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宅麺を運営するグルメイノベーション株式会社の井上琢磨さんから、「マイナス20度の冷凍倉庫見に来ませんか?」と誘われたのが先月。宅麺といえば、2010年7月のオープンから約1年半で10万食を達成するなど、着実に成長をしている企業。
その舞台裏を知るべく、早速、倉庫を見せてもらうことにしました。
小さな子供をあずけてまでラーメン屋さんに行ける女性はいない
宅麺とは、ラーメン屋さんで作ったラーメンを、そのままの味で自宅に届けるECである。スーパーなどで売っている有名店の名を冠したラーメンのスープは、粉末など濃縮タイプだが、宅麺はラーメン屋さんの厨房で実際に作られたものを使っている。茹でる前の麺や、スープ(冷凍しても風味が変わらない肉などの具材とともに)をそれぞれ冷凍させ、パッケージにして宅麺の倉庫から我々に届けられる。
行列の出来る有名店でも空き時間があり、そこは仕込みの時間帯となることが多い。その時間で宅麺用に作ってもらえれば、特別な手間やコストは掛からない。また、その日余ったスープを商品化すれば、ロス率の低下に繋がるのもラーメン屋さんにとってのメリットだ。
井上さんがラーメンに着目したのは、ラーメンは行列して食べる人もおり、好きな人にはエンターテインメントと言えるくらい嗜好性の高い、つまりコンテンツ力のある商品であること。その一方、ラーメンのスープは寸胴で8時間も煮込むなど、自宅での再現が容易でないことがある。
また、以前お持ち帰り用のラーメンを持って帰った時、お母さんや奥さんがとても喜んだことが、井上さんの記憶にあった。
「女性はラーメン屋さんに中々入りづらいんです。子供を産んだ後は、小さな子供を連れて並んだり、カウンターに座ったり出来ないんです。記念日にフレンチなら子供をあずける理由になるけど、ラーメンのためにそんなことはしない。マーケットとして潜在的に大きいのでは?と思っていました。」(井上)
スープを凍らせるというハードル
ラーメン店の店主には強烈な個性を持った人が多い。新規のビジネスである宅麺は、どのように参加店舗を増やしていったのか。
店舗獲得は、まず飛び込みのテレアポから始まる。「5分でいいから聞いて下さい」と。飲食店の経営を10年やってきた経験から、野間口さんは店主にとっての時間の大切さが分かっていた。最低限のことを5分で伝え、必要があれば次にまた5分。1回で話がまとまるところもあれば、何回も説明を重ねたところもあったそうだ。
次のステップは、スープを一度凍らせてもらうことである。凍らせると味が大きく変わるという先入観を持つ店主は多い。
「自分のラーメンのスープを凍らせることに対するハードルが異常に高くて、怒り出す店主や電話を切る店主も結構いました。命の次に大切なスープを凍らせるわけですからね。」
「でも、とにかく一回テストして下さいと。すると、意外にイケるじゃないかという人が多くて。」(野間口)
最初に参加を取り付けた店へは、週末になると、井上家・野間口家が代わる代わる家族連れで来店するなどして、店主のハートを掴んでいった。初期の5-10店舗の間に有名店が2店舗入ったことで、以来「ここがやっているなら」と営業が楽になったそうだ。
「今まで味が再現出来ないとNGが出たところは、200店舗アタックして2-3店舗。しかも、僕らが食べさせてもらっても違いが分からないレベルでの差でした。」(野間口)
「宅麺食べにおいてよ」から広がったファン
一昨年の後半程だろうか。友人・知人がネット上でしきりに「宅麺・宅麺」と言い出したことを思い出す。井上さんによると、「ソーシャルメディアやフラッシュマーケティングの波に、上手く乗れたかな」とのこと。
まだ宅麺のオフィスが渋谷にあった頃、「お腹が減った」と渋谷でツイートした人を見つけると、「宅麺食べにおいてよ」とオフィスに呼んで宅麺を振る舞っていたそうだ。そんなリプライにも臆せずやって来た人には、面白い人やインフルエンサー的な人が多く、その様子がまたTwitterで拡散されていった。やがて、一度宅麺を経験した彼らが友人を連れてくる連鎖が発生、初期のファンが着実に増えていった。
また、2010年夏はフラッシュマーケティングの勃興期、各社がプロモーションに力を入れていた頃だ。時には運営者がマーケティングコストとして負担した上で商材を出すことも少なくなかった。井上さんは、前職(トラフィックゲート)での経験から会員登録のためのコストが良く分かっていた。季節は秋になり、「そろそろラーメンの季節だよね」と、お互いのプロモーションに資すると判断し、利用を決断した。その結果、グルーポン、ポンパレを始め、いくつものフラッシュマーケティングに乗って宅麺の認知が拡大されていった。
宅麺は、その時その時のツールを自在に活用し、話題を作れる嗅覚がある。他にも、CAMPFIREでは初の100万円超え案件を作り出し、最近は、クラウドワークスで最初の成立案件にもなった。
オフィス移転と今後の海外展開
以前は受注生産だったため、注文から手元に届くまでに時間がかかっていた。業務の拡大に伴い在庫モデルに転換し、2011年11月、ここに倉庫を移した。さらに、自分たちスタッフにも物流の経験を持たせるため、倉庫内にオフィスも持って来たのが、2012年の3月末。
倉庫には最大5000食が保存可能で、多い日には一日1000食以上が発送される。店によって宅麺用に用意出来る量も異なり、そもそも人気・売れ行きも異なる。そういった条件に応じた在庫・発注管理をし、常に回転率のコントロールに注意を払っている。
食品に関する様々な規格による「冷凍商品」には急速冷凍という要件があり、それを満たしたものには賞味期限1年が設定出来る。しかし、常に-15度以下で保存されているものの、各店舗で冷凍させている宅麺は、「冷凍食品」とは明示出来ない。
また、ラーメン店で作ってもらうには生産量がボトルネックとなり、宅麺の倉庫への送料もコストを上昇させる。そのため、将来的には宅麺側で生産設備を持つことも準備しているそうだ。これによって在庫管理が容易になり、今後の展開が仕掛けやすくなる。例えば、TV通販や百貨店の物産展のように、一定期間で大量の商品を用意する必要のあるイベントは、売れ残りのリスクも高い。だが「冷凍食品」として作れれば、長い賞味期限を活かして次のイベントで売ることも可能になるという。
その延長線上で宅麺は海外も視野に入れている。海外でラーメンは、寿司に次ぐ日本食として認知されている。しかし日本ほど冷蔵冷凍での物流が整っている国はなく、現状の流通形態としての宅麺を海外に持っていくのは難しいとのこと。
よって、日本で話題になっているラーメンが食べられるという店舗展開という形態や、あるいは海外にも生産設備を用意するなど、いくつかの可能性を検討しているそうだ。井上さんによると、実際に海外からも既に注目を集めているそうで、数カ国からオファーが来ていると明かしてくれた。
1000円分の宅麺クーポンが付いた「お取り寄せラーメンBOOK(通称:宅麺ムック本)」の一般発売を記念して、5月20日12時までに 宅麺.com (http//:www.takumen.com/) サイトにて5000円以上購入した先着100名様に、同書がプレゼントされるとのこと。
キャンペーンの詳細はFacebookページにて。
さて、私は行列してまでラーメンを食べたいとは思わない人なので、宅麺さんのオフィスで頂いたラーメン(本エントリに写真がのっている2つ)が、実際の有名店舗の味とどれだけ同じなのかは分かりませんが、有名店とか冷凍とか関係なく、とにかく美味しかったことは事実。逆に、実際の店舗に行ってみたくなりました。
そう言えば、海外出張の特、無性にラーメンが食べたくなります。宅麺が自分たちの厨房を持つと、その味が海外でも堪能出来るというのは、何とも嬉しい話。再現方法など工夫のしどころは、たくさんあるのでしょうけど。
写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。
技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。
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iiyamaman[at]gmail.com