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LINE 田端信太郎 氏に訊く、デジタルマーケティング業界の抱える闇と希望の光 (1)

田端 信太郎氏 (LINE株式会社 上級執行役員 コーポレートビジネス担当)

LINE上級執行役員の田端信太郎 氏に、昨今の業界についての想いを赤裸々に語っていただきました。まず前編では業界全体の課題を、後編では今後の展望について紐解きます。

田端信太郎 氏 (LINE株式会社 上級執行役員 コーポレートビジネス担当)

ーまずはじめに、最近のデジタルマーケティング業界への想いを教えて下さい。

各業界ごとに競争している“淘汰圧“といいますか、”水圧”のようなプレッシャーがあると思うのですが、この広告業界はそれがものすごくぬるいなと感じます。

たとえばコンビニは、大手3社がすごく競争していますよね。3社のプレッシャーのかかり方は、サービス業でいえば最高レベルだと思います。その結果、コンビニ業界からレジ脇のコーヒーが生まれて缶コーヒー市場を奪い、コンビニATMは都銀やメガバンクのATMよりもずっと使われています。他市場を食っていくのです。

そう考えると、広告業界、デジタルマーケティング業界のプレッシャーなんてぬるいと思ってしまうのです。クラウド系ITサービスやコンサルなどの他業界から見れば、草刈り場に見えますよね。

ーたしかに、さきほどのコンビニ業界でいうところの「アイスコーヒー的なもの」がなににあたるか、すぐに思いつきません。

そうそう。それどころか、今の広告業界は百貨店やスーパーのようにやられてしまっていますね。コンビニは別ジャンルだろう、ECでファッションが売れるはずがない、と思って放置していたら、いつのまにかお客様をとられてしまっていて、気づいたときにはもう世間は「百貨店やスーパーにもう用事ないよね」状態。そんな事態に、広告業界もなりかねません。

ーこの業界は、コンビニのようにあからさまに拮抗してないから、強いライバル意識も生まれづらいのでしょうか。

皆、仲がいいと言うか、やはりぬるいというか…。提案ベースではもちろんコンペでやりあうのでしょうが、良くも悪くも既存の業界のしきたりの中での戦いでしかなく、視野が狭いのでは?と感じます。

最大の要因は、クライアント側(バイサイド側)のプロフェッショナル化がまだまだ甘いことですね。普通の日本企業には、マーケティング部や広告部の担当者が、3~4年したらぐるぐるジョブローテーションをして出ていってしまうという問題があります。外資は別ですが。

そのぐるぐる人事に対して、広告会社が共犯者になり「新任でよくわからないですよね?大丈夫です、私たちに任せてください。全予算を預かります。」のようなやり取りが多発します。この共犯関係が、結局両サイドにとってよくないことになっています。

特に最近思うのが、すごく進んでいるトップ1~2割のクライアントと、いまだに昭和のクライアントとの差がますます広がっていることです。内部に一人でも優秀でイケている人がいれば、なんでも色々なことに挑戦できる時代になってきているのに、ジョブローテーションの部分がボトルネックになってしまって、何もできなくなっています。

また、デジタルになって枠の供給独占がなくなったため、マージンビジネスとして、上流層を囲いさえすれば良い、というモデルは成立しなくなりました。
そうなると良くも悪くもフィーで、ビジネスを成り立たせるしかありませんよね。

ですが、フィー制について、広告業界は、医者や弁護士のみたいに資格ライセンスがあるわけではありませんから、そもそもなんでこの人にお金を払うのだっけ?ということになります。

そうなると、1、尊敬されるか、2、信頼されるか、3、いやなことを引き受けてくれるか、この3つくらいしかないわけです。

「3、いやなことを引き受けてくれるか」のように、めんどうくさい事を引き受けますビジネスはなかなか成り立ちません。広告業界では、特に総合代理店の上位企業が、世の中平均より人件費が安ければいいですけど、明らかに平均より高いわけですから。

そうなると、個人として「1、尊敬されるか」「2、信頼されるか」しか選択肢はなくなります。このような状況に、もっと緊張感を持ったほうがいいと思います。

—「尊敬され、信頼される」されるのが大切ですね。

はい。ただその「信頼」について間違った方向にいく人たちをちらほらみます。

僕の直感ですが、40歳より上の広告代理店の営業マンが、デジタル対応といって今から細かい、例えばアクセス解析士の資格をとったりするようなことをやる必要ないと思っています。

代理店の営業マンが果たすべき最重要の機能は、手配士のように、イケてるスタッフを呼び集めアサインする機能ですので、誰がイケているのかを把握していて、そのイケてる人間をやる気にさせてアサインすることできればいいと思うんですよ。その時に、最低限の知識はもちろん必要ですけれど。

ただ、細かいところが分かる必要はなくて、本質的にどのような価値を果たせばいいのかが理解できていればいいと思っています。

あらためて、よく胸に手をあてて、自分たちは何を付加価値にしているのか考えたほうがいいですね。

その付加価値とは?・・・後編へ続きます。

後編:「やっちゃおうぜ」文化の終焉。インターネットの与党としてのお作法とは?


田端 信太郎
LINE株式会社
上級執行役員
コーポレートビジネス担当

1975年10月25日 石川県生まれ。 1999年3月 慶應義塾大学 経済学部卒業 株式会社リクルートにて、フリーマガジン「R25」の立上げを行い、創刊後は、広告責任者を務める。 その後、株式会社ライブドアにて、ライブドアニュースの責任者を経て、執行役員メディア事業部長に。 ポータル、ニュース、ブログなど広告を主な収入源にするメディア事業部を統括し、ライブドアのメディア事業の再生をリードした。 2010年5月には、コンデネット・ジェーピーにて、カントリーマネージャーに就任。ウェブ部門を統括。 2012年6月 NHN Japan株式会社(2013年4月LINE株式会社に商号変更) 執行役員に就任。広告事業部門を統括。 2014年4月、LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。法人ビジネス全般を統括。現職。


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