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小林慎和氏の熱意に涙する新刊「海外に飛び出す前に知っておきたかったこと」【@maskin】

 「hi,thank you, thank you, you…japan? japan great,hmm,japan great!」

「こんなにうれしい瞬間はありませんでした。こんなインドの山奥の、無電化村の、英語がきちんとしゃべれるわけではない老人の中に、日本は凄い、という気持ちがあることを知って感動しました」。

私の知る限り、日本人として最も世界中に目をくばり、最も日本を愛する起業家の一人に小林慎和 氏がいる。そんな彼が過去、インドの無電化村にソーラーランタンをレンタルする事業を展開していた時のエピソードが上の一文だ(本文より)。ただ、その老人が手に持っていたのは、別の国で製造されたガジェットだった。

このエピソードが示すように日本の存在感は過去最低レベルにまで落ち込んでいるように思う。先人の功績により世界中に日本の魅力が伝えられ、今も絶賛してくれる人がいる。しかし、現実を見れば、それは “過去の功績” に過ぎず、今の時代の日本らしさを表現しているものは食やデザイン雑貨、漫画程度に限定されてしまう。完全に他国の勢いに押されてしまっている。一方、多くの日本人が言うように、日本人の勤勉な資質は誇れるものだと思うし、東南アジアなどとはGDPベースで比較すれば日本はまだまだ大きいとひと安心できる部分もあるが、結局、日本語という壁に守られた島国で、競争にさらされていないぬるま湯につかっているだけに過ぎない。

今、東南アジアを筆頭に、インドや香港、中国、EUにしても若年層のパワーが最高潮に達しつつある。スピードと熱意、そして知識。彼らが日本で働くようになれば、間違いなく多様なイノベーションがおきるだろう。いや、実際に多くの優秀人材が海外から集められつつあるし、こうした労働者がテクノロジーにより結びつけられるとしたら、給与が高い日本人はあっという間に淘汰されてしまうだろう。これは避けられない流れだとすると、私達は、今後の人口減少社会の中で何をすべきなのだろうか?

本書「海外に飛び出す前に知っておきたかったこと」(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)は、世界から日本を理解し、新たなグローバリゼーションでどう生き抜くべきかをリアルな事例と共に吸収できる本である。子供から大人まで、サラリーマンから起業家まで、すべての日本人に手に取って欲しい一冊だ。

非合理や多様性の中に新たな可能性が生まれる

本書には、大企業から新興国での起業までをやり通した小林氏の厳しくもリアルが現実が多数納められている。日本人のサラリーマン側の立場から見た時、一番衝撃的なのは「日本語という壁に守られているから給料が安定して高い」という指摘ではないだろうか。例えばスタートアップシーンだけを見ても、グローバルスタンダードの土俵に日本はあがってきていないし、他国の若年層のアグレッシブさに対等になっているとも言えない。「新興国などは、まだ社会的発展途上で混沌としているから、まだ日本の中でいい」という人も結構いるが、GDPが日本より低くとも米Nasdaqに上場するなどの例が増え続けているなかで日本はまだまだだ。数字だけよくても、実際は後発という領域が多いのが現実だ。

特に東南アジアや香港、台湾、インドなどは成長のスピードが速く、「日本がまだ上位を示せるようなランキング」に顔を出せていない状態があり、おそらくこのままだとあと1-2年で日本全体がネオ敗戦ムードに陥ってしまうようにも思える。小林氏は本書の中で「グローバルイノベーターが生まれる船に日本人は一人も乗っていない」と表現する。同じようなことは、米MIT Media Lab所長の伊藤譲一 氏も言っている。国や地域、業種や業界、企業など、過去のカテゴリに所属するかどうかを無視した混沌の中で競争し切磋琢磨することで、未知なる未来への扉が開かれるというのだ。

過去への適用はむしろ退化である。うまい支援や制度、いい事例があるからと飛び乗って稼ぐ。そのようなことは壁にかこまれているから通用すること。何らかの衝動で、何がおこるかわからない領域に飛びこむことが進歩につながる。そこでリスクを回避して行政などの支援に飛びついたり、妥協したりするとことごとく失敗する。自分の人生をかけた取り組みとして、自分が責任を持ち世界の混沌の中で成長をする個人がこれからの日本の宝になると小林氏はいう。それを実現するには何が必要か。「勇気」であると小林氏は感じているようだ。




【関連URL】
・「海外に飛び出す前に知っておきたかったこと」(Amazon)
http://www.amazon.co.jp/海外に飛び出す前に知っておきたかったこと-小林-慎和/dp/4799318713/

蛇足:僕はこう思ったッス
 マイナス面ばかり浮き彫りになる日本人だが、“個”にフォーカスすると実に多くの人が世界に飛び出している。本書でも多数の起業家が紹介されているし、起業家ではなくとも日本の大企業の社員として、世界のリーダーとなっている人物も多くいる。日本ほど安心して生活できて、おいしいものが安く食べられる国はないわけで、海外のあらゆる国と地域で自分の責任で成長するようになるにはそんな安泰な常識とは無縁の中、自分を奮起させて無謀なこともやり抜く力が必要だ。しかし、それが世界の常識であり、日本人の資質を活かすために必要なことのように思う。

あと一つ、大切なことは、誰かが優位とかどの国が優位という価値観が固定されているわけではないということだ。日本人がきめこまかくて真面目なのは間違いないが、他の国の人にはそれとは違う資質がある。すべてにおいて大切なのは、政治や慣習に縛られず、今とこれからをどういきるかということにある。

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