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映画「この世界の片隅に」がクラウドファンディングで開花した理由

この記事について:「この世界の片隅に」プロデューサー真木太郎氏のインタビュー

2016年11月12日に封切りされた後、日本における中断日のない最長連続上映記録を打ち立てた映画「この世界の片隅に」。国内外さまざまな賞を受賞し、2019年12月20日にはロングバージョン「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を公開するなど日本の映画史に残る取り組みとして注目をされています。

このインタビュー記事は、2016年12月に行われたものです。当時の内容のまま、ここに2年の時を超えて公開させていただきます。


2016年11月12日に全国東京テアトル系63館で静かに封切りとなったアニメ映画「この世界の片隅に」(こうのふみよ作・片渕須直監督)が注目を浴びています。

舞台は戦中の広島県。その後、原爆投下で甚大な被害を被る広島市から呉市へと嫁いだ「すずさん」の物語です。

この作品は「夕凪の街 桜の国」で第8回文化庁メディア芸術祭大賞、第9回手塚治虫文化賞などを受賞したこうのふみよさんが2008年から漫画雑誌に連載していたものです。単行本は上巻中間下巻の3冊構成で販売されています。当時を偲ぶ美しく人間味あふれる描写が素晴らしい作品です。

一方で、映画についてはテレビCMはゼロ、アニメ作品としての派手な演出や定番のファンタジー要素などが一切ないいわば「地味過ぎる」興行的な成功が見込めない作品と思われていました。

しかし、封切り後6週間で累計動員が52万人を突破。年明けには上映館が倍以上の規模に増えました。また同時にキネマ旬報ベストテンで第1位、日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞を受賞するなど、2016年に封切りされた「シン・ゴジラ」「君の名は」と方を並べる日本の代表的な映画として高く評価されることになったのです。

「手がけないわけにはいかない」

片渕須直 監督が「この世界の片隅に」の映画化を決めたのは2010年頃のこと。アニメーションスタジオMAPPAの社内プロジェクトとして、調査などを開始したのはさらに後の2012年8月のことでした。

片渕監督は現地に足繁く訪れ、地域の人たちと共に情報を収集し絆を深めていったというのです。この熱量は素晴らしい作品へとつながる、そういった雰囲気はあるものの、制作資金を十分に集めることができない状態が続いていたといいます。

そこで白羽の矢が立ったのがGENCO社 代表取締役社長の真木太郎 氏です。GENCOは、アニメ作品をプロデュースを得意としており、最近ではソードアート・オンラインなどのヒット作を輩出していました。

プロデューサーGENCO真木氏: 「人の縁で「この世界の片隅に」の話を聞いたんだけど、片渕監督の作品をみたことがなかったので判断に迷いました。片渕監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」は興行的にはふるわずにいたものの、まずは観てみようと思ったですね。

ところが実際観てみると、心をつかまれてしまった。涙が流れてくるんだよ。これはすごい。プロデューサーとしてこの作品を手がけないわけにはいかないと思ってしまった」。

ターゲットとする予算を決め資金集めに動く真木氏。片渕監督を中心とした関係者はジワジワと作業を進めており制作のゴーサインをいつ出すかと悩み続けるものの、その時点ではまだテアトル新宿などいくつかの上映館しか決まってない状態だったといいます。

動き出すべき瞬間、その背中を押してくれたのがクラウドファンディングだった

そんな中、プロデューサー真木氏の頭に浮かんだのがクラウドファンディングサービス「Makuake」でした。運営会社サイバーエージェント・クラウドファンディングの代表取締役社長 中山亮太郎氏は、数ヶ月前から日本映画のクラウドファンディング活用のアイディアを何度か提案していたのです。

Makuake 中山亮太郎氏: 「自分が海外で仕事をしていた経験からも日本のアニメ作品の素晴らしさ、力の強さを感じていました。ですから、クラウドファンディングの仕組みを使って「この世界の片隅に」の成功に貢献したいと思っていました。

話を聞いてみると、片渕監督は4年に渡る広島の調査を通じ、地元の人たちの交流を密にしているとのこと。何年もかけ調査を続け、シナリオや絵コンテを作り上げてゆく。そこから生まれてゆく作品には必ず力はあると確信し、実際のプロジェクトの支援者には制作開始から65通に渡り制作チームからの熱いメッセージを送るという取り込みを行ったんです」。

どんな内容か残念ながら教えてもらうことはできなかったのですが、この作品に思いを寄せてくれる人にとって忘れられなく内容だったといいます。実際、Makuakeにおける「この世界の片隅に」のプロジェクトは、アニメ映画化を支援するというミッションのもとスタート。なんと、3374人から3912万1920円を集めることに成功したのです。

プロデューサーGENCO真木氏: 「正直なところ、映画のチケットに加えてプラスアルファ要素を提供して2000円くらいのものを1万人くらいから集められたら、というイメージでいたのだけど、実際は一人当たり1万円を2000人が出資してくれるというような動きになったのには驚きました。

こういう反応があるなら、これもできる、あれもできるという考えが生まれ、実際にクラウドファンディングのプロジェクト期間中にテアトル東京での配給が決まるなど、アイドリング中で少しずつ動いていた制作プロジェクトが一気にフルスロットルになったよね」。

作品の真価を人々が見出してくれる時代

クラウドファンディングの仕組みを使い消費者が支援した映画ということで多数のメディアが取り上げる。そのことが「この世界の片隅に」の力を高めていったという要素もありますが、実際は消費者の評価が興行成績にまで大きな影響を及ぼすようになったと真木氏はいいます。

プロデューサーGENCO真木氏: 「シン・ゴジラの試写会に行ったんです。上映が終わったとき、業界関係者はポカーンとしてるんです。場内がシーンとしてしまっているんです。おそらく、なんだこれは?!と呆気に取られたんでしょうね。しかし、蓋をあけてみれば大ヒットです。一方で口コミがすごかった。「君の名は」もそうでしょう。だから、2016年は口コミ元年となったと思うんです」。

「この世界の片隅に」クラウドファンディングの出資者の土台には広島の市民たちが多く含まれているといいます。片渕監督が広島コミュニティの中に立ち地元の人たちの交流を密に何年もかけ調査を続け、シナリオや絵コンテを作り上げていったことが何よりの価値になったのは間違いなさそうです。

また、当然ながら作品の素晴らしさ。声優に「のん」さんを起用したことなど、奇跡とも思えるほどの要素あったのは間違いありません。クラウドファンディングがこれらの要素をスパイラルのように集約し「この世界の片隅に」という作品に価値を高めていった、だからこそ私たちそれぞれの心に大きく響くのでしょう。


その後

その後、この作品の製作総指揮を手がけるジェンコの代表取締役社長の真木太郎 氏は「日本が世界に誇る作品」として日本のみならず、北米・南米・EU・台湾・タイへと順次展開して世界にこの価値を広めたいと考えおり、その取り組みにもクラウドファンディングプロジェクトが実施されました。目標額1080万円に対し、3327人から3223万8000円の調達を達成。

メキシコでは2017年3月10日から約300スクリーンでの公開が開始され(上の写真はメキシコプレミアの模様)。海外は配給は、【タイ】2/23~公開中、【アルゼンチン、チリ等南米諸国】3/17~、【香港】3/30~、【イギリス】6月、【ドイツ】7月、【アメリカ】【フランス】9月 という予定になっているそうです。

【関連URL】
・この世界の片隅に | 公式サイト
http://konosekai.jp

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