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マーケターに欲しい2つの視点、PLとBSのマーケティングとは 【ad:tech tokyoボードメンバーインタビューvol.3】

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回はアウディジャパン株式会社マーケティング本部 デジタル&CRMマネージャー井上大輔氏が登場。「マーケティング業界全体で議論したい3つの議題」伺ってきました。

- 先日のボードメンバー会議の場でもエージェンシーのチーム編成の仕方について業界で検討していきたいというご提案がありました。

はい、「エージェンシー1社に全てお任せ」という座組がもう難しいということはマーケティング業界全体としてみなさん理解しているとは思います。欧米ではメディアとクリエイティブが別々のエージェンシーなので、エージェンシーのチーム編成は以前から広告主の一義的な仕事でした。日本でも、デジタルの分野が発達してきたことにより、「アフィリエイト広告の代理店」などエージェンシーの役割が細分化してきて、半ば強制的にエージェンシーのフォーメーションを考えざるをえなくなった。ただ、そこから先のどうやってチームを編成していくのかという方法論がまだ確立されていないと感じていて、そこを議論したい。

 例えば、エージェンシーへのお金の払い方というのはコミッション制とフィー制があるのはご存じだと思います。日本の広告会社の場合ほとんどがコミッション制で、全体の制作費や媒体費に広告会社の取り分を上乗せして請求するのがこのタイプです。一方のフィー制はコンサルティング企業とお金の受け取り方が似ていて、プライステーブルを決めて時間単価を積み上げていく方法。そのうえで一定の発注数量をコミットするリテーナーという契約形態もあります。エージェンシーのチーム編成を考えていくうえでの基礎、とでもいったところですが、日本ではこのあたりの広告主側の業務体系が整理されていないですよね。そのあたりから始めて、Audiで行っている複数のクリエイティブエージェンシーの協業とか、広告主のメディアとの関係性の再構などの事例を共有しつつ、もっと業界全体で試行錯誤を重ねてチームの組み合わせのバリエーションなどを体系立てしていきたいです。

もちろん、そのような試行錯誤をするには、ブランド側にプロデューサー的な仕事ができる人材がいる必要があります。横断的な知識を持ち、チームを編成、さらに戦略作成もできる人となるとなかなかハードルは高く、同時にそれはその人材確保も課題でもあるでしょう。

— 複数のエージェーンシーの協業体制を組み、メディアからの直接提案を受けるなど、今までの広告主以上に踏み込んだ施策を行なっているなかで見えてきた課題はありますか。

ブランドセーフティーの問題やITP問題が、今まさに全盛であるクッキーを使ったターゲティングやトラッキング技術に揺さぶりをかけています。これは業界構造をガラッと変える地殻変動の始まりだと思いますが、チーム編成やパートナーシップは例えばこういったランドスケープを見据えたうえで行う必要がありますよね。しかし、VUCA(Volatile, Uncertain, Complex, and Ambiguous)という言葉がありますがまさにその通り、今の時点で将来の予測するのはとても難しく、そもそも先を見ようとしているパートナーもそう多くはいないという印象を持っています。予測は難しくとも、せめて先を見据えて変化をとらえようとしているパートナーを探すことに課題を感じています。

— クッキーを使ったターゲティングなど広告手法が変容していく可能性があるのであれば、効果測定や目的の定義なども変わってくるのでしょうか。

デジタルマーケティング領域はずっとダイレクトレスポンスの数を獲得することを目標に発展してきましたが、数年前からブランディングを標榜するデジタルエージェンシーのチームが目立ちはじめ、ブランドリフトなどという言葉もデジタルエージェンシーからご提案をいただくさいに耳にすることが多くなりました。しかし、ブランディングという言葉の定義が非常に曖昧だと感じています。効果測定手法が確立されていないからですね。ただ、だからといってほったらかしにしていい問題ではありませんので、みんなで標準を作っていくということをしたいです。

— では、井上さんご自身が考えるブランディングという定義はどのようなものでしょうか。

私はブランドには「PL的な」ブランディングと、「BS的な」ブランディングがあると考えています。売り上げやマーケットシェアの目標から逆算し、それに必要な「認知」や「好意度」などを築こうとする”PL”のブランディングに対して、”BS”のブランディングは複数年度のPLをまたいでビジネスに貢献する資産の構築を目的とします。特に後者は測定が難しいですね。例えば日本には不動産鑑定士という難関国家資格があります。彼らは土地の価値を決めるために必要な基準、エリアの歴史的な背景や駅からの距離など、評価のためのガイドラインを持っています。同じようにブランドの価値を計る仕組みやガイドラインを作り、ブランドの価値をつまびらかにすることができないか、業界全体で議論ことはできないでしょうか。

— 今年のad:tech tokyoでもブランドについて議論するセッションが予定されています。ぜひそこでの活発な議論を期待したいですね。

そうですね。日本のマーケティング業界というのは横のコネクションがあるというのが強さです。ad:techでもみんな顔を合わせますし、一つのコミュニティとしてマーケターたちがマーケティング業界に帰属意識を持っている。これは他の国にはないところですので、業界横断の取り組みをもっと生み出していき、それを世界に発信していきたいですね。最初はお酒の席での話題がきっかけで、新しいマーケティングコンセプトをマーケター仲間で議論する勉強会が自然発生しているのは面白いですね。堅苦しくなく互いに知恵を出し合うこういった場にこそイノベーションが起きるのではないかと期待しています。

— ありがとうございました!(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
井上大輔
アウディジャパン株式会社
マーケティング本部 デジタル&CRMマネージャー
Yahoo! Japanプロデューサー、ニュージーランド航空オンラインセールス部長、LUX/Dove/Liptonなどを手がけるグローバルFMCG企業ユニリーバでのEC&デジタルマーケティングマネージャーを経て現職。業種や業界、企業の国籍をまたいだマーケティングの実務経験をもとに、IMC・ブランディング・ダイレクトレスポンスと幅広い領域を守備範囲とする。Twitter:@pianonoki

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