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音楽とテクノロジーの今後に熱いヤツらがSFに集結ーMusic Hack Day&SF Music Tech Summitレポート【村木香苗】

[読了時間:1分]

音楽というジャンルは、コンテンツ産業の中でもテクノロジーの影響を最初に受ける領域の一つ。逆に、「感性」を刺激させる豊かさは、テクノロジーの側に欠ける部分であり、両者の繋がりは今後より重要になるでしょう。私も来月(音楽・映画・ITの祭典)SXSWへ行ってきますが、もっと濃いイベントがあるよと教えてくれた、コンサート情報の共有サービス「gigle」を運営する村木香苗さんに寄稿してもらいました。(本田)

村木香苗
(@eicymusic)

 全世界12都市で同時開催のSocial Media Weekの期間中、サンフランシスコで開催されたMusic Hack DaySF Music Tech Summitに行ってきました。全世界からWebサービスやアーティストが集結するSXSWや、音楽見本市老舗のMidemと比較すると、開催期間も各1日、かつ会場も1つと、派手さに欠けるイベントですが、その反面、音楽ビジネスのこれからを考える人とサービスが、ぎゅっと凝縮された面白いイベントでしたので、お裾分けレポートさせて頂きます。

「Music Hack Day」(2月12日)

 Music Hack Dayは、24時間で音楽のアプリをつくるハッカソンイベントです。2009年のロンドンで開催して以来、世界の各都市で開催され今回が20回目。毎回、異なる複数の音楽サービス企業がイベントを主催し、音情報を分析するAPI、The Echo Nestをはじめ、Sound CloudやSpotifyなど、音楽好きにはおなじみの音楽サービス企業がサポートしています。

 実際のハッカソンに参加しない人も、2日目のデモ発表は見学可能ですが、チケットは早々に予定枚数が終了してしまったという人気ぶり。今回会場となったサンフランシスコのスタートアップ企業tokboxには、200人以上の音楽好きな開発者が集結し、全62のサービスが発表されました。その中で個人的に気に入ったサービスを2つご紹介。


concert2021
 SoundCloudの開発者チームがつくった、2021年のコンサートをイメージしたアプリ。アバターを動かして、会場の歩き回って音を楽しんだり、腕を動かしたり出来ます。キャッチーな見た目とは裏腹に、一部の大手のチケット企業がコンサート市場を独占すると、未来のコンサートはこんな風にバーチャルになるしかないというメッセージが込められています。 (http://concert2021.com/

Kaossonome
 TENORI-ONやKaoss PadライクなiPad版のシンセサイザー。加速度センサーに反応してボリュームが変化するなど、そのまま売ってそうなくらい完成度が高く、デモで拍手喝采が巻き起こった作品。近日中に販売をしたいとの事。これは欲しい!(http://alexander-randon.com/

 Music Hack Dayは、次回3月にアムステルダム、4月にシドニーでの開催を予定しています。音楽好きなプログラマーの皆様、是非ご参加くださいませ。

「SF Music Tech Summit」(2月13日)

 Music Hack Dayが開発者のイベントなら、SF Music Summitは音楽ビジネスに関わる全ての人のためのイベント。Spotify、PandoraなどのBtoCサービス、OneSheet、RootsMusicなどのBtoBサービス、SoundExchangeなどライセンス関連に加えレコード会社やマーケッターなど、日頃から音楽サービス関連を追っている方には、おなじみのメンツが勢揃いでパネル・ディスカッションに参加します。

 映画「キル・ビル」を彷彿とさせる、ちょっと不思議な日本的デコレーションが特徴的なKabuki Hotel内の会場では、5つのセッションが同時進行。どの部屋も立ち見が出るほど満員で、スピーカーとオーディエンスの距離が近く、質問が飛び交い、今後の音楽ビジネスについて意見や情報を交換し合う参加者の熱気で溢れていました。

ソーシャルメディアはファンのデータベース

 印象的だったのは、ソーシャルメディア上でのアーティストの情報発信は、既に当たり前のものとして語られていたところ。ソーシャルメディアにより、ファンが何処にいて、誰が影響力を持っているかなど、細かなデータを集める事が可能になり、更にモバイルの普及によって、位置情報やリアルタイム性が加わりました。セッションのテーマは、集めてきたファンのデータをどう分析・活用して、より効果的なプロモーションの方法を考えるかにシフトしていました。

 簡単に貴重なデータが集まりやすい環境にある事は、コンサートの収益が重要なアーティストにとって、チャンスであること。それを踏まえた上で、新しいネットサービスに詳しい若い人を担当者に置き、一過性のキャンペーンではなく、ソーシャルメディアでの長期間の戦略を立てること。写真やビデオを撮って広めて貰えるような、ファンが自分ごととして感じられる”体験”を創造することが重要など、プロモーションツールとしてだけではなく、データ解析ツールとして捉えた上での、ソーシャルメディアの活用方法が議論されていました。

開発者向けの環境整備とコラボレーションの加速化

 ソーシャルメディアがファンのデータベースならば、音楽サービスのAPIは、アーティストやサウンドのデータベース。前日のMusic Hack Dayが象徴するように、音楽サービスがAPIを提供する事で、他サービスとの連携や、新たな音楽サービスが創造されるエコシステムが既に出来上がりつつあります。一方で、音楽ビジネスにおいて複雑なライセンスの問題はつきもの。そこで、レコード会社もやっと重い腰を上げて、スタートアップを支援する動きも始めています。

 パネルディスカッションで話題になっていたのは、EMIが取り組んでいるOpenEMI。EMIは、The Echo Nestとのパートナーシップにより、開発者向けに1500曲以上のデータと音源のAPIと、特定のアーティストの音源やビデオ、アートワークやディスコグラフィーを集めたAPI の提供を開始しています。

 また、The Echo Nestは、歌詞のデータベースサービスLyricFindとのパートナーシップにより、1曲づつの煩わしい許諾申請なしで、正規にライセンスを受けた歌詞を音楽サービスに組み込む事が出来るサービスもスタートさせました。音源そのもののみならず、音楽にまつわるあらゆるコンテンツからのマネタイズを可能にさせるプラットフォームづくりは、これからもっと加速していくと思います。

音楽サービスで繋がりたいなら結構オススメ!

 SF Music Tech Summitは、音楽のWebサービスに関して、特にアメリカで売りたいもの、探したい人がいる人には最高の場所かも知れません。参加者の大半は、サンフランシスコを拠点としている音楽業界の人達、さらに音楽サービスのスタートアップ企業は、ほとんど知り合い同士。それ故に、新参者には敷居が高く感じられる部分もあります。

 でも、誰でも参加できるピッチ・セッション(私もやってみました)や、アフターパーティーも同じ会場で用意されているので、名刺は溜まるけど人が多くてキーパーソンと話す時間が少ないSXSWより、自分やサービスの事を知って貰えるチャンスは多いのではないでしょうか。また、Techという名前ながら、これからの音楽ビジネスにおけるマーケティングやマネタイズのお話がコアな部分のため、レーベルなど音楽業界の方にも、現在の欧米の音楽マーケットの動向が一日で分かるイベントとしておすすめです。

 今回は、完全にプライベートでしたが、日本の音楽マーケットもテクノロジーとのコラボレーションが活発化して、面白い事がたくさん起きるように、頑張ろう!っと決意を新たにした旅となりました。楽しかった!

著者プロフィール:村木香苗(@eicymusic)

gigle (http://gigle.jp/)というコンサート情報を共有するサービスなどつくっています。
好きな音楽は、3ピースのヒリヒリしたロック。

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