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原点回帰のマーケティングの中で場の価値をどう提供するのか? 日経新聞 新井大祐 氏【ad:tech tokyo 2018インタビュー(15)】

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回は日本経済新聞社デジタル事業広告・IDユニットマーケティングセンター部次長の新井大祐氏が登場します。日経グループのDMPやプログラマティックの導入を推進してきた新井氏が現在注目する技術について伺いました。

—新井さんは紙媒体の販促を経てデジタル部門へ着任、その後デジタルプロモーションからメディアとしての広告商品開発まで、デジタルのなかでも多くのお立場を経験していらっしゃる珍しいご経歴ですよね。

日本経済全体で見てもまず僕らの世代は会社員の人数が非常に少ないですからね。1998年入社という超がつくほどの就職氷河期でした。もともと人数が少ない世代ですから企業がデジタル進出するにあたってもその仕事が回ってきた人も少なく、デジタルマーケティング業界のなかでは同世代にはなかなか出会いません。デジタル部門に移ってからの個人の経歴としては、マーケター側として予算を投下してオーディエンスを獲得する立場、そして広告セクションのなかで広告プロダクトの売り上げを伸ばすために商品を運用、メンテナンス、開発する立場を経験しています。ad:tech tokyoにも以前はクライアント側として参加していたんですよ。

—マーケターとして見ていたデジタル業界と、メディアの商品開発担当として見るデジタル業界は違いますか。

2015年頃にマーケターからパブリッシャーに移ったのですが、実はあまり変わりません。カオスマップはよくマーケター側からの目線、パブリッシャー側からの目線を分けて描かれていますが、どちら側から業界を見るか?ということでしかないので、全体を俯瞰して見ると一緒です。ただ、選択肢は狭まったかも。マーケター側にいる時はデジタルも使いつつマスも使っていましたし、日経グループのメディアもユーザーを獲得するためのひとつの手段として見ていました。今は逆に日経グループのメディアをどうマーケターに使ってもらうのかということを考えているのでそこは選択肢は限られます。

—デジタルの広告商品開発・販促を目的にBtoBでマス広告を使う大胆な施策があっても面白い気もしますが……。それこそ日経グループの皆さんのメディアはBtoB企業の出広が多いのが特徴ですね。

そうですね。BtoB企業の方との関わりは深くて、マーケターイベントなどのトークセッションに一緒に登壇することもあります。日経は純広告中心のメディアですので、CPCだけで見ると他媒体に比べ高価です。ただ高いだけでは媒体に価値を感じてもらえませんので、タッチポイントの前にビジネスパーソンたちがどのような業界に勤めているどのような職種の人か、日経のどんなニュースに興味があるかといったデータを提供するなどしています。もちろんBtoB企業のマーケティングはプロダクトが一番大切で、小手先でコミュニケーションだけをやっても仕方ないのですが、もっと私たちを上手く使ってビジネスパーソンとのタッチポイントを作ってもらえればと思っています。

—注目しているデジタルのトレンドなどはありますか。

ポストCookie時代に何が起こるのかというのは気になりますね。色々な法改正があるなかでCookieが使えなくなる時、今までのCookieを超える技術でユーザーを捉えていく必要があるじゃないですか。Cookieに依存せずに補足したり、クロスデバイスでユニーク判定するような技術に興味を持っています。実は少しずつ現れて来てもいるのですが、お金を稼ぎにくい仕組みで進まなかったり、海外のスタートアップ企業が日本にやって来たと思ってもトラブルで行き先不明になってしまったり、なかなか難しい。それでも、データにタグを入れないマーケティングオートメーションのソリューションを提供している企業など動き出している人たちはいます。

—技術分野のなかでもかなり最先端の部分に注目していらっしゃるんですね。

でも、技術的に注目しているのはそれぐらいです。もう技術は出揃ってきた感があって、トレンドの潮目も変わって来ましたよね。グローバルマーケターのカンファレンスでも「Creative is king.」が改めてネタになるくらい、マーケティングは一周しました。「データって大事だよね」「テクノロジーが生まれました!」「クリエイティブって昔から変わらず肝だね」って順にマーケティングの問題意識が移って来ましたが、じゃあもうシンプルにちゃんとやろうねで決着。原点に回帰したなかで、場の価値をどう提供し、どう実感してもらうかが重要です。

—メディアもひとつの場ですね。

先日、日本大学アメリカンフットボール部の試合でトラブルがあり、関係者の謝罪会見に非常に注目が集まりました。その時に、テレビ局のワイドショー取材班が主観的な感想を登壇者に言ってもらおうと挑発的であったりしつこさを感じるような質問を投げかけたシーンがありましたよね。当事者の主観的な本音は視聴率が取れる、というワイドショー戦略があると思うんですが、テレビを見る人が減っているわけですから、「国民が見たがっているものなんです」という論調は崩れてしまう。すでに包み隠さずそのまま放送してくれるネットの生放送がいいっていう人もいますよね。ニコニコ動画の生放送なんかはコメントの嵐が流れてくるっていうクセはありますが私もあの中継はニコ動で見ましたよ。

—メディアへの接し方が変わってくるなかで、広告を厄介なものだと捉える生活者が増えているのはひとつの事実だと思います。デジタルマーケティングに関わる上で、そこは悲観したくないのですが、新井さんはどう感じていらっしゃいますか。

落合陽一さんが以前、広告について語ってらしたことがあったんですが、それが全然ネガティブな内容じゃなかったんです。天才って呼ばれているような人が広告について語ってくれたことは何か救いがありました。マスアプローチもパーソナライズのアプローチも大切と語られていて、テクノロジーも大事だけどパッションかなと感じました。ビジネスを通じて何を提供して、誰の課題を解決してお金をもらうのか、原点の大切さですね。今までデジタル業界でバズワードになって来たキーワードは全部大事です。ただ、それ一つ一つにフォーカスしても誰も幸せにはならないので「なんかないの?魂みたいなの」、そう思っています。

(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
新井 大祐
日本経済新聞社
デジタル事業 広告・IDユニット マーケティングセンター 部次長
1998年に日本経済新聞社に入社し、主に紙媒体の販促業務に携わる。2008年よりデジタル部門に着任し、日経電子版の創刊事業に参画する。創刊後は課金決済やCRMを担当。2013年よりウェブプロモーションのリーダーとして有料会員の増大を牽引。2015年よりデジタル広告部門に着任し、DMPやプログラマティックの導入を推進。現在は広告商品開発全般に携わる。

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.adtech-tokyo.com/ja/

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