦氏は、「グレーゾーンを狙うことこそが、失うもののないベンチャー企業の特権。過去に成功したベンチャー企業の多くは、グレーゾーンに挑戦し社会的評価が定まらないうちに事業を拡大させたきた」と話す。

 現在、ソーシャルゲームで急成長しているIT企業のほとんどは、創業当初からゲームで勝負しようとしていたわけではない。2年前までは「ゲームには絶対参入しない」と宣言していた経営者もいるし、「実はゲームは嫌い」と言いながらソーシャルゲーム事業で大儲けしている経営者もいる。つまり「今後もゲームだけに専念する」と考えている経営者は、ほとんどいない。DeNAは「ソーシャルゲームと心中はしない」と明言しているし、グリーの幹部もゲームで構築したバーチャルなコミュニティに、音楽、映画などの娯楽を乗せていけるのではないかと考えている。(関連記事:「Facebookがリアルに傾けば、ゲームで日本が世界を獲れる」)

 DeNAがソーシャルゲームには「リアル」なコミュニティよりも「バーチャル」なコミュニティのほうが向いていると考えるのは、簡単に言ってしまえば次のような理由だ。例えばFacebook上に自分の「リアル」な友人が100人いても、ゲーム好きは友人は数人しかいないかもしれない。その数人でソーシャルゲームをしてもそれほど、盛り上がらない。一方でどこのだれだか分からなくてもゲーム好きの100人が集まったコミュニティでは、当然ながらゲームで盛り上がる。趣味趣向が似通った人たちのコミュニティなので、1つのゲームに飽きても、次々と新しいゲームに友人を連れて移行できるという利点もある。

 同様に、音楽、映画などの娯楽も「バーチャル」コミュニティのほうが盛り上がるのではないだろうか。

 欧米が「リアル」コミュニティ向けのサービスにリソースを集中する中で、日本企業が「バーチャル」な空間をベースに、音楽、映画などの娯楽に関する新サービスを展開するという戦略である。

 日本国内のソーシャルゲームの市場は2014年には2500億円に拡大すると予測されている。世界市場はその10倍と見られている。しかも利益率は50%という驚愕の数字だ。さらには、音楽、映画というビジネスもそこに乗ってくる可能性がある。そうなれば、ものすごく大きな市場になる。(関連記事:ソーシャルゲーム市場305%増、2014年に2500億円市場に【シード・プランニング金貞民】

 20世紀には、自動車や家電メーカーが日本経済をけん引した。21世紀にそのけん引役となるのがIT業界であることは、間違いないだろう。空前のスタートアップブームで、いろいろなITベンチャーが登場しているが、その中でも自動車、家電メーカー並みの市場を創り上げる可能性を持つITの領域といえば、今のところはここしか見当たらない。ゲーム、音楽、映画が楽しめるバーチャルな空間。それが今後、リソースを投入すべき領域だし、その領域の企業が今後増えてくるのではないだろうか。

蛇足:オレはこう思う

 まあグリー、DeNAの人たちにとっては当たり前の話なんだろうけど・・・。ソーシャルゲーム企業の経営者にしてみれば「今さら、なに分かりきったこと言ってるんだろ」という感じなんだと思う。

 でもこの領域の可能性にまだ気づいていない人は多いし、今後の方向性としてこの段階で記事にしておく意味はあるかなと思う。

 もしこの領域で日本が存在感を世界に打ち出せなければ、日本の経済再生は難しいんじゃないかなあ。そうなれば、「シェア」の精神で、消費のライフスタイルを大きく変えていく必要があるのだと思う。もちろんそれが悪いというわけではない。それもまたアリ。

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