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1,500万曲が聞き放題!音楽配信サービスSpotifyをあらためて使ってみた【梶原 健司】

 ここ何年かの「音楽xIT」の歴史を見てみると、ウォークマンが音楽を持ち運べるようにしたことと、iPodとiTunesがダウンロード購入の形を広めたこと、というところがエポックメイキングな出来事かなと思う。最近のiTunesのクラウド化やGoogle musicなどはどうかというと、クラウドに保存という形は確かにすばらしいけど、音楽リスニングのスタイルを変えるほどの大きな変化ではないような気がする。

 そんな中、発表があったのがSpotifyのプラットフォーム戦略。サードパーティのアプリがSpotify上で動作するようになるというもので、これは興味深い動き。音楽リスニングのスタイルを大きく変えることになるんじゃないだろうか。

 TechWaveコミュニティの中で積極的に活動している梶原健司さんが、くわしく調べてくれた。(湯川鶴章)


 梶原健司
 

250万人の有料会員

 TechWave読者でSpotifyという名前をご存知の方は多いと思います。

 スウェーデン発の定額制音楽ストリーミングサービスの大手であり、無料会員は1,500万曲の音楽ライブラリが半年間は無制限に聴き放題(広告つき、PC上という条件)。半年経過後も、わずか月額4.99$(約400円)で広告なしで聴き放題というもの(PCでの利用時。モバイルでの利用などが可能なプレミアム版は9.99$/月)。1,000万人以上のユーザと250万人の有料会員を抱えるサービスにまで急成長。今年7月には世界最大の音楽市場であるアメリカでの展開もついに開始し、存在感を増してきています。Napsterの創業者であり、Facebookの初代社長でもあったショーン・パーカーが支援していることでも有名です。


3種類の会員メニュー

 またSpotifyは先日、APIを公開し、Spotify上で第三者がアプリを開発・展開を可能にするという、プラットフォーム戦略を発表しました。
同様の戦略を採り、爆発的に普及したiPhoneやFacebookの例を見るまでもなく、第三者が様々なアプリを開発することで、音楽の新しい楽しみ方が一気に拡大していく、そんな可能性が出てきています。


 ただ現段階ではSpotifyは日本からの利用ができないため、実際に使ったことがある人はあまりいらっしゃらないと思います。

 私はヘビーな音楽ファンというわけではありませんが、普通に音楽を日常的に聴く一般的な人としての視点で、Spotifyと、その上で動く新しいアプリを簡単にご紹介します。現段階ではアプリは11個しかなく、まだまだ試験的なアプリばかりですが、テクノロジーによって音楽の視聴体験がどう進化していくのか、色々と思いを巡らす手がかりになれば幸いです。

(尚、下記はすべて先日発表されたアプリも利用可能なパブリックベータ版であることに留意をお願いします)

1500万曲聞き放題

 Spotifyの最大の特徴は、もちろん1,500万曲以上の膨大な音楽ライブラリを無制限に聴けることです。

 例えば、Top Pageに出てきたリアーナ聴こうかなぁ、とクリックすると・・・


リアーナの名前をクリック!

 彼女のデビューからの全てのアルバムと曲がずらっと表示されます。
(シングルカットもコンピレーションアルバムも!)


過去の全アルバムがずらっと!もちろんクリックすれば曲が即座に流れ始めます。

 これらが全て試聴ではなく、完全にオリジナルの楽曲をそのまま最後まで聴くことができます。

 そしてそこからバイオグラフィー、関連するアーティストを参照して・・・


バイオグラフィー上に出てくる他アーティストも当然クリックできます。


関連するアーティストも全てバイオグラフィーなど備えてます。

 じゃあ、ビヨンセ聴いてみるかというともちろん出てきます。


ビヨンセも当然全楽曲が!

 そしてその曲をFacebookやTwitterを通して、他の友人(Spotifyユーザ)に共有することができます。


FacebookやTwitterで友達に楽曲を共有できます。

 もちろんアーティスト名、曲名での検索も出来ますし、シャッフルプレイや、プレイリストを作るなども自由にできるため、1,500万曲を縦横無尽に自分のライブラリのように、楽しむことができるわけです。

 「あの曲聴きたいな」と思ったら、どんな曲も瞬時に聴くことができるのは、正直かなり衝撃的な体験です。

 ただ使っていくうちに、だんだんと同じ曲やアーティストばかり聴き始めている自分がいたりします。

 ロールプレイングゲームで、広大な土地に投げ出されて、何でもできるよと言われても、逆に何をして良いか分からなくなる感覚といえば伝わるでしょうか。分かりませんね、すいません(笑)

 膨大なライブラリの中には、自分が今までの人生でたまたま聴くチャンスに恵まれなかっただけで、素晴らしい楽曲が数えきれないほど存在しているはず。

 プラットフォーム戦略の発表時に同時にローンチした11のアプリケーションのうち、いくつかはそんなきっかけにつながるものです。

 下記に簡単に紹介します。

Explore: 未知の曲との出会い

1. Billboard Top Charts


Billboardの最新ヒットチャート。


Subscribeすれば、最新ヒットチャートのプレイリストが定期的に更新され続けます。

 見たまんま、ビルボードのヒットチャートです。カテゴリー別にもR&B/ヒップホップや、カントリーミュージック、ロックなどがあります。自動で更新されるプレイリストとしてSubscribe(購読)できるので、常に最新のヒット曲が流れているラジオのような使い方ができます。これを掛けっぱなしにしておけば、今流行っている曲をずっと聴き続けられるわけです。興味がわけば、アーティスト名をクリックして、同じアーティストの他のヒット曲や過去の曲/アルバムにも簡単にアクセスできます。ヒット曲をきっかけとして、そのアーティストに興味を持ち、今まで知らなかった曲にたどり着くことが増えそうです。

2. Rolling Stone Recommends

Rolling Stone: Webコンテンツとの連動企画。


Rolling StoneのWebコンテンツの例。

 アメリカの雑誌「Rolling Stone」のWebコンテンツと連動したリコメンデーションをしてくれます。100人の歴代最高のギタリストとか、興味そそられます。もちろん出てくる楽曲は全て聴けます。音楽マニアじゃない一般のリスナーは、意外と有名なアーティストや楽曲を知らなかったり、ということがありますが、こういうプロがまとめる企画ものは、知らなかった曲に出会うきっかけとして、面白いと思います。

3. The Guardian

The Guardian: アルバム批評記事。このまま曲も聴けます。

 イギリスの新聞「The Guardian」が掲載しているアルバム批評です。もちろん曲名をクリックしたら、すぐに曲が再生します。

4. Pitchfork


Pitchfork: トップ画面。


Pitchforkのアルバム批評記事。こちらも当然曲の再生が可能。

 音楽系のWebマガジン「Pitchfork」が掲載しているアルバム批評です。

5. Last.fm


Last.fm: 再生履歴からオススメの曲を提案してくれます。


Spotify上で再生している曲から類似した曲ばかり集めたプレイリストも作成可能。

 言わずと知れた自分の嗜好に合わせた音楽をストリーミングで流してくれるインターネットラジオの老舗。

 Spotify上で再生した曲を記憶し、その嗜好に合わせた曲、アルバムをオススメしてくれます。音楽視聴の履歴がいろんなサービスに分散してしまうと、正確なリコメンデーションを受けられないため、こういう統合の試みは興味深いです。

6. We Are Hunted


We Are Hunted: トップ画面。デザインがひたすら素敵なアプリ。


アーティスト名を入力すれば、オススメの曲をずらっと紹介してくれます。

 楽曲やアルバムの販売データではなく、ブログやソーシャルメディアで今一番話題となっている楽曲をモニターし、リストアップしてくれる「We Are Hunted」。

7. Moodagent


Moodagent: 今のムードを選択するだけで、それに合ったプレイリストが自動的に!

 その時の自分の気持ちに合わせたプレイリストを自動で作成してくれるサービス。PC向け、スマホ向けにそれぞれアプリも存在しますが、あくまで自分のライブラリ内の曲からしかリストは作成されませんでした。今回Spotifyと連動することで、膨大な音楽ライブラリからリストを推薦してくれます。

 未知の曲との出会いだけでなく、他にも面白い試みが始まっています。

 下記は音楽をただ聴くだけでなく、関連する情報を提供することで、より複合的に音楽を楽しめないかというアプリ。まだまだ試行錯誤の段階だと思いますが、色んな可能性があると思います。

Relavant: 音楽に関連する情報

8. TuneWiki


TuneWiki: 現在流れている歌詞のパートをしっかりとハイライト表示。

再生中の楽曲の歌詞を表示するサービス。今流れている歌詞を、しっかりとハイライトし続けてくれるので、カラオケの練習もバッチリです。

9. Fuse


Fuse: 音楽関連のニュースと関係する曲を教えてくれます。


Fuse: グラミーのノミネート曲がずらりとプレイリストに。

 音楽関連のニュースが常に表示され、関係する曲をプレイリストとして提案してくれます。

10. Songkick Concerts


Songkick Concerts: コンサート情報も簡単に確認可能。

 プレイリストに入っているアーティストのコンサート情報を教えてくれます。

 上記以外も楽曲に関連するものは他にも色々考えられそうです。その曲が使われている映画など別コンテンツの紹介につなげたり、楽曲やアーティストにまつわるグッズを紹介して物販につなげていくなどは今後出てくるかも知れません。

 そして、最後に今までにはなかった全く新しい視聴体験の試みも始まっています。

New Experience: 新しい視聴体験

11. Soundrop


Soundrop: 様々なテーマの部屋があります。自分で部屋も作れます。


60人で同時に同じ楽曲を視聴中。チャットも出来ます。


曲は参加者の投票で次に何が掛かるか決まります。


新しい曲を追加することも可能。リストの最下部に加わります。

 Turntable.fmを始めとして、音楽をオンライン上で同時に聴いて楽しむという動きが活発になってきていますが、「Soundrop」はそれに近いサービス。

 テーマ別に分かれた部屋に入ると、その部屋にいる全員で同じ曲を聴き、チャットをしながら一緒に楽しめる。みんなの投票で次に掛ける曲を選べたり、自分で新しい曲の候補を追加もできる。自分と招待した友人だけの部屋も作れるので、オンライン上で集まって、仲間うちで好きな曲を掛けあったりしたりして遊ぶこともできます。自分だったら、色んな土地に散らばった旧友たちと学生時代にハマった曲を紹介しあって、懐かしさに悶絶するとか、そんなことやってみたいです(笑)

 他にも例えば、GPSと連動させて、ドライブやジョギング時に、走っているコースに最適な曲が自分の嗜好に合わせてレコメンデーションされるとか、モバイルと組み合わせることで、今までではあり得なかった音楽の楽しみ方が出てくるかも知れません。

まとめ

 感想としては、未知の曲との出会い(Explore), 音楽に関連する情報(Relavant), 新しい視聴体験(New Experience)の3つの方向性が今後のアプリの方向性、という印象を持ちました。ただローンチ直後でアプリの数が少なく、まだまだ手探りの状況だと思います。また、これからを考えた場合に課題も多く、アプリ開発者の参加要件と収益モデルが不透明なこと、一部アーティストとの軋轢(ColdplayやAdeleなどが最新のアルバムを提供しないと表明)があること、またApple, Amazon, Google, Pandoraなどの強力な競合の存在など、今後Spotifyがこのプラットフォーム戦略で業界にイノベーションを起こせるかどうかは分かりません。

 とはいえ、彼らが自らの戦略を「Music Everywhere」と表現している通り、いままでにない形、様々なシーンで、音楽をもっと身近に楽しめるようにしたい、という方向性は今回アプリを試してみて、強く感じました。1,500万曲という楽曲にもし無制限にアクセスできたら、どんなアプリやサービスが考えられるか、想像するだけでもワクワクしませんか?

蛇足:僕はこう思うのさー
音楽業界の低迷は以前から言われている。無料交換ソフトなどの影響も無視できないが、Youtubeなどの動画コンテンツ、ソーシャルメディア、ソーシャルゲームなどの台頭により、広義の意味でのエンターテイメントコンテンツの多様化が、消費者の時間を奪い合う競争の中で、相対的に音楽の地位を低下させてしまっていることも要因の一つではないかと思う。そんな状況の中、1,500万曲に自由にアクセス出来るSpotifyのAPI公開により、今まででは考えられなかったような音楽の楽しみ方が生まれ、生活のあらゆるシーンで音楽がもっと身近になるきっかけとなるかも知れない。これからのSpotifyの動きにも目が離せない。(梶原 健司)
著者プロフィール

梶原健司
1999年よりアップルジャパンにてiPod担当等、コンシューマに対してのセールス・マーケティング主要部門を歴任後、今年独立。現在の興味は、テクノロジーの進化が社会をどう変革していくのか、大きな潮流を見定めること。人と人がもっと繋がる仕組みを創りたい。

一緒にオモロイことやりたい!っていう無鉄砲なエンジニア募集中です(笑)連絡はkajiwara321[アットマーク]gmail.comまでお気軽にー。

蛇足:オレはこう思う

湯川鶴章
 今年の秋に「TechWaveといく米国ツアー」で梶原さんたちとサンフランシスコに行ってきたんだけど、そのときに友人宅でSpotifyを触らせてもらって、やはり衝撃を受けた。すごいサービスだと思う。それがプラットフォームになろうとしているのだから、これは大きなニュースだと思う。僕の中の今年の重大ニュースの3位ぐらいにはいるニュースだと思っている。

 各種メディアの中でも、音楽はもっとも早く変化し始めた領域。このあとをニュースや映画、テレビなどのメディアが同じような形で追うのだと思う。そういう意味でも、この動きは要注目。

 アプリの中では、Moodagentがおもしろいと思った。5色くらいのスライディングバーがあって、自分の今の気持ちをスライドさせて表現すると、その気持ちに合った音楽がレコメンドされるというもの。ハートマークのバーをスライドアップさせれば、甘いムードの音楽が流れるみたいな感じ。おもしろいなあ。

 Spotifyと競合関係にあると思っていた、Last.fmがSpotifyのプラットフォーム上に乗ってきたのも面白いと思った。音楽を配信するというインフラ部分で勝負するのではなく、レコメンデーション機能で勝負しようといくことなんだろうか。

 あとは梶原さん同様、Soundropがおもしろいと思った。「テレプレゼンス」というキーワードが呼ばれることが多いんだけど、離れた場所にいながらリアルタイムで体験を共有できるというのは、斬新。体験した人は「めちゃくちゃおもしろい!」って言うんだけど、一度体験したいと思う。

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