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Collision 2018イベントレポート
あのWeb Summitの北米版、2万5千人を集めるテクノロジーイベント「Collision」が2018年4月30日から5月3日にかけて米・ニューオリンズで開催されました。TechWaveがお届けする特別レポート(Collision 2018レポート一覧)の締めくくりとしてCollisionの運営元であるWeb Summitのファウンダー兼CEOのPaddy Cosgrave(パディ・コスグレイブ)氏に独占インタビューをすることができました。
“カンファレンス業界のマーク・ザッカバーグ”と言われているパディさんにWeb Summitの誕生から急成長の秘密について語っていただきました。
アイルランド発。400人から6万人の大型ンファレンスへの道のり
TechWave: ウェブサミットの誕生について教えてください。
パディ氏: 「ダブリンにはスタートアップイベントがなく、僕らはダブリンにもそういうコミュニティーがあってしかるべきと思ったのがはじまりなんだ。
Web Summitは、本当に小規模で始まった。最初の年(2010年)の参加者は400人、しかも皆アイルランド国内から来る人だけだったし。2012年に初めて国外から参加者が来るようになったんだ。そして昨年は6万人が世界各国から来てくれた。
グローバル展開は4年前から行っていて、アメリカではCollision、3年前にアジア版のRISEというイベントをローンチした。これらのイベントのフレームワークはWeb Summitと同じだけれど、地域ごとの特性もあるんだ。Collisionには北米や南米の企業が目立っていたり、RISEにはアジアの企業が多く参加していたりね。CollisionとRISEはWeb Summitに比べるとまだ規模は小さいけれど、成長のスピードはWeb Summitより早いんだよ。
特にアジア版のRISEは勢いがある。アジアでは大きなグローバルなテックカンファレンスがまだ少ないこともあってか、他のイベントに比べても著しいスピードで成長していて、GMICよりも大きくなっているんだ。僕も驚いているよ。
TechWave: Web Summitがそんなに急速に発展したのはなぜですか?
パディ氏: 僕たちは、ソフトウェアを作ったんだ。受付やアプリのみならず、スピーカーマネジメントのソフトウェアまでもすべて自分達で開発した。イベント業界に限らず、純粋にソフトウェア企業と言える企業はそれほど多くないのが現実だと思うんだよね。
UberやAirbnbを見ても、ソフトウェアを自社で開発していて、それが現実世界の生活をより良くしている。車に乗る、部屋を借りるといった単純な行為なのだけれど、そこにE-コマースという、ユーザーと“物”をつなぐソフトウェアのレイヤーがあることでぐっと便利になるんだ。僕たちがやっていることはまさにそれ。人と人、人とサービスをつなぐソフトウェアを提供している。
僕らがWeb Summitを始めた時は、ヨーロッパにはLeWeb、NextWeb、DLD、Slushなどの大規模なカンファレンスが存在していた。これらのイベントに比べたら僕たちは無名だったんだけれど、僕たちの強さはやっぱりこのソフトウェアにあって、ここに価値があるから人が集まってくると思っている。
ウェブサミットは、展示会ではない
TechWave: 色んなイベント名が挙がりましたが、Web Summitと他のグローバルカンファレンスの違いってどんなところですか?
パディ氏: 人によって受け取り方は違うと思うけど、ひとつあげるとしたらWeb Summitはトレードショー(展示会)ではないということかな。展示会では出展者が主役だけど、Web Summitはスピーカーや参加者が主役の“コンテンツ・ファースト”のイベントなんだ。もちろんWeb Summitにも出展企業はいるけれど、目玉はそこじゃないから出展者数も限定しているんだよ。
あとは、コンテンツ・ファーストなイベントだからこそ、参加する人たちが思い通りにカスタマイズして趣向に合わせた体験ができる点かな。イベントというのは、ハードなデバイスを体験して好きか嫌いかというものではなく、参加者個人によって良くも悪くもなるという性質がある。“セレンディピティ”もたくさん起こるよね。僕らの仕事は、その“セレンディピティをエンジニアリングして、イベントでのネットワークなどがより良いものになるようにすることだと思っているんだ。
だから参加者向けのアプリでは、参加者の趣向にあったカンファレンスをサジェストしたり、参加者の地域や業界、職種に基づき、それに合った他の参加者を優先的に表示したりする機能がついているんだ。ウェブやアプリのデザインもインハウスで専任のチームが作っている。
今のところWeb Summitアプリの使用時間は、平均で毎日(イベント会期中)40分使われている。この点からも僕たちはソフトウェア企業で、ただ展示会をやろうとしているわけでなないことはわかってもらえるかな。毎年改良することも重要視してる。日本語“KAIZEN”という言葉があるよね?僕はこの言葉にとても感銘を受けて、それ以降イベント毎にKAIZENすることをチームに促しているんだ。
ユニークなアジア市場
TechWave: アジア市場についてはどう思っていますか?
パディ氏: 本当に素晴らしい市場だと思うよ。世界的にみても一番大きな市場だしね。他の地域と比べて非常にユニークな市場でもあるよね。
日本にはLINEがあって、中国にはWeChat、韓国にはカカオトークがあるよね。ヨーロッパではヨーロッパ全土をひとつの市場としてみることが多いから、こういう違いはあまり見られない。アジアには言語の違いもあるよね。ヨーロッパ内でも各国それぞれ違う言葉を話すけど、大多数が英語も話せるのでビジネス上は特に困らない。僕らの出身国アイルランドだって英語が母国語ではないのだけれど、皆英語を話せるし。アジアはそういう風にはなっていない。
アジアのイノベーションという観点からみると、中国は一番勢いがあると思う。テクノロジー業界において世界に強い影響を及ぼす存在になりつつある。僕は来年にはそういう位置に中国がなっているのではないかと思う。
日本にも非常に強力なフォースの持ち主がいる
TechWave: 日本についてはどう思いますか?
パディ氏: 素晴らしい企業がたくさんある国と思う。なかでも、ソフトバンクの孫さんは世界的にみても強力な”フォース”の持ち主だと思う。
世界のテクノロジーコミュニティーは、日本と言えばソフトバンクという位知名度がある。1995年に当時もっとも影響力のあったCOMEDEX買収は僕もよく覚えている。
あの投資は最悪だったと酷評する人もいるけれど、あれはソフトバンクが最新のテクノロジーにアクセスするために最も重要な投資だったと思う。インターネットがまだそこまで普及しておらず、テクノロジーもまだそこまで発達していなかった当時、今の価値で15億ドルもの金額を支払ったのはとても素晴らしい決断。
日本にはその他にも素晴らしい企業がある。Web Summitへは、まだ多くはないけれどすでに参加している企業もいる。例えば、LINEのCEOは今年RISEで登壇するよ。
TechWave: 最後にこれからWeb Summitに参加しようと思っている人へメッセージを
パディ氏: Web Summitは全ての人が来るべきとは思っていないんだ。テクノロジーやイノベーションに興味がなく、自分の仕事には関係ないと思っている人は参加しなくて良いと思っている。でも、やっぱりこれからの世界においてテクノロジーがどのような影響を及ぼすか、どんな未来が予測できるのかと少しでも気になる人にとっては最高の場所。そういった人がいれば、ぜひ参加してほしい。
(了)
【関連URL】
・[公式] Collision Conf
・[特集] Collision 2018レポート記事一覧
・[記事] TechWaveが世界最大級のテクノロジーカンファレンス 『ウェブサミット』の日本公式パートナーとして始動
蛇足: 特派員より
数年前までは会場をセキュリティーもなく会場を歩き回っていたパディですが、最近では有名になりすぎてなかなかつかまりません。。。久々に話しましたが、以前と変わらず気さくな方でした。
ウェブサミットは、最初の年には自己資金で運営していたそう。彼らもスタートアップだからこその配慮がイベントには施されていて、だからこそ世界中から参加者がやってくるのだろうと思います。今年は香港でWeb Summitのチームと一緒に日本参加者向けのスペシャル企画があります。ご興味ある方は、tour@techwave.jpまで。