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Windows 10の全て、ざっくりまとめてみた 【@maskin】

 マイクロソフトの最新OS「Windows 10」が2015年7月29日、リリースされた。既存のWindowsユーザー(Window7以降)については、最初の一年間は無料でアップグレードできるほか、新規でインストールできる「Microsoft Windows10 Professional 64bit 日本語 DSP版」等のパッケージなどは8月1日より提供開始される。

 米マイクロソフトは、本社社長が交代し、日本の代表もかわった、オープンソース製品を取り込み、これまでの「全てWindowsで」という強力な囲い込み路線から、ユーザーや開発者のためという大きなメッセージの変化が見て取れる。機能的にも戦略的にも新しいマイクロソフトを感じさせる主力プロダクトの登場は、酷評された「Windows 8シリーズ」を象徴とする、過去の評判を払拭できるのだろうか?

 この記事では、筆者自信が長期間おこなったプレビュー版の試用のほか、5月に開催された開発者向けイベント「de:code」、日本マイクロソフト社員の方々へのインタビューを通じて、10分(くらいで)理解できる内容にざっくりまとめてみた。

ショーン・Kも喜んだ「スタートメニュー」復活

 Windows 10における最大の変化は、「ユーザーとの対話」にある。

例えば、Windows 10のプレビュー版(Insider Preview)の提供にあたり、「Windows Insider Program」というユーザーの意見を収集するプログラムを採用し、このプログラムに参加した世界600万人のユーザーから寄せられた約300万のフィードバックを一つ一つ読み取り入れていったという。

 7月に日本マイクロソフトの代表取締役社長に就任した平野拓也 氏は「マイクロソフト社はこうしたユーザーの声に背を向けていたのは事実でしょう。今回の取り組みのフィードバックの中には非常に私的な要望もありました。しかし、こうした要望を一つ一つ取り入れ、ユーザーそして開発者一人一人の進歩を助けたい」と公言している。

 Windowsシリーズは、初めてのリリースから30年以上経過した現在でも、その世界観は古びることなく社会に浸透しているといえるだろう。Windows 8のタイル状UIは画期的ではあったが、もはやWindowsではなくなっていた。Xerox PARC(パロアルトリサーチセンター)が開発したGUIやMac OSのGUIの真似かどうかという議論も長年続いているが、やはりWindowsはWindowsのカルチャーがあり、それに馴染を感じる人も少ならずいるはずだ。

 リリース日 2015年7月29日夜、東京都内某所でWindows Insider Program参加者を中心に開催された招待パーティの壇上でも、司会のショーン・K氏は「個人的に最もうれしかったのはスタートメニューの復活です。ヒュー」と一般ユーザーとしての “Windows観” を表明した。

 Windows8では、タッチデバイスの普及を見越し、情報デザインのトータルコーディネートを手がけ、それはそれで画期的なことではあったが、ユーザーの声を取り入れていたらリリース後の悪評はなかったのではないだろうか。

 その点、Windows 10では、Insider Preview版は、ユーザーの声を取り入れ、頻繁に改善版の配布が行われていた。始めの段階では「え?」と思われる部分も、バージョン(ビルド番号)が上がるにつれどんどん改善され、リリース版ではタブレット(8インチと11インチ)、タッチパネル搭載ノートパソコン、液晶ディスプレイを使用したデスクトップいずれを用いても快適な使用感となっていた。OSの基礎部分はWindows8の段階でもかなり成長していたようで、さらに磨きがかかったOSに “ユーザー視点の仕上げ”がおこなわれたといえるだろう。

 実際、筆者が試用しているWindows 10のスクリーンショットを公開しよう。スタートメニューは、Windows8のようなタイル状のものに加え、従来同様のリスト型のメニューが用意されている。7以前のメニューと比較しても格段に使いやすい。

 Windows7以前のバージョンでデスクトップで使用していたユーザーにとって、大きく変化した点はメニューのタイルと全体的なデザインの変化くらいしか感じられないかもしれない。

 「逆にタブレット型では使い勝手が悪化するのでは?」という懸念があったが、実は簡単にタブレットモードとデスクトップモードを切り替えられるようになっており、若干デスクトップ使用にフォーカスしたデザインとは感じるものの、タッチスクリーン搭載型のWindowsノートPCあたりならかなり快適に使用できる使用感になっている。

軽くて高速・安定、OSとしての完成度の高さを実感できる

 筆者が所有する、あらゆるWindows対応機ー8インチタブレット、11インチタブレット、13インチタッチ液晶ノートPC、スティックPC、22インチ液晶とデスクトップーにWindow 10をインストールした。一部はメーカーが提供するドライバをインストールするなどの対応が必要だったが、これまでWindows7で問題ばかりおこしていたマシンが、綺麗すっきり健康になったケースもある。何より、あらゆる面でスピードが速い。古いマシンでも軽快になることも多かった。

日本マイクロソフトのエバンジェリスト 大西彰 氏は、29日のパーティ壇上で「Windows 7以前のマシンよりも、もしかするとOSはスリムになっているかもしれない」と発言している。

だからといってヘビーな処理や機能がおろそかになっているかというとそうではなく、例えば、Windows 10と同時にリリースされたグラフィック描画エンジン「DirectX 12」は過去のハードウェア資産であっても、その能力を高められるようになっていたりする。

 例えば、スクウェア・エニックスで、最高峰のプリレンダリングCGとリアルタイムレンダリングCGを追求する第2ビジネス・ディヴィジョンでは、一般に購入できるハードウェア構成で、CG描画専用マシンと思われるほどの描画を実現する「WITCH CHAPTER 0 [cry]」というWindows10/DirectX12のデモを公開している。

 この写真に映っている女性はリアルタイムで描画されている。髪の毛一本がポリゴンで表現されているという。

 このデモでは、NVIDIAの高性能グラフィックボードGeForce GTX(一枚、十万程度)を4枚挿したパソコンを使用していたが、大西さんいわく「性能をフルで使い切っているわけではない」とのこと。

 折角なので、ゲームの話をすると、まず、XboxがWindows 10に対応する。Xboxのユーザー向けサービス(ランキングや対戦など)が、Xbox以外のWindows10デバイスに提供される他、パソコン等からXboxに接続して、ストリーミング形式でゲームをたのしめるなどの機能も提供される。特にPC上のゲームプレイには力を入れており、ゲームVCRというプレイ動画記録機能もWindows10には標準で実装されている。

 スクエニとしても、Windows 10に対してはデモだけでなく、タイトルも用意しており、すでに「Final Fantasy AGITO」が2015年内リリースに向け準備中だという。


 

IoTもモバイルもPCも据置きゲームも、すべて1つのOSコアで動作

 こうしたWindows 10の優等生ぶりは、性能に限ったことではない。Windows 10最大の目玉は「ユニバーサル」。デスクトップはもちろん、Surface、Xbox、IoT、Hologhraphic、そしてモバイル全般まですべてが一つの環境で統合されている点にある。

 一言でいえばスマートフォン型デバイス向けに開発したコンテンツが、そのままデスクトップPCでも動作するし、ホロレンズ向けアプリとして動作させることもできるというイメージだ。

 一体どういうことかというと、一つのアプリを用意すれば、モバイルでもタブレットでもデスクトップでもテレビでも動作する。もちろん、そういった使用を見据えた開発をしなければならないが、画面サイズごとにイチイチ多数のバリエーションを用意するというわけではなく、クロスプラットフォームのアプリ開発にむけ、Windows 10では、OSとして2500以上のクロスプラットフォーム向け機能を搭載しているし、Visual Studioといった開発ツールもそれを前提に展開されている具合だ。

 IoT向けとしては「Windows 10 Iot Core」とよばれるWindows 10派生のOSコアが用意されており、Minnowboard MaxとRaspberry Pi 2はすでに対応済み(2015年6月時点)

ゼロ作り直された高速ウェブブラウザ「edge」

 ここで触れておきたいのが、IEとは別に追加する形で提供されたウェブブラウザ「edge」のことだ。

 例えば、JavaScriptの処理速度で、ベンチマーク「Octane 2.0」の結果は以下の通り。

 今やJavaScriptはウェブのみならず、あらゆるアプリやコンテンツ、バックエンドに使用されているもので、これが高速になるということは、Facebookウェブなどを筆頭に、昨今の使用シーン全般が快適になるということを意味している。それ以外のベンチマークでも優等性であるのがedgeである。

 ただ、ここでもスペックだけで満足していないのがWindows 10時代のプロダクトらしさといったところだろう。、Windows 10の登場を見据え、IEの資産を切り離し、というかむしろ決別する形で開発されており、基軸となるエンジンもクロスプラットフォームで動作する新しいものをゼロから開発している。

 例えばウェブで再生される音声といえば、ながらく2チャンネルの時代が続いてきたが、edgeはドルビーに対応、7.1チャネルを標準状態で再生できたりする。機能拡張の仕組みも独自に開発しているほか、ウェブアプリを他のネイティブアプリと同じようにWindows Storeに掲載することも可能な仕組みも用意されているというのだ。
 

Windowsアプリマーケットは、iOS・Android そしてウェブをも取り込む

 Windows 10アプリの提供元となるWindows Storeは、これまでWindows8向けに提供してきたモダンスタイルアプリはもちろん、Windows 7以前から提供されてきたデスクトップアプリもカバーする非常に間口の広いマーケットプレースとなる。

 すでにWindows8時代に、FacebookやTwitterといった大手どころのアプリは公開されているが、Windows 10の発表にあわせ、マイクロソフトが買収した米Maojangの「マインクラフト」のベータ版が登場するなど、はやくもその力の入れぶりに注目が集まっている。

 ただ、こうしたWindows 10のデスクトップ向けアプリはともかく、Windows8のモダンスタイルアプリはタッチパネルで全画面前提で開発されていたものはどうなるのか? Windows 10のデスクトップ型で動作させても大丈夫なのか?という疑問が生まれるが、この写真のようにウィンドウで動作させることが可能になる。スマホ向けのタイトルもデスクトップのウィンドウとして実行可能。もちろんデバイスにあわせて実行モードは切り替えられるので、最適な使用環境で実行できることになる。

 
 そして前段で延べたようなウェブアプリ、IoT向け、ホロレンズ向けが近い将来に投入される。また、iOSやAndroidのアプリも、Windows 10向けに変換する技術の提供が準備されており、アプリを呼ばれるものすべてが一斉にこのエコシスムの中に巻き込まれる可能性がある。

 Windows 10では、IoTや組み込み機器までを含めたデバイスマーケットを10億台と試算しているが、ここにiOS/Androidのアプリが流れ込むことで、その需要はさらに拡大する可能性もある。

まとめと考察 衝撃の未来はくるのか?

 現在のAndroid端末のスペックは、Windows 10が要求するスペックとほとんど変わりがないのだ。しばらく前に、海外でAndroid端末にWindows 10をインストールするという話題があがったが、おそらくAndroid端末の製造メーカーは、さらなる市場拡大を目論み、Windows 10の経済圏に足を踏み入れるだろう。

 マイクロソフト側は、開発ツールをクラスプラットフォーム化、クラウド化、オープンソース化を展開しており、プラットフォームに依存せず開発者向けのサービスを展開しているが、最終的な戦いの本丸は「ストア」になると踏んではずだ。

 現時点で、Windows StoreにおけるマーケティングはGoogleやAppleほど積極的ではないが、取扱プロダクトの多様性と利便性を強みにより多くの開発者に参入をうながし、Windows 10のユニバーサルアプリエコシステムを事業創造の原動力にしてくるのではないだろうか。

 そして最後にWindows Phoneはどうなるか。

 マイクロソフトはモバイルを第一に考えており、出してこないわけがない。ポストSiriである「Cortana」は日本版も開発中であることが公言されており、以下のようなあらたなコンピューティング像をもって大々的にリリースされるだろう。

 創業40周年を迎えたマイクロソフトの野心的プロダクト「Windows 10」は、今後、一切バージョンアップをしない代わりに永続的に進化し続けるサービスとしてのOSを標榜している。これらの機能性と網羅性は、ユーザーにとっての利便性と必要性とどのような化学反応を起こすのだろうか。



【関連URL】
・Windows 10
http://www.microsoft.com/en-us/windows

蛇足:僕はこう思ったッス
Windows 8の時、MetroStyleと呼ばれた情報デザインに魅了され、Surface Proの初号機を輸入するなど夢中になった。日本マイクロソフトさんと共同で開発イベントを開催したり、ネイティブアドや記事広告とは違う、共同コンテンツの展開をやってきたこともあったが、なかなかふるわなかった。

開発者向けの思想やツール、MSさんのエベンジェリストらの意気込みと発想は突き抜けていた。これこそ未来、人間を進歩させるものと思っていたのが、肝心のOS「Windows 8」はタブレット専用OSだった。リリース後、責任者のスティーブン・シノフスキー氏は退任に追い込まれ、全社でリストラが実施されていたようだ。そしてマイクロソフトCEOの交代。エンジニア出身のサティア・ナデラ氏はドラスティックな革命を行い、はっきり見てわるほどマイクロソフトに変化が現れだした。

最も重要なポイントだと感じたのが、本文の中でもお伝えしたが「利用者」を見るようになったことだ。夢だけでも理想だけでもなく、そこにいる利用者がワクワクする領域を拡張する機能や戦略が出でくるようになった。マイクロソフト創業者 ビル・ゲイツ氏は、創業当時から「開発者を利用者を拡張させる」ということを口々にいっていたが、Windows 10は原点回帰を宣言するために永久欠番を背負ったように感じている。

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