関西地域3拠点を舞台に繰り広げられる「ad:tech kansai」のボードメンバーの方々のインタビューを連載形式でお伝えします(特集一覧はこちら)。
現役マーケターが多くを占めるad:tech kansaiアドバイザリーボードメンバーなかで異彩を放つ京都大学IMS寄附研究部門 教授 木谷哲夫氏。アントレプレナーシップの専門家である彼が「今は圧倒的売り手市場」と語るその訳は一体なんなのでしょうか。勝てる売り手となるための戦略をお伺いしました。
— 京都は長い歴史を有する街だけに、スピード重視のベンチャーから遠い印象を抱きます
京都は伝統や観光というイメージが強いのでどうしても誤解されがちなんですが、ものづくり都市としてとても力を持っているんです。任天堂や京セラ、オムロン、ローム、村田製作所、島津製作所・・・名前をあげたらキリがないくらいに会社が多くあります。古くて大きい企業だけでなく、中小企業もあり、「京都試作ネット」というものづくり系ベンチャーには非常に心強いネットワークもあるんです。
—「京都試作ネット」とはどういったネットワークですか?
鋳物、金型、溶接、ありとあらゆるものづくりの会社が連なっているネットワークで、そこに行けばどんなものでもプロトタイプを作ってくれるというものです。実はこうしたネットワークこそが「起業するならシリコンバレーより京都」という大きなポイント。シリコンバレーのものづくり系ベンチャーがよくつまずくのが量産コストの見積もりミスなんですよ。アメリカはものづくりの第一線から退きつつあるから、生産の見積もりができずにアイディアが良くても量産で失敗する。クラウドファンディングでもよくトラブルになる部分です。しかし京都なら精緻なコスト見積もりができるからビジネスの設計が正確にできます。これは強い。
そのものづくりの基盤に支えられて、京都ではどんどん有望なベンチャー企業が生まれていっています。サウジアラビアなどから8億円の出資を獲得したGLMというスポーツカーのベンチャーもありますし、実際に私が大学で行なっている起業家を育てる1つのプログラムだけでも2年半で16社が創業、そのうち4社が資金調達に成功しています。
—素晴らしいですね!彼らが成功した秘訣は他にもあるのでしょうか?
実は日本中からベンチャーキャピタル関係者が京都に集まってきて情報収集をしているなんていう話を聞きます。日本で一番初めにできたベンチャーキャピタルの創業の地が京都だから、というのもあるかもしれませんが、投資家やVC自体が日本に増えてきていて、有望な投資先を我先にと奪い合っていて必死なんですよ。起業したい人には絶好のチャンスです。VRやドローン、3Dプリンタなど若いアイディアを実現しやすい分野が生まれてきているのも追い風でしょう。アイディアを持った学生が工学部などの技術を持った学生に声をかけて、さらに試作ネットに持ち込むといういい流れもできています。周囲を巻き込む力を持った魅力ある人が多いのかもしれませんね。
そして何よりの秘訣は成功したベンチャーは共通してグローバル重視ということです。マーケットが海外のほうがはるかに広いから「趣味のための商品」であっても十分な市場になるのです。それで海外の人に知ってもらうために、テキサスのサウス・バイ・サウスウエストなどに出展して話題になると「アメリカで話題になったから有望だ!」とますます日本のVCが集まってきてくれるんです。シリコンバレーは買い手市場になってしまっていてVCの人に会うだけでも大変なのにね。海外に情報発信することが日本国内での評判にも繋がるのでとても大切なんです。
—ベンチャー界がそんな盛り上がりを見せている京都でad:techが行われることについてはどうお考えでしょうか
マーケティングやブランディングの知見が関西に広まることは重要ですが、イベント自体は正直、私自身が初めてのad:techなので想像がついていないですね。でも、京都、大阪、神戸の企業が交わるのは必要なことです。よく外の人から「関西はひとつ」と言われますが、実際は「関西はひとつひとつ」でなんとなく経済圏が違う別々の都市なんです。そのせいか京都大学にビジネスの話を持ち込む大阪の会社、神戸の会社が全然ないので非常にもったいないと思っています。力のある大学がそれぞれ近くにあるからという理由以上に、経済圏の違いを言い訳にして近寄ってこない。でももう独立性を誇りにする時代はもう終わっているんです。今回のad:techではブロックチェーンもテーマとして扱いますが、京都大学には日銀の初代フィンテックセンター長を務めた岩下直行教授もいます。私もブロックチェーンには大きな可能性があると思っているので、もっと一緒に産学連携できる企業が増えればいいですね。
—そのきっかけになるイベントになるよう盛り上げていきましょう。ありがとうございました!(了)
(プロフィール)
木谷 哲夫
京都大学IMS寄附研究部門 教授
専門はアントレプレナーシップ、技術商業化、イノベーション マッキンゼーにて製造業・金融機関・通信業界における新規事業戦略、オペレーション改善プロジェクトなどを手がけ、日本興業銀行、メリル・リンチ・キャピタルマーケット(NY)、アリックス・パートナーズを経て現職。複数の大学発ベンチャー企業のアドバイザーを務めるほか、龍谷大学経済学部客員教授を兼務している。 東京大学法学部卒、シカゴ大学政治学博士前期課程修了(MA)、ペンシルバニア大学MBA。 著書に『独裁力 ビジネスパーソンのための権力学入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『成功はすべてコンセプトから始まる』(ダイヤモンド社)、『ケースで学ぶ 実戦 起業塾』(日本経済新聞出版社、編著)などがある。
(参考)
・京都試作ネット:https://www.kyoto-shisaku.com/
・GLM:https://glm.jp/jp/
・「京都にIoTスタートアップファンド、試作支援アクセラレータープログラムと共同展開 @maskin」
http://techwave.jp/archives/mbc-shisaku-1st-fund-in-kyoto-25670.html
ad:tech kansaiの詳細はこちらから
アドテック京都
日程:2017年7月18日(火)
場所:みやこメッセ
参加者数:1,800名+アドテック大阪
日程:2017年7月19日(水)
場所:堂島リバーフォーラム
参加者数:200名+アドテック神戶
日程:2017年7月20日(木)
場所:KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戶)
参加者数:1,000名+