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2万人を集めるテックイベント「collision」が2017年5月2日から4日にかけて米・ニューオリンズで開催されました。
スタートアップや企業のイノベーションをリードするエクゼクティブが集結するこのイベントですが、日本からの参加は極めて少ない状態。TechWaveでは特派員を派遣し、ここでしか読めない特別レポートを、本日よりお届けします!
スタートアップが大企業へのプレゼンに失敗する理由、ニューオリンズのビックイベント「collision」特別レポート第1弾
今年のCollision、最初のセッションは「The IT revolution」。気になったのは大企業のIT革命とスタートアップとの関係だ。コカ・コーラの米国CTOと、米国の投資ファンド運用会社BlackstoneのCTOが大企業における社内のIT革命について語る中から見えたその課題は、有用な示唆を含むものだった。
セッション登壇者
[スクリーン&座席左]
Alan Boehme(アラン・ボエム) : The Coca-Cola Company Innovation Head IT
[座席中央]
William Murphy(ウィリアム・マーフィー) : Blackstone社 CTO
[座席右] モデレーター
Brian Barrett(ブライアン・バレット) : Wired誌 News Editor
IT借金を増やさないために、「自社に合う」サービスを選ぶ
ブライアン・バレット(Wired): 早速だけど、まず社内のIT認知度はどうだろう?
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): あまりよくないね。間違った情報をもっている社員が多く、ITへのネガティブな印象がリテラシーの向上を妨げているようだ。
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): コカ・コーラでは比較的良いエコシステムができあがっている。重要なのは商品企画、物流など多岐にわたる部署とのコラボレーションだね。ここがうまく行かないと、IT化は進まない印象だね。
ブライアン・バレット(Wired): コラボレーションというのは、透明性?
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): 透明性というより部署ごとのカルチャーに問題が起因していることが多いね。たとえばIT部署はすぐ解決策を見つけようとするけれど、ITで解決できない問題だってあるわけで、そうした前提も含めたコミュニケーション面が重要になってくる。
ブライアン・バレット(Wired): IT化する際の人材についてはどうだろう。トランプ政権下では移民問題があり、人材の確保に問題が生じていないだろうか?
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): 不安要素はあるものの、同時にエキサイティングだと思っているよ。コカ・コーラはアメリカの企業だけれども、米国集権的な企業ではないんですね。中東やアジアなどにも基盤があるので、優秀な人材は外部地域からも確保することが可能。そう考えると、むしろチャンスが広がってくるから、相当に期待できると考えている。
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): 僕もまだ希望があると思う。正直な所、移民が皆有能なIT人材かというとそういうわけではないし、今後有能なIT人材が本格的に増えてくれば政策も変わるのではないかな。また、移民に頼るのではなく、今あるリソースの底上げも大事。我々のNYオフィスでは、社員へのITトレーニングシステムや、子供向けの教育プログラムにも着手しているよ。
ブライアン・バレット(Wired): では、ちょっと質問を変えていこう。クラウド化については、どうだろう?スタートアップのほうが安いとか使いやすいという話もあるよね。
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): アマゾンやマイクロソフトなど、さまざまなクラウドサービスの特性を理解し、自社に活かすことが重要だ。我々は現状のサービスから移行することは考えていないが、仮に移すとなった際に重要視するのは、自社に合うかどうか。スタートアップのサービスの多くは、何に特化したサービスかが不明確な場合が多く、コカ・コーラのような規制が多い大きな組織には導入しにくいという課題を持っている。よく言われるアブストラクション(抽象性)についての指摘にも通じるね。社内IT化のよくある失敗は、企業側が何をしたいのかわからないままIT技術をインストールしてしまうこと。結局上手く行かずに、IT Debt(IT借金)が増えてしまう。目的を明確にできてない企業が入れる側も売る側にも多いことが失敗の原因になっているんだよね。
大企業の課題に合わせるサービスは夢がないだけではなく失敗する
ブライアン・バレット(Wired): なるほど。IT化する際のもう一つの課題としてセキュリティ関連があるね。
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): 大半の社員が、ブラックボックスはITの部署が全部やってくれると思っているんだよ!(笑)それでは社内のITリテラシーは向上しない。だから週単位、または月単位でセキュリティ研修をしているね。
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): セキュリティは個人の責任。我々のパートナー企業も同様に考えている。多くの企業では、コンプライアンスを心配するが、セキュリティへの意識が薄いことが多くある。私が出会ったスタートアップは、ここが弱いと感じることが多い。大企業にセールスにくるときには、コンプライアンスだけでなく、セキュリティ関連もカバーして欲しい。
ブライアン・バレット(Wired): 社内でのパスワード管理などはどうしているんだろう?パスワード変更とフィッシングがいたちごっこのように続いてしまっている昨今だけど。
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): リスクへの理解は、10年前よりは比較的スムーズになってきているね。
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): IT化が進み社内外のコミュニケーション量が圧倒的に増えた一方で、パスワードが部署内で共有されていることが少なくない。パーソナライズ化をもっと進めなければいけないね。
ブライアン・バレット(Wired): スタートアップが大企業にピッチする際のアドバイスはあるかな?
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): ある程度結果を出しているスタートアップでも、大企業と仕事ができるかはわからない。コカ・コーラの場合、何重もの保険と数千もの規制があり、タイミングやコストによって導入できない、ということ少なくない。ただそういうところに気を取られるとうまくいかないのも事実なんだよね。一企業に言われるがままカスタマイズし、倒産した例も知っているよ。
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): 僕もそれはよく見るね。多くのスタートアップは大企業が抱える問題と自分達のサービスを結び付けて売ろうとするけれど、それではあまり夢がない。大企業が持つ特色をもっと伸ばせる、というアプローチのほうが上手くいく可能性が高いと思うよ。自分自身の経験から言っても、そうしたアプローチを受けてパートナーシップを組んだスタートアップが多い。
アラン・ボエム(The Coca-Cola Company): あとは、どうやってストーリーテリングを2分くらいでできるかだね(笑)。
ウィリアム・マーフィー(Blackstone): 上手くいかないときには、スパッと切り上げて次にいくことも重要だよ。
(以上)
【関連URL】
・Collision Conf
https://collisionconf.com
このセッションのあと、アラン氏は展示会場内のQ&Aセッションに登壇していました。特派員のこのイベントで求めていることは?という質問に対し、「私はこのイベントに参加するのは3回目で、web summitにも過去2年参加していますが、毎回1-2社は一緒に仕事ができそうな企業と出会います。VCが年間3000のミーティングをして平均5社へ投資するというので、ひとつのイベントで1,2社みつかるというのは非常に効率的です忙しい上層部こそこういったイベントを活用すべき」と話します。こういったアクティブな姿勢を持った大企業に出会えるから、イベントに人が集まるんですね。そして、イノベーションが加速していきます。日本にこんな風土はあるでしょうか?