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大前研一ビジネスジャーナル創刊 テーマは「グローバル戦略」 【@maskin】


[読了時間: 2分]

 ビジネス・ブレークスルー大学学長等として知られる大前研一氏が監修する新雑誌「大前研一ビジネスジャーナル No.1 」が2014年11月7日に登場した。Amazon Kindleバージョンの価格は1000円。オンデマンド版は1620円。一部の書店にも並ぶようだ。

 テーマは「強いグローバル戦略/脆いグローバル戦略」。交通やインターネットの発達により世界マーケットに対するアプローチが飛躍的にしやすい環境となったにもかかわらず、低迷を続ける日本に対し、本質的な問題解決策を見出だそうという内容になっている。

 興味深いのは、いわゆる経営やマーケティングの手法や技術説明にとどまらず、国や企業、かつそれぞれが互いに及ぼしあう影響とその関係性について、ミクロ・マクロの側面から分析・レポートしている点。ケーススタディの体を成す部分もあるが、ストーリーの羅列ではなく、ではその時企業ではどう意思決定するかという思考プロセスが含まれるなど実践的なコンテンツになっている。

 内容は大きく以下の3部構成になっている。

│1│ 強いリーダー育成の方法論(インタビュー/大前研一)
:強い経営者を目指すために今日やるべきこと

│2│ 世界経済のジレンマ(大前研一経営セミナーより編集)
:停滞する世界経済のアナライズから考える日本発イノベーションを生み出す戦略

│3│ アジア・グローバルの今(大前研一経営セミナーより編集)
:中国・インド・台湾・韓国・ASEAN分析から導くこれからの日本とアジアのグローバルマップ
 

 1は章というよりは、創刊にあたり大前氏の激励コメントという印象。
 2は大前氏主催の経営セミナー「向研会」の内容を再構成したもののようで、BRICSや新興国から、米国・欧州・中国・インド・台湾・韓国・ASEAN諸国、そして日本における最新データをベースとした経済動向と問題課題を分析するもの。

│2│世界経済のジレンマ

この章のおもしろいところは「世界経済を俯瞰」→「米国経済とオバマ政権」→「欧州経済は最悪期を脱したのか?」→「中国・韓国が抱えるリスクとジレンマ」→「ASEAN経済の光と影」→「日本経済とアベノミクスの致命的な問題点」と、まさに世界経済全体を体型立てて分析している点。

 世界経済の成長が鈍化していることを上げ、その中核にBRICS低迷があり、その原因に政治腐敗が横たわっていることを挙げている。また、欧米については「日本化(ジャパナイゼーション)」つまり20年間長期低迷状態にあるとし、実は米国も同じパターンであり、一昔前とは違う経済原理で動いていると大前氏は指摘する。

 米国についてはアップルを筆頭とする成長企業によるリーマンショック前水準に回復してはいるものの、NSA(国家安全保障局)とFBIによるインターネットを通じた無差別な個人情報収集問題やシリア問題、医療保険改革制度法案問題、米債務上限問題により現政権が再びリーダシップを発揮するのは困難と説明している。

 欧州については最悪期を脱出。
 中国については経済成長率が右肩下がりでバブル崩壊のリスクがある。
 ASEANはカンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュといった国々(CLMB)が高い成長率をみせているが、先行するグローバル化により各国の近代化が遅れるなどジレンマもある。

 といった具合に世界を分析しつつ、日本における製造業を中心とした企業の業績が好調であることを指摘。資産を貯めないで使い循環を良好にするという経済心理学に焦点を当て大胆ながら具体的な「日本を立て直す、大前流 改革案」へと結ぶ流れは多くの人が共感すると感じる。

│2│アジア・グローバルの今

 最終章は、アジア各国の動きを分析しつつ、日本企業がアジア発グローバル企業とどうつきあうかに焦点を当てている。

 ここでわかるのは、アジアには追い風が吹いているのは間違いなく、アジアブランドも強くなり、対外投資も増加しているが、成長しているのは中国企業だけであり、さまざまなジレンマを抱えているということ。国ごとに特徴も各サービスのシェア分布も異なり、一様な施策は通用しない状態にあるが、ライバルとしてではなくパートナーとして組み込むことチャンスが増大すると締めている。

 そのほか、アフリカやムスリム(イスラム文化圏)との関係、クロスボーダーM&Aと、日本を軸としても世界を長官すればこんなに多様なことが考えられるかという気づきが盛りだくさんの内容になっている。



【関連URL】
・good.book編集部 の 大前研一ビジネスジャーナル No.1 「強いグローバル戦略/脆いグローバル戦略」 大前研一books | Amazon.co.jp
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00P2DH1PC/
・大前研一オフィシャルウェブ
http://www.kohmae.com/



蛇足:僕はこう思ったッス
 盛りだくさんながら非常に洗練された内容のためさくっと読み進められる。非常に刺激的で示唆に富んだ内容だと思う。
最近、IT業界では「IoT」一色で、海外の来訪者やシリコンバレーから驚きの声があがっていることを頻繁に耳にする。ここまで危機的な状況で、かつ既存の製造業が復活しているのに、なんで電子工作レベルのIoTに夢中なのか?という話だ。もちろんIoTにフォーカスすることは中長期的に意味があるのだが、日本を牽引する製造業との乖離がありすぎることに違和感を感じているという。(僕自身もハードやパッケージ流通などに関与したことがあるので、IoTで日本が描く未来は少なからずそんなに簡単ではなく、まもなくブームは消え、しかしながら創出するという意欲が増大するであろうと期待している)。

このジャーナルで大きな気づきとなったのは「既存技術で新商品開発して成功」という事例だった。日本に抜け落ちているのはグローバルマーケティングの感覚値や企画力であること認識してはいたが、その対抗策の成功例があまりなかったからだ。よく「アドバンステクノロジーではなく、人や企画だ」という人がいるが、企画の強みを最大化するのはやはり広義の技術である。この事例は、決定打がなければ逆転勝利は難しいというのと、技術の落としどころをむやみに定義してはいけないということを説明してくれたように思う。

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