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ソーシャルTVは今、僕が最も注目する領域の一つ。スマートフォンが普及したことで、スマホとTVのダブルスクリーンを使っていろいろとおもしろいソーシャルな取り組みが可能になってきているんだと思う。
そのソーシャルTVに関するカンファレンス「SOCIAL TV world summit」がロンドンで開催中だ。その模様をバスキュールの西村真里子さんが現地から早速リポートしてくれた。バスキュールは、ソーシャルと広告に関しては、日本いや世界最先端を走り続けているクリエイティブ集団。そのバスキュールの西村さんが世界の動きをどのように見たのか。まずは1日目のレポートから。2日目のレポートも送ってきてくれるというので非常に楽しみ。(湯川鶴章)
西村真里子
オリンピックや女王在位60年、チェルシーがヨーロッパリーグを制覇するなど、町中が盛上るロンドンで2012年5月22日、23日の日程でSOCIAL TV WORLD SUMMITが開幕しました。
今後市場の拡大が見込まれる「ソーシャルTV」について多角的に検証し、エコシステムの構築を検討するために、世界中からテレビ局やスタートアップ企業、エージェンシーなどが集まる貴重な機会です。講演者は、テレビメディア側としてBBC、MTV、Sky、一方ダブルスクリーンアプリ提供者としてShazam, Foursquareなど、多彩なキーパーソンが登壇。セッション毎に異なる立場から「ソーシャルTV」を検討できる魅力的なイベントになっています。
わたしが所属するバスキュール/バスキュール号というデジタルコミュニケーション・クリエイティブ会社は、2011年末より日本にてスマホ・ソーシャル・テレビ連動事例の企画・開発・提供を開始しています。ですので世界の事例や動向、「ソーシャルTV」エコシステムを各国のプレイヤーがどのように考えているのかに興味しんしん。日本の「ソーシャルTV」エコシステム構築に貢献したいと思って当サミットに参加することにしました。
「ソーシャルTV」は単なるバズワードではありません。ガートナー「先進テクノロジーのハイプ・サイクル2011年」でも、今後5-10年で伸びる技術としてみなされています。将来のテレビ・テクノロジーはどのようになるんでしょうか。そう考えならがソーシャルTVの事例を調べていると、なんだかワクワクしてきます。
「テレビを中心にテクノロジーとエンターテイメントが結びつきはじめた。いまデジタルクリエイションの世界が面白い!」との主催者Informatelecoms & media のコメントからサミットはスタートしました。「ソーシャルTVは既に始まっている」と、直近の事例として紹介されたのがサミット始まる数日前の5月19日に開催されたサッカー チャンピオンズリーグ(CL)決勝の英チェルシーVS独バイエルン・ミュンヘンの試合です。この決勝戦ではチェルシー、バイエルンの各チームおよびテレビの前のサポーターだけではなく、サムソンなどのスポンサーも巻込んでTwitterが活用されたんです。
Mashableの記事によると、英チェルシーに言及したTweet数の割合は善対の73%、独バイエルンのTweet数は27%。その結果を見てTweets数でもチェルシーが勝った!と英国人である主催者はオープニングセッションを嬉しそうに締めくくりました。
このイベントにはドイツからも多数参加しているはず。ここまで主催者が英国ファン気質を全開されると、さすがにドイツ人参加者に対し若干気の毒に思いましたが、それでもサッカーのテレビ放映が、欧州でも「ソーシャルTV」のブレークスルーと捉えられているんだなと改めて実感しました。バスキュール号も日本でテレビのスポーツ放送とソーシャルを組み合わせた仕組み
「Social Stadium System」を開発、展開していますが、やはりスポーツのテレビ放送と「ソーシャル」を掛け合わせると、ものすごいパワーを生み出すんだと思います。
基調講演スピーカーのTrendrrのCEOMark Ghunheimは、「ソーシャルTV」エコシステムの未来は明るい、と3つの理由で紹介しました。
1) 前年比194%、ゴールデンタイムのソーシャルアクティビティの拡大
2) ソーシャルTVへの巨額投資
3) 2015年迄に”インフォテインメント”が3兆ドルの市場に拡大すると予測
ソーシャルTVのエコシステム、関連企業は今後さらに増加するだろう
たしかに、日本でもニュースにTwitterハッシュタグを利用しソーシャル視聴できる取組みや、アニメのあるシーンにあわせてみんなでつぶやくことにより秒間2万を越えるようなTweet Per Second(TPS)記録を出すなど、テレビとソーシャルとの事例が身近に出始めています。2011年よりも2012年、そして今後5-10年に市場が大きく拡大するというTrendrrの予測には納得です。
ただ健全なエコシステムを構築するためには、いくつか課題があります。テレビ視聴者に「嫌われない」ユーザー体験の提供、プラットフォームのオープン化、予算投下する広告主の獲得が必要不可欠です。
テレビ視聴者に「嫌われない」ユーザー体験の提供
初日のセッションでは米国や欧州のセカンドスクリーンアプリがいくつか紹介されたのですが、「ユーザー体験」UI/UXに気をつけるようにと大手テレビ番組製作会社Endemoll Worldwide BrandsのCEO, Olivier Gersが語っていた事が印象に残りました。バスキュールも「毎日使いたくなる楽しいUI/UX」を一番大切にしようと思っています。ですので、大変共感できました。
Endemolは過去にTHE MONEY DROPというテレビプログラムのXbox参加型アプリをリリースしたのですが、その経験を通じて学んだこととして、①ユーザーに’ペース’を作らせる事(ユーザーの今までのテレビ参加体験から”掛け離れない”ゆっくりと参加できるようにすること)、②ライブの参加体験を味わわせること、③ソーシャルで友人とコミュニケーションする楽しさをアプリで提供する必要があること、と紹介。「ソーシャルTV」事例が少ない今、過去の経験談を聞けるのはとても貴重でした。
プラットフォームのオープン化
英国で人気の電子番組表サービスZeeboxのファウンダー&CTOのAnthony Rose氏は、BBCのiPlayerの元開発責任者です。同氏は近い将来テレビ番組の半数以上がユーザー参加型になると予測し、その将来において、テレビ番組毎にアプリをダウンロードさせるスタイルは成立せず、友人やタレント、スポンサーの参加が一覧で見られるテレビ番組表、またそのアプリが必要になると考えZeeboxをリリースした、と開発経緯を紹介してくれました。
日本の「ソーシャルTV」系アプリがポコポコと出始めている今、個別のテレビ番組アプリが乱立するのはどうなのだろうと懸念していたので、Zeeboxのセッションで統合的なアプローチで進む事が結果としてコストダウン、そして長く使ってもらえるサービスとなる、と改めて認識させられました。さすがBBC iPlayer時代からのノウハウがある人のアプローチは説得力あるな、とAnthonyのセッションに聞き惚れた事も白状しておきます。
広告主の獲得
収益面では、 ZeeboxはtCommerce(テレビコマース)により収益の一部を補おうとしています。テレビを見ていて気に入った商品があったらクリックひとつで購入できる仕組みです。いままでのようにテレビを見て気に入った商品を検索、関連ECサイトへアクセス、購入などの複数ステップが省略できます。広告主としてもテレビの臨場感の延長上で商品購入してもらえるのでより積極的に取り込めるtCommerceです。
また、大手製作会社EndemolなどはソーシャルTV視聴率調査のBluefinやTrendrrなどのソーシャル視聴によりデータベース化されるユーザーインサイトを企業に売るマーケティングデータ提供により広告主を取組んでいるようです。
スマートフォンの人気アプリにShazamというのがあります。テレビやラジオで流れている音楽が気に入れば、Shazamを立ちあげてスマートフォンをテレビやラジオに向けるだけで、流れている楽曲を認識し、曲名を表示する、というアプリです。実際にShazamを活用したレコード会社の売上げもあがっているようです。
オーストラリアでは、テレビで放送したスマートフォンHTC Oneの新商品広告CM内で「Shazam for your chance to win one(Shazamアプリを起動するとHTC OneがGETできる!)」と告知し、CMとユーザーがインタラクティブにコミュニケーションできる事例を作っています。
また巨額の広告予算が投下されることで有名なスーパーボウル・ハーフタイムのテレビCMでは、半数近くの広告主がShazamを利用したそうです。テレビCMの放送中にShazam経由でユーザーと訴求商品をインタラクティブに結びつけ、広告途中・広告終了後も視聴者とコミュニケーションを取れるようにするので、購買意欲を高められるのだそうです。
Lost Remoteブログによると現在「ソーシャルTV」取組みをしている会社は85社あるそうです。
2012年以降「ソーシャルTV」取組み企業は拡大していく事が予想されますが、上記で述べた、エコシステムの構築のための広告主獲得、そしてオープン化、ユーザーに優しいUI/UXを実施した会社が生き残るのではないかと現時点では考えます。
また、日本企業に身を置くものとしては「ソーシャルTV」市場においては輸入のサービスではなく、日本発の「ソーシャルTV」の仕組みで日本のテレビ視聴者、広告主に満足していただける仕組みを作って行きたいと切に思いました。
サミット第一日目終了後、会場に隣接しているハイドパークを散策しながら「日本で同様のカンファレンスがある場合、誰を日本に呼んだらいいか?」と考えていた際の第一候補は ZeeboxのAnthony Roseでした。BBCにてブロードキャスターの立場でiPlayerを提供した経験と、現在のZeeboxとしてよりフットワーク軽く市場のうねりを察知して突き進んで行く姿、事例はもう一度聞きたいですし、日本の関係者と一緒に聞いて意見交換したいと思いました。
わたし自身はじめての「ソーシャルTV」関連カンファレンス参加だったのですが考える事・多角的に捉えていく事が多いので、日本でもカンファレンスを実施していくのが良いなぁ、と午後8時になっても明るいロンドンハイドパークを歩きながら思いました。 「開催しちゃいましょうか?!」 ※サミットの2日目の報告はまた後日。