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僕のことをいまだにメディア関連のジャーナリストだと思っている人がいるようで、メディアの今後についての講演や執筆依頼がときどき寄せられる。ありがたい話だが丁重にお断りすることにしている。なぜなら自分の中でメディアの未来に対する答えが既に出たので、この領域に関する興味がなくなったからだ。
インターネットの影響でメディアはどのような変貌をとげるのだろうか。最初にこの問いに興味を持ったのは1995年のことだった。インターネットの商業利用が始まったころだ。
そのときは通信社に勤める記者だったので、自分の将来にも関係する話だった。インターネットがメディアに与える影響に関して取材を重ねた。
サンフランシスコ支局から「電子新聞の衝撃」というタイトルの連載原稿を5本まとめて書いて、本社に送ったことを憶えている。勤務する通信社を通じて全国の新聞社に配信されたのだが、実際にこの原稿を採用した社は1社もなかった。突拍子もないテーマに、おどろいて反応できなかったのかもしれない。ただこの原稿は社内で回覧されたようで、部長職以上の全員にコピーが配布されたと聞く。その際にほぼ全員が「パソコン画面で記事を読む人なんていない。いちいちプリントアウトする人もいないだろう」「新聞がなくなることなんてありえない」という反応だったそうだ。
そして2000年に帰国。2003年に「ネットは新聞を殺すのか」(NTT出版)という本を出した。競合通信社の編集委員から「同じ新聞業界に、このような本を出す人間がいたことは驚きだ」と批判された。ネットが新聞事業に悪影響を及ぼす可能性があると論じることさえ、まだタブー視された時代だった。
その後、社長室の経営企画部門に移動となり、世界の新聞社の動向やオンラインメディアの動向を調査した。
つまり15年以上も、新聞やメディアの未来に思いを馳せてきたわけだ。その結論が、メディアはコミュニティになる、というものだった。情報は、上から下へと一方通行で流れるものではなく、同じ関心事を持つ人の間で情報が交換され議論され、幾つもの「事実」が提示される中で、各人がそれぞれに結論を抱くようになる。そしてその結論を基にそれぞれが実際に行動に移していく。それがメディアの未来の形だと思った。
しかしそのころコミュニティとして成り立っているメディアはほとんど存在していなかった。メディア業界で先行しているといわれるニューヨークタイムズやブルームバーグ通信を見ても、そこにメディアの未来のカタチがあるようには思えなかった。オンラインメディアの先行事例といわれるハフィントンポストやAOLにしても、ソーシャル以前の時代に最適化された過渡期のメディアのように思えた。ブログメディアとして米TechCrunchなどは非常におもしろいと思ったが、それでも現時点に最適化されたメディアであり、これからのメディアのカタチを先取りするものではないように思えた。
しばらくは新しいメディアの形は現れないのかもしれない。「メディアはコミュニティになる」という確信だけを持ったまま、メディアの未来に対しての興味も薄れていった。
その未来のカタチ、コミュニティメディアのカタチを持つ最初のメディアとして、僕が遭遇したのがgreenz.jpである。
最初にgreenz.jpのことを知ったのは、オンラインメディアに関する何かのアワードのときだったと記憶している。そのアワードは読者からの投票で優劣が決まる仕組みで、TechWaveもノミネートされていたことから投票状況を確認したときに、greenzという聞きなれないメディアの名前を目にしたのだった。しかもgreenzは非常に多くのユーザー投票を獲得していた。著名なメディア以上に支持を集めていた。名前も知らないメディアが、ここまで多くの読者の支持を集めているー。衝撃的だった。
その後greenzの編集長の兼松佳宏氏と何度か意見交換させていただいた。greenzは明確なミッションを持っているメディアだった。ネガティブなニュースではなく、解決策を示してくれるようなポジティブなアイデアを提供するメディア、素敵な未来を作ろうとしている人たちを応援するメディアだ。greenzというメディアを核に、パワーのあるコミュニティも育っている。「自分たちの手で社会をよりよくしよう」というミッションを持って集まってきた人たちに支えられているコミュニティメディアなのである。
これこそがメディアの未来のカタチである。何かを成し遂げたいというミッションの下に人々が集まり、その人達によって運営、支持されるメディア。そして実際の行動にもつながっていく。これからこうしたミッションを掲げ、コミュニティを形成するメディアが、いろいろな分野で登場してくるのだと思う。
僕自身、greenzに大きな影響を受けており、TechWaveの方向性を決める上でもgreenzのあり方を参考にさせてもらっている。
そのgreenzが社会をよくするアイデア、greenzのエッセンスを一冊の本にまとめた。「ソーシャルデザイン