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日本人として初めて米マサチューセッツ工科大学ーMITのメディアラボの所長に就任した伊藤穣一氏が1月17日、東京・汐留の電通ホールの開催された「MIT Media Lab @Tokyo 2012」で講演した。
日本で一般から広くゲストを集めたイベントは今回が初。イベントのテーマは「The Power of Open, Scaling the Eco System」。MITメディアラボ創設者のニコラス・ネグロポンテ氏を初め、多くの研究者や日本からのスポンサー(メンバーと呼ぶ)が会場に集まりセミナー等を実施した。それではオープニングの挨拶として講演された内容をお伝えしよう。
“インターネット前”と“インターネット後” MIT Media Lab 所長・伊藤穣一
ありがとうニコラス。ニコラスの話にも出てきましたけれど、メディアラボというのは25年以上前に創業されて、そこで皆さん25年前を思い出して頂きたいんですが、まずインターネットがあったんですね。
メディアラボの中でインターネットの初期の色々なアイディアやイメージを出しデザインをしてきたんです。それから25年間メディアラボは進化してきているわけです。
ちょうど面白い分岐点があって、自分の人生もそうですし、我々人間の文明もみんな“インターネット前”と“インターネット後”で分けることができると思うんですね。これが今日のテーマです。
インターネットがどんだけ我々のイノベーションだとか社会にインパクトを与えるものであることを深く考えて行きたいと思うんですよ。一つ重要なポイントは、インターネットは技術ではないということ。
インターネットというのは一つの哲学。先程のニコラス・ネグロポンテの話にもあったようにインターネットは技術だけではなくて、全体的にアートの部分だとか社会の部分も考えてやっていかないといけない。インターネットは我々の進化に影響を及ぼしていて、始めに言ったように僕は世の中は2つに分かれていると思うんです。BIとAI。BIはBefore Internet、AIはAfter Internet。
まずはBI(インターネット前)の話。世の中は比較的シンプルだったんですね。プロダクトも例えばウォークマンのような時代を代表するものも比較的に独立した存在だったわけです。
ニコラスがメディアラボを創った時は、カメラとカメラマン、人間とコンピュータだとか個人をいかにエンパワーするかということがその時代の課題だったわけです。
それがネットワーク時代になってくると、世の中が比較的複雑になってきて、プロダクトがエコシステムになってきて、だんだん構造が変わってくるわけです。
これが従来のBIのイノベーションのやり方です。
今でもこれは使われていますけど、大体大企業や国が世の中で一番頭のいいエキスパートを集めて、僕が過去インターネットに関する活動をやっていた頃はCCITTと呼ばれていたITUのような国際機関で議論をして、あらゆるリスク、あらゆる可能性を全部プランニングして、それを総てをぶ厚いスペシフィケーション(仕様書)にまとめるわけです。一人の人間が消化しきれないほど複雑なものです。
現在の携帯電話のネットワークであるとかインフラに関連するITというのは今もこのような手法でやられているわけです。これを大企業がソフトウェアやハードウェアを開発し、消費者が利用し消費し、税金に課せられるというもの。ゆるやかに何年もかかるきちっとしたシステムで、これが従来型の開発プロセスです。
ソフトウェア開発の世界はよくウォーターフォールという言葉が出てきます。仕様書を決めて何年もかけて開発していくというもので、作ったものをクオリティチェックをして出荷する。インターネットのイノベーションと全然違っているんですね。
インターネットはみんながまずつながっていて、そしてみんなが議論しながらどんどん作っていく。これはフラットな構造で “規格” 呼ばれるものはとても薄っぺらいもの。
その一方、インターネットエンジニアリングタスクフォース(IETF)という機関があって、インターネットのネットワークの仕様などを決めるのだけど、彼らはリクエストフォーコメント(Request for Comment:RFC)とう規格でコメントの応募を受けてディスカッションに参加しみんなで決めていくんです。とても謙虚ですよね。
これは完全な分散型です。だから、皆さん覚えているかどうかわからないですけれども、1980年代後半のインターネットの誕生の頃、CCITTという機関がH.25というパケット通信ネットワークを作っていて、それとすごく似ているんです。
H.25もインターネットもアメリカから生まれていてとても似ているんですが、一つは中央管理型の政府主導型の規格で、もう一つは完全な分散型でMITやスタンフォード大といったアカデミックな機関によって開発されていったどちらかというとボトムアップで構築されていった規格。それが最終的には後者のインターネットが勝つわけです。
この時代は、高橋徹さんだとか村井純さんなどが日本にインターネットを持ち込んでいて、そのな最中、「インターネットは違法だ」とか「誰も責任取れないネットワークなんてあり得ない」とか学者なんかが書くわけです。
おもしろいのが、ヨーロッパはインターネットが遅れるわけです。アメリカは最初からインターネット。日本は日本的に口では「CCITTだ」といいながらインターネットをやっていたり、その中で電話会社の中ではNTTが比較的早くインターネットを取り込んでいて、日本もインターネットに乗り遅れなくて済んだわけです。
とにかくコードを書け
これは何かというと中央管理型イノベーションと、分散型イノベーションの競争で、分散型が勝つわけですね。これはどういうことかというと、今までは権力を持っていた人が勝つわけですね。その時代はモデムなどでも国の認可がないとネトワークにつなげられなかった、すごい大組織の人しかイノベーションに参加できなかった。ベンチャーや学生などは通信なんていじることもできなかった。
これっていうのは色々な影響があるのですけれども、さっきニコラスはアーティストと技術の関係性が重要だといいました。レッシグ教授はcodeという本の中で、ソフトウェアは法律とほぼ同じで、アーキテクチャは政治に似ている、従ってソフトウェアを開発する人は法律や社会に対するインパクトを考えることができると述べている。この本を読んだ若い技術者から「政治なんて考えたくない」と言われるのだけれど、彼は「技術だけを考えることはできない」と返すのです。
彼はMITにいるDavid Clarkという人で、インターネット一番最初のアーキテクチャーのボードにいた人で、彼の言った言葉で「Rough Consensus, Running Code」=「ゆるやかな合意でとにかくソフトウェアを書け」というもの。
今までの中央管理型というものは、あらゆる全てのリスク、あらゆる可能性を設計して作っていく。そうではなく、とりあえず作ってやりながら考えるというもの。この発想はニコラスが話していたメディアラボの哲学にちょっと似ていて、あんまり一生懸命考えて企画し過ぎるのではなくて、とりあえずやってみようというもの。これはインターネットの遺伝子のようなもの。
彼はDavid Weinbergerという先生で。「Small Pieces Loosely Joined」小さなパーツでゆるやかに勧めていくと言っている。
インターネットで本当に影響のあるチームは、大体が少ない人数でやっている。ウェブブラウザにしてもTCP/IPにしても、Twitterのようなサービスにしても、とっても少ない人数で大学やベンチャーの中で開発し、オープンなプロトコルの中でゆるやかに育っていく。
もう一つ重要な観点というのは、一人一人が作っているというものは「自分が想像した以外の使われ方を喜ぶ」というところ。これは、そう中央管理型と逆のもの。中央管理型というのは、自分達が想定していない使われ方を拒否する。インターネットの考え方というのは自分が想像できないことが色々あるだろうというというもの。Twitterなどはまさにそう(そもそも行き先伝言板として開発)。そういうネットワーク型の作り方というのが「Small Pieces Loosely Joined」ということ。
【関連URL】
・MIT Tokyo Conference 2012
http://www.media-lab-tokyo.jp/
・伊藤穣一氏 MITメディアラボ所長に就任 “より広義の活動へ”【増田(@maskin)真樹】
http://techwave.jp/archives/51656865.html
8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。codeが書けるジャーナリスト。1990年代は週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーでベンチャー起業に参画。帰国後、ネットエイジで複数のスタートアップに関与。フリーで関心空間、富裕層SNSのnileport、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。“IT業界なら場所に依存せず成功すべき”という信念で全国・世界で活動中。イベントオーガナイザー・DJ・小説家。 大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。スタートアップ支援に注力、メール等お待ちしております!