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西村真里子
デジタル領域でエンジニア、マーケティングを経験し、現職でプロデューサーという立場でソフトウェア/デジタル広告産業でキャリアを積んできた私にとって
「CES (Consumer Electric Show*、家電メーカーショー)はハードウェアメーカーの話が中心で自分には関係無い」と、数年前まで思っていました。
しかし、スマートフォン、タブレット等の消費者デバイスの普及・多様化、スマートTVの台頭など、ハードウェアデバイスを意識してデジタルコンテンツ・ソフトウェアを作る需要が高まると共に、3Dプリンターを例にソフトウェア・デジタルベースの企業がハードウェアに踏み込む「メーカーズ・ムーブメント」も始まっています。
ソフトウェアとハードウェアの垣根が下がり融合して考えて行かなければならない時代。そしてテレビ局や制作スタジオがバスキュールも注力しているセカンドスクリーン**に関するカンファレンス「2nd screen summit」が併設開催されるというので、「初めてのCES」を体験しに、ラスベガスに向かいました。
*CESの母体である CEA (The Consumer Electronics Association) はプレスリリース等で「Consumer Electric Show」と展開して表記せずに「CES」「2013 CES」と表記するように伝えています。「家電メーカーショー」から脱却し「最先端デジタルデバイスショー」へと移り変わろうとしているということなんでしょう
**セカンドスクリーンアプリ:テレビ視聴時にスマートフォンやタブレット上の補助ツールを利用して、よりテレビ視聴を楽しむ為のアプリ。タイムシフト視聴やVODなど視聴スタイルは様々あるが、当記事内ではライブ視聴時に必要になる補助ツールにフォーカス。またダブルスクリーンアプリ、ソーシャルTVアプリ、と同義とします。
2013 CESは2013年1月8日~11日に米国ラスベガス開催されました。メインの展示イベント等が始まる前日1月7日(月)には、「2nd Screen Summit」というセカンドスクリーンのビジネスモデル、広告/課金、アプリそのものについてのパネルディスカッションを、テレビ局、アプリベンダー、代理店など主要プレイヤーで行うイベントもありましたので、まずはそちらに参加しました。
http://www.2ndscreensummit.com/ces/
全部で2トラック、20セッション。全てパネルディスカッションだったので、かなりボリュームがあったのですがキーとなるところを紹介して行きます。

ブローシャーとバッジ。日本のテレビ局の方も多く参加されていました
メジャープレイヤーも参入!セカンドスクリーン業界
まずは会場で配られた資料に掲載されたセカンドスクリーンのメジャープレイヤーのリストを見てください。

昨年2012年5月にロンドンで開催された Social TV World Summit 2012内で発表されたプレイヤー数よりも明らかにプレイヤー数が多くなってます
参考:http://techwave.jp/archives/51746434.html
ただプレイヤーは一気に増えたものの、パネルディスカッションを通して感じたのは、マネタイズ、ビジネスモデルの成功法をいまだに皆で模索している状態ということです。
ではこれまでの試行錯誤の中で、どのようなコンテンツがセカンドスクリーンに最適だったのでしょうか。CBS放送のデジタル、ソーシャル活用を中心に見ているCBS InteractiveのシニアバイスプレジデントRob Gelickは「スーパーボウルを中心とするスポーツイベントが最適であったが、第54回グラミー賞にてスーパーボウル以上のソーシャルテレビ視聴体験を提供出来た」と語ります。

第54回グラミー賞のソーシャル施策では13million(1300万)ソーシャルアクティビティーがあった
「グラミー」というメジャーコンテンツの中で、視聴者ひとりひとりがセレブと繋がり、ソーシャル参加者も主役になるような仕組みを作った事により多くの人に参加してもらえるコンテンツ体験を提供出来たそうです。

「ソーシャルレポーター」として視聴者が主役になるような施策も取り込む事により最大限ソーシャル上でのグラミー賞を話題にする事ができたそうです
日本でも日本テレビ放送網のJoinTVカンファレンスで「金曜ロードショー」がソーシャル視聴に最適であるとの発表がありましたが、人々が既に知っているメジャーなコンテンツを活用しソーシャル視聴の楽しさを一般視聴者に伝えて行くということが、全世界的に見ても主要プレイヤーが現在最も熱心に取り組んでいることであることが分かりました。よりインタラクティブで、リーンフォワード(前のめり的)なソーシャル視聴はもうちょっと先だな、とセッションを通じて実感しました。
さて、CBSは今年になり「CBS Connect」というセカンドスクリーン・テレビ視聴アプリの提供を開始しています。
CBS Connect
http://mashable.com/2013/01/03/cbs-connect-app-ipad-social-tv/
フィンガープリントを利用し音声認識し、テレビ視聴体験をよりリッチにするアプリケーションを発表したのですが、そのアプリに関し会場から興味深い質問が3点出ました。
CBS Connectへの質問1 : iPadアプリを作る際にプロデューサーをどうやって説得しましたか?
→ プロデューサーにとって、伝えたいストーリーがより深められるような仕組みにしています。例えば連続ドラマの場合、エピソード途中から視聴開始した人にもあらすじや視聴時のヒントなどをセカンドスクリーン側で提供し、より視聴者とのエンゲージメントが高められる仕組みを入れる事によりプロデューサーにも参加してもらえるアプリにしているそうです。
CBS Connectへの質問2:アプリ制作費はマーケティングコスト?それとも投資?
→ CBSとしてはブランディングのため、ファンを作る為にセカンドスクリーンアプリを提供しています。
単なる「アプリ制作」ではなくブロードキャストの延長としてCBS Connectアプリをポジショニングしているそうです。
CBS Connectへの質問3:CBS以外の局の情報も見られるような統合的なアプリにしないのでしょうか?
→ CBSのブロードキャストの延長と考え、プロデューサーも巻込んで作り込んでいるので、CBS 1局の番組を楽しんでもらうことに注力していきたい。
今後セカンドスクリーンマーケットはどう変わる?
冒頭で述べましたが今までソフトウェア・デジタルの世界でキャリアを積んで来たわたし自身、今後はメーカー視点というか、ハードウェアについても知らないといけないと感じおり、2nd Screen Summit内で一番楽しみにしていたのが「 Is 2nd Screen the Next Big Thing for TV? – テレビにとってセカンドスクリーンは次世代を切り開くか?」というセッションです。
デバイスメーカー、サービスプロバイダー、コンテンツクリエイターを含めてのセカンドスクリーンのエコシステムについて語るセッションで、LG、Fox、USA Network、Viacomなどの幹部がパネラーとして登壇しました。

セカンドスクリーンアプリを提供する上で必要になるのがターゲットセグメンテーションなのですが、一言で「セカンドスクリーン、テレビ視聴アプリ」と言っても、年代によって、趣味趣向によって、また国によって視聴スタイルは変わります。Fox BroadcastingのVP、Hardir Tankersleyは「アプリは3種類あっても良いと考える。①”American Idol (アイドル発掘番組)”のように番組ファンの為のアプリ、②FoxやCBSのようにテレビ局単位のアプリ、③ZeeBoxのように全包囲型(“general app”)のアプリ。この3種類があれば、視聴者の好みにあわせてテレビ視聴を楽しんでもらえるのではないか?」とのことです。
もしかしたら日本では局数が少ないので②③は統合しても良いのかもしれないですが、数百チャンネルあり1視聴者が自分の好きな番組を探すまでに平均8分かかるという米国テレビ視聴者には②③の選択肢は重要になってくるのかもしれません。
また、アナリストのAlan氏は、セグメンテーションも大切であるというトピックの中で、「同じ街に住んでいる人たちが見ている番組、同世代が見ている番組が分かるセカンドスクリーンアプリがあると、ユーザーもより身近にアプリを使うようになるし、O2Oも含めた広告も打ちやすくなるのでは」と述べていました。確かに地域・世代でセグメント分けできたアプリケーションがあると、ソーシャルビューイングなどにも発展しやすくなります。まだ世界を見てもそのようなアプリは主流に出て来ないので、狙い目アプリかもしれません。
さて、LGのSmart TV担当シニアマネージャーのKernal Ltintas氏は「テレビを取り巻く環境が変わって来ている。メーカーだけでは新しいテレビマーケットを構築していけないので、関係各位で一緒にエコシステムを考えて行こう」と語っていました。テレビはもうハードウェアだけの問題ではなく、ソフトウェア、OS、インターネットコンポーネント、視聴者動向も含めた「テレビ」というものを意識していかなければならない。そんな時代がやって来たということなのだと思います。
面白いのは「リモコン」にも改善の余地があるという指摘でした。FoxのHardie氏は、テレビ局側もテレビ番組を作る時にデバイスも意識して番組を作って行く必要が出て来ているが、ハードウェアとしてのリモコンにも改善の余地があると言います。既存の十字キーリモコンでは何も発展がないので、テレビ番組制作側に寄り添うようにタッチパネルリモコンになるなど、ハードウェア側がコンテンツ側に寄り添う必要があると言います。様々なジャンルの番組を提供するテレビ局側から見ると、既存のリモコンは制限が多過ぎてクリエイティビティの限界を感じてしまっているようですね。
セカンドスクリーン ビジネスモデルとは
セカンドスクリーン、テレビ視聴アプリ市場がキャッシュカウ(cash-cow、カネを生む牛、カネのなる木) か否か?
昨年上旬までは「ソーシャルTVは儲かる!」と鼻息荒いスピーカーが多かったのですが、今回はしばらく様子見という一歩引いた視点でビジネスモデル構築について語るスピーカーが多くいました。
リアルタイム視聴によるクーポン配布、CM連動などはよく言われる事ですが、実施するにはテレビ局側、アプリ提供側にそれぞれ組織、財力、体力の問題があり、また視聴者が「同時視聴によりクーポン取得」の価値を理解できてないので視聴者にそのことを理解してもらう活動の必要があることが分かった、という意見がありました。また、広告主側に価値を理解してもらうための活動が必要であったり、Online GRPの指標を作る事がまず先決であるなど、土台を作る事から始めなければならない、など、昨年よりも現実的に一歩一歩エコシステムを作って行こうという姿勢のスピーカーが多かったように思います。
ただ「既存のテレビ広告とは別のマネタイズが生まれる」という新しいマネタイズの可能性を示唆する意見もありました。
ACR(Auto Contents Recognition 自動コンテンツ認識)がトレンドに
新しい技術トレンドとしては、ACR(Auto Contents Recognition 自動コンテンツ認識)があります。2012年より世界中のカンファレンス参加や日本国内で様々なプロジェクトに参加しているのですが、今回のカンファレンスではACRテクノロジーについて触れる方が特に多かったように思います。
CBSが今年リリースしたセカンドスクリーンアプリ CBS Connect もACR/フィンガープリントにより番組認識させていました。ハードウェアメーカー代表で参加したLGも今後自社でACR技術をリリース予定らしいですし、会場からの質問でもACRについての質問がありました。
2012年5月のロンドン Social TV Summitではあまり話題になってなかったトピックなので、テクノロジーによるアプローチも加わってきた感じが分かったのが大きな収穫でした。
最後に、カンファレンスに参加して思ったのは、コンテンツフォーカス、視聴者のわくわく感を中心に語るプレイヤーが意外に少なかったということ。日本で日本テレビの皆様とJoinTV、TBSの皆様と「大炎上生テレビ」、フジテレビの皆様と「にっぽんのミンイ」など、視聴者が参加してわくわくする事を中心に考えたソーシャルTV、テレビ視聴サービスを作らせていただいているバスキュールのメンバーから見ると、セカンドスクリーンで「どのような体験を提供すれば視聴者が喜ぶのか?」追求することはは世界的に見てもまだまだ発展の可能性が多く感じられます。バスキュールとして、今年もさらに一歩進めてセカンドスクリーン体験を提供して行きたいと強く思いました!やりますよ~!
またスマホ・タブレットの普及によりセカンドスクリーンアプリがこれから必要になる!という認識があるのであれば、CBSのように事例をドンドン作って視聴者を巻込んで行く方が未来への近道ではないかな?と個人的には思いました。
日本の事例の方が進んでいるところもあるので、積極的に世界規模のカンファレンスで話ができていけるとよいとも考えております。チャンスありましたら是非お声がけください。
また、2013 CES本体で開かれたセカンドスクリーン系セッションの内容も追ってご紹介できればと考えております。それでは!ちゃお!
著者プロフィール:西村真里子
最高峰のクリエイティブ & コミュニケーション企画力を武器にソーシャル & スマートフォンのアプリケーションやサービスリリースにチャレンジする「バスキュール」の一員。
IBM、Adobe、Grouponを経て現職。テクノロジーと マーケティングとお酒に強い。
バスキュールの「大量の人数がリアルタイムに参加する(マス×インタラクティブ)新エンターテイメント」の代表事例:
TBS「大炎上生テレビ オレにも言わせろ!」(2012年9月28日)、フジテレビ「にっぽんのミンイ」(2012年10月15日~)、日本テレビ「JoinTVプロジェクト」、mixi Xmas「インタラクティブCM 小さなサンタクロース」( http://pieces.bascule.co.jp/2012/mixixmas/ja/cm/ ) があげられる。
バスキュール: http://www.bascule.co.jp/
ツイッターアカウントは@mariroom