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オープンから1年、楽天の底力で市場が拡大ーインドネシアのEC事情2【本田】

[読了時間:2分]

2012年6月7-8日、インドネシアのジャカルタで開催されたStartup Asia Jakarta(TechInAsia主催)。最終回は、ECの2回目として、順調なローカライズを遂げている楽天インドネシアについて取り上げる。

 楽天は、インドネシア版楽天市場「Rakuten Belanja Online」(ラクテン ブランジャ オンライン)を2011年の6月に本リリースした。リリースから1年、ジャカルタ進出から2年。その間の取り組みをPT. Rakuten-MNC(以下、サイト名と合わせて「楽天インドネシア」と表記)の稲葉陵太CEOと、金泰成氏に伺った。


楽天インドネシア・代表の稲葉陵太氏(左)と金泰成氏(Photo:Masahiro HONDA)

1年でトラフィック8倍、トランザクション20倍の成長

 楽天インドネシアは日本の楽天同様、BtoBtoCのECである。同形態の競合が多くて2万点に留まると言われている中、現在は20万点以上の商品数を誇る。この1年の統計上の数字を明らかにしてくれた。

ローンチ月との比較
商品数:5倍
トラフィック:8倍
トランザクション:20倍

現在
店舗数:登録300、開業200
ユーザーの男女比:男性65%・女性35%
ユーザーの年齢層:20-29歳が最多の49%
購入者の地域:ジャカルタ55%、それ以外45%(リリース時はジャカルタが90%)

代金引換用のバイク便システムを独自構築

 コアの部分は日本の楽天と同様だが、決済、物流、マーケティングと、インドネシアの地域特性に合わせたローカライズしている。中でも、日本では考えられない物流での取り組みが行われている。

 インドネシアには、ヤマト運輸や佐川急便のような個別配送を得意とする企業がない。ましてや、複数の場所から複数の場所への代金引換は、もっての外。契約している同国最大の物流企業JNEでさえ、それには対応出来なかった。


写真提供:楽天株式会社

 そのため、楽天インドネシアは、代金引き換え用バイク便システムを独自構築することになった。ジャカルタ市内に限るが、楽天のユニフォームを着たドライバーが、専用バイクでユーザーを訪れ決済をしている。最初は輸送用の箱に「rakuten」の文字を入れるつもりだったが、治安上の懸念が生じるという現地スタッフのアドバイスにより、それは取りやめとなった。

 また、専任ドライバーは、訪問先に小さい子どもがいたら、飴や折り鶴をプレゼントしている。単なるドライバーでなく、日本的なおもてなしの気持ちを伝えるサービス業としての社員教育をしているそうだ。

大手とのパートナーシップでECを広げる

 楽天が合弁を組んだMNCグループは、TVは40%、衛星放送に至っては80%ものシェアを誇る同国最大のメディア・コングロマリットである。外資に対する法律上の規制をクリアする意味合いもあるが、ビジネスを最も早く回すには、地場のしがらみを解決出来るローカルの強いパートナーの存在は頼りになる。一方、オンラインが弱いMNCに楽天の強みが加わることで、得られるものがあるとMNC側は判断したそうだ。

 同国ではまだまだ黎明期のEC市場。モールに入っているテナントの知名度・信頼性が重要になる。日本では小さい店舗から広まった楽天だが、インドネシアでは大手企業に参加してもらうことも重視し、楽天側から声も掛けている。既に家電No.1のエレクトリック・ソリューションズやベスト電器が参加し、売れ筋の携帯電話もトップ3企業が出店している。


1周年の記者会見にて。右端がMNCから参画したレイノ・バラク氏

職場からのアクセス、本体より送料が高くても購入・・・旺盛な購買力

 インドネシアのネット普及率は、まだ人口の20%程度だ。そのため、職場からアクセス・購入しているユーザーが多い。楽天インドネシアのトラフィックのピークは午前11時。昼休みに落ちついて、また13時に上がるそうだ。(日本は18時以降に伸び、21時頃がピークとのこと。) 働いているのか?と思ってしまうが、この辺はお国柄だ。ここでは、11時から15時がタイムセールの時間である。

 サイトは、Android対応をちょうど済ませたところだ。スマホからのアクセスはPVベースで10%超えているが、小さい画面での操作は難しいらしく、購入となるとまだ少ない。スマホに関しては、今は下地を作っている段階という。1年後にはここの数字も伸びているだろう。

 サイトオープンから程なくし、カリマンタン島から掃除機の注文が入った。送料は本体よりも高いが、それでも躊躇なく買ったという。離島はそもそも店や物がなく、購買に対するニーズがある。また、そういった島は資源に富み、お金持ちが多いことも理由の一つだ。現在は、45%がジャカルタ以外からの購入である。

「出来ない理由はたくさんありますが、出来る方法を一つ一つ洗い出しています」

 今後の課題を聞くと、「課題ばかりです」との返答が返って来た。「ECは難しくないよ」と、ユーザーにも、店舗側にもハードルを下げてもらう努力を欠かしていないという。ユーザー向けには、前述の代金引換えシステムや、インドネシアでは前例のないコンビニ受取りサービスを始めた。決済や配送の問題は今後も一つ一つ解決していく。

 これまで参加してきた店舗の担当者には、ECの経験は当然なく、PCを触ったことさえない人もいた。そういった人たちにもECの可能性・興味を持ってもらい、出店の研修など、育成から手がけている。これは、オンラインで物を売るノウハウがある楽天の強みだ。また、価格競争になりがちな家電だけでなく、レディースファッション、インテリア、グルメなど、バラエティに富んだプロダクトにも広げようとしている。

 東西に5000km以上ある国土。将来的には、地域ごとに店舗開拓をし、近隣から出荷させることで、送料を抑える。そのため、在庫管理など実店舗との連携も視野にあるようだ。

 「ネットというとアイディアでドーンといくような印象がありますが、実際に物を動かして、ペイメントゲートウェイと動いてと、ECは地道なビジネスです。ECはリアルとの結びつきが必要なので、インドネシアで根を張って、ローカルのパートナーと手を組んでやっていきます。」(稲葉)

蛇足:私が思うに、
 海外事業の経験が豊富な稲葉さんと、楽天生え抜きでECコンサルタントや新規事業の立ち上げをやって来た金さん。インタビュー時にも、お互いの得意なところは、相手を信頼して任せているチームワークの良さが伺えました。

 日本の楽天といえば、大企業で、正直我々が今さら取り上げるような物があるのかとさえ思っていました。しかし、ここインドネシアでは、過去の積み重ねはあるにしても、再び一から楽天という事業を立ち上げる開拓者のような気概を彼らは持っています。Startup Asia Jakartaの壇上でも、金さんは「我々はインドネシアでは、まだスタートアップだ」と発言していました。

 創業時のスピリット、そして英語化という取り組みの成果。いま最も楽天らしいことをしているのが、こうした海外部門なのかもしれません。

 インドネシアレポートはこれで終了です。

著者プロフィール:本田正浩(Masahiro Honda)

写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。

技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。

http://www.linkedin.com/in/okappan
iiyamaman[at]gmail.com

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