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サンフランシスコ最大の「ディープラーニングサミット」現場レポート by Serend

アメリカ・ベイエリアからSerend.Inc 大木さん登場です
 今までTechWaveで記事を書いてもらってないのが不思議なくらいではあるのですが、アメリカ・カリフォルニア州サニベール(シリコンバレー地域の南の方)を拠点に、Tech企業に対する多様な支援活動を展開しているSerend.Incの大木美代子さんに寄稿して頂きました。彼女はベイエリア(シリコンバレーからサンフランシスコ)の大企業からスタートアップ支援まで多様な経験があり、日米横断プロジェクトやアジア進出支援などを展開しています。現地コミュニティに入り込んでいる数少ない日本人といえるでしょう。

「Deep Learning Summit」 @ San Francisco by Serend

2017年1月26-27日の2日間、サンフランシスコにて第3回「Deep Learning Summit」が開催された。民間企業主催による当題材のコンファレンスとしては、今のところこれが一番包括的で規模も大きいものと言える。ディープラーニングのどの分野が注目されているか、技術の進捗状況、どの地域・大学・企業がAI研究で勢いがあるか、などが2日間のトークセッション群を通じて俯瞰できるようになっている。筆者は初年度から参加、今年のコンファレンスの模様をお伝えする。

コンファレンス会場の様子

コンファレンス概要:
毎回30名程度のスピーカーが2日間に渡り入れ替わりにセッションを行うシンプルな仕立て。参加者同士が交流しやすいよう、コンファレンス会場では円卓ごとに5~6名ずつ自由に座り、一日数回のブレークタイム、ランチタイムもディスカッションに十分な時間が設けられている。実際にこのコンファレンスでは、参加者同士の会話がとても活発なのが特徴的だ。

スピーカー:28名 
アカデミア、大手IT企業(Facebook, Googleなど)、AIスタートアップで各ほぼ3等分されている。アメリカ(東海岸・西海岸)、UK(ロンドン)、フランス(パリ)、カナダ(トロント)からのスピーカーが目立つ。

参加者:
リサーチャー(大学、シンクタンク)、大手IT企業技術者、AIスタートアップ、ジャーナリスト

トピック:
自然言語処理、 強化学習、エンタープライズ向けディープラーニング、コンピュータ・ビジョン、画像生成技術(DCGAN) など

興味深かったセッションのサマリー

Facebook
Facebookでは、現在モバイルのマシーンラーニングに注力しているという。それは現在10億人がモバイルのみでFacebookを使っているという現状から。  
Facebookのディープラーニングの適応分野は以下の通り。

・ イベント予想:Facebookにアップされたイメージ/ビデオのセグメンテーション → それを見た人の属性データなどを加味し、その人の志向を判別する。
・ 機械翻訳:Facebookで最近力を入れている機能である自動翻訳は現在100言語以上に対応。ニューラルネットワーク/自然言語処理(NLP)活用
・ コンピュータ・ヴィジョン:畳み込みニューラルネットワーク(CNN)がFacebook, Instagram上の大量の写真で稼働

Deep Genomics
トロント大学のFrey教授によって2014年に設立されたDeep Genomicsは、遺伝子型と表現型のギャップを埋めることを目的としたスタートアップ。

・ 脊髄性筋萎縮症の原因解明にAI / MLを活用しゲノム解析。
・ 大量のデータセットを使う (73 Trillion データポイント、 9,661 データセット)

Preferred Networks
今年このコンファレンスのプレミアスポンサーとなった日本のPreferred Networks 西川氏のキーノートでは、FANUCと世界初の商業IoTプラットフォームが発表された。他にも製造業向けEdge Heavy Computingや、乳がんの検知度を飛躍的に高めるソリューションなどにも言及。

キーノートセッション中のPreferred Networks CEO 西川氏

Intel
現状ではAIハードウェア・プラットフォームの分野でNVIDIAに大きく水をあけられている感のあるIntelのセッション。そのIntelは “Intel Nervana”というディープラーニングのプラットフォーム(neonディープラーニング・フレームワーク + Nervanaハードウェア)を発表。AI開発のトレーニング、AIビジネスのコンサルティングを含め、包括的なサービスを提供するとしている。今後どの程度巻き返しが図れるかに注目したい。

Stanford University
個人的に非常に興味深かったのが、このStanford大学Ermon教授のセッション。 サステナビリティに関連する社会問題(貧困、食糧難を含む)を解決するには、複雑な要因を考慮した意思決定プロセス(Decision Management)が必要であり、AIを用いることでより正確で安価、スケーラブルな意思決定モデルが可能になるとしている。

NVIDIA
今AIといえばこの企業抜きには語れないNVIDIA. AI事業がどんどん加速するに従って、扱うデータの量も増加している。また、ニューラルネットワークもスケーラブルなシステム、パワフルなGPU, 新しいアイディアをすぐにプログラムして試すことができるツール (プログラマブル)、最適化されたライブラリが必須、という出だしからの、自社のプラットフォームの紹介。先駆者の余裕が感じられるプレゼンだった。

Netflix
以下の分野でディープラーニングを活用。 

⁃ ユーザーが、観た映画をどう評価するかをこれまでの利用履歴やプロフィールなどから推察する
⁃ ユーザー毎に映画タイトルをランキングし、レコメンドするコンテンツ(映画タイトルのサムネイル)のパーソナラゼーションを行う。トップにランクされた映画のイメージを選び出し、最適な形で表示する。

Preferred Networksワークショップ
2日目の午後、Preferred Networksから、ワークショップが行われた。同社のディープラーニング・フレームワークであるChainerを、製造業の導入事例を数件交えて紹介。シリコンバレーオフィスのChief Research Officer 比戸氏によると、CNNを導入すればすぐに製造業の課題が解決するわけではなく、アルゴリズムの改良を根気強く続けていくことが重要という。また、今後はディープラーニングの機能が製造業界の様々なプロダクトやサービスに組み込まれていき、AI企業がそのドライバー役を担うであろうとも言及。

まとめ

今回ディープラーニングの導入事例を発表した企業は、中堅どころのIT企業(スタートアップ)がほとんど (Netflix, Stitch Fixなど)だったが、大手企業の事例が次々に出てくるのも時間の問題だろう。

Google, Facebook, Baiduあたりの、AI・ディープラーニングへのリソースのつぎ込み方・コミットメントが半端ないというのが各社のプレゼンからも感じられた。これにAmazonが加わって、現行のAI関連 先行グループといったところ。

AIの研究はやはりトロント(ウォータールー)が強い。ここはAI以外も良質なスタートアップを量産し続けており注目のエリア。一方、ヨーロッパでは、今回ロンドン、パリあたりのスピーカーが目立っていた。

【関連URL】
・re-work Deep Learning Summit @ San Francisco 2017
https://re-work.co/events/deep-learning-summit-san-francisco-2017

蛇足: シリコンバレーの真ん中で
 こういう新しい分野の技術のコンファレンス毎年定点観測的に参加すると、黎明期のモヤモヤしたフェーズから業界が次第に形成され、先行プレーヤーから事例が次々に生まれていく過程をリアルタイムで見ることができる。 人手がかかるラベリングの部分をどうするかなど、ディープラーニングはまだまだ課題も多いが、同時にハードウェアを含めてそれを支える技術は加速度的に進化している。それに従って、あと数年すればディープラーニングの適用事例も飛躍的に増えているだろう。今まさにディープラーニングは大きくブレークしようとしているのを実感した今年のコンファレンスだが、今回はPreferred Networkがスポンサーとしても協賛、存在感を示していた。同社を含めて、更に多くの日本のスタートアップ・企業がこの分野で活躍することを期待したい。
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