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LINE田端さんに訊く、デジタルマーケティング業界の抱える闇と希望の光(2) 「やっちゃおうぜ」文化の終焉。インターネットの与党としてのお作法とは?

田端 信太郎氏 (LINE株式会社 上級執行役員 コーポレートビジネス担当)

ー前編では、業界全体の課題について伺いました。後編では、特にデジタルに限った話で深堀していきます。

(前編はこちら

加えて、デジタル系には、それはそれで別の問題があると思いますね。

広告費全体にしめるインターネット広告費の割合は、いま全体6兆円ほどでネットが1兆円を超えましたよね。つまり2割です。つい10年前まで、ネット広告費の割合なんて3%もいかなかったにもかかわらずです。
果たして、その頃と同じネット広告の売り方をしていていいものかと、疑問に思います。

まだ野党でアタッカーだった頃、特に初期の頃は、すべてがとても簡単だったのです。1クリック◯◯円、1インプレッション◯◯円とは、ものすごく明朗会計ですよ。熱いナイフでバターを切り裂くように、快進撃が続くみたいな状態だったわけですね。

それが、かつては良くも悪くもネット広告は野党でしたが、いまは与党になりつつあります。
グローバルではテレビ広告を抜くと言われていて、日本も遅い遅いと言われながらも、多分、2020年の東京オリンピックの時には並びます。そのときに、同じように、コモディティ化を前提とした「明瞭会計」ごっこをやっていると、ただのデフレに陥ってしまいます。

いままでは野党だったので、要はテレビさえ攻撃していればよかったのです。「この業界構造はおかしい。キー局が5局しかないのは何故だ」などと。僕自身も、そういうことをやってきた自覚があるのですが、そろそろもう政権交代が時間の問題となってきたときには、そうはいっていられませんよね。

ーまもなく与党になろうとしているのに、その心の準備が全然できていない、ということでしょうか?

はい。本当に与党としての責任を考えるべきです。

例えば大企業の炎上事例ですが、もちろん万人が納得する正解はありませんが、業界全体として、与党として、説明責任があると思います。ページを削除してオシマイにするのでなく、「こう思ったのでやりました」という、説明責任です。今までは、良くも悪くも「やっちゃおうぜ」というネットの文化が、インターネットの自由原則でした。僕もそういうネット文化が大好きです。ただ、ネットが世の中の本当に中心になっている今、広告メディアとして求められるルールなり、モラルなりと、現場の実態とのギャップがまだまだ大きいなと感じます。

ールール作りは、たとえば日本ですと御社や、グローバルだとGoogleやFacebookなど、リーディングカンパニーが率いていくべきでしょうか?

うーん、そうなんでしょうね。僕は当事者意識を持っているつもりです。ただ、プラットフォーマーが逃げるなと言われるかもしれないですが、どうしても技術自体は中立な所あるわけで、その中で、どれくらい主体的に事前で予防するべきなのかは難しいですね。
たとえばフェイクニュースを排除していこうとすると、ある意味言論弾圧と紙一重のところも出てきてしまう。パトロールしようにも、LINEの個別のユーザー同士のやりとりを見ることは通信の秘密の侵害になるのでできず、両方からこう挟み撃ちになって困るというのは、結構あります。

ー使う側のモラルの問題ですね。

最終的にはそこですよね。フェイクニュースだってそうですよ。どこまでいったって、排除できないのですから、フェイクニュースはあるという前提で、普通にメディア・リテラシー高めましょうということになってしまいます。
僕自身も1年前は「フェイクニュースは見る人の自己責任じゃん」と思っていたのです。でも、いまではその態度は許されません。その態度だと、消費者金融のグレーゾーン金利のように、業界ごとたぶん世の中から袋叩きあって大変な目にあってしまうと思うのです。

「違法じゃないからいいよね」というのが甘い、間違った態度だと思っています。本当に自分たちは「お天道様にたいして恥ずかしくないことをやっているか?」と問う常識をつねにもつ必要があります。会社を守るという意味でも、長い目で見ればそれが経済合理的だと思います。

僕はJIAAの理事もやっています。例えば最近では、消費者契約法で、勧誘なのか広告なのかの境目の問題があります。それに関して、ネットのターゲティングやリターゲティング広告は、勧誘に近いのではと議論になっています。もっと言えば、LINEのチャットメッセージも、マーケティングオートメーションで、あるタイミングで自動的に来た場合に、これ勧誘でしょと言われたら、う~ん、実態としては確かに勧誘だよね、となってしまいます。広く告げている広告というより、明らかにかつての不動産や商品先物の営業マンがかけるアウトバウンドの電話とニアリーイコールではないかと言われたら、たしかにそうだなと。

ただそれ以前に、告げている中身が不誠実であったり、健全でないクライアントからの広告費であったらどうでしょう。勧誘か広告かの議論よりも、語られるべきことはありますよね。
なので、広告の掲載基準については、LINEの中ではいつも議論しています。正直とても大変ですけど、やっぱり大事だなと思っているのです。
特にJIAAについては、ネット広告費の与党のことを考えると、それだけ業界全体の社会的責任が、とても重くなってきていると思います。

ad:tech tokyo登壇時の田端 信太郎氏

ー去年まさに、JIAA長澤さん、出澤社長などに登壇してもらいました。アドテックのようなイベントも、業界全体のモラルというか、お天道様にはずかしくないかどうかを考える、そういう意識合わせに貢献できるといいですね。

はい。アドテックのような業界のカンファレンスは、そういうのを革新・撹拌していくうえでも大事だと思っています。
ネット上のサービスで起こるような様々な問題を考えたときにも、根本的な再発防止は、同業者同士のモラルに基づく、レピュテーションの問題になるのではないでしょうか。要は、ネット広告の業界って良くも悪くも人材の流動性が高いでないですか。だから、なにか問題のあったサービスに関わった個人の名前が出ると、なかなかもう表舞台に出られなくなってしまいますよね。本当に割り切ってやってお金が儲かったならまだいいですけど、まだ20代の若者が、たまたま一生懸命やっていたら、結果、問題がおき、前科者のような扱いになり、転職先に行っても「あいつは」とかなってしまうのが、とても悲しいことだなと思います。

「そんなダサいことさせられるなら、僕はこの会社をやめます」と言えるくらいになることが、本質的な再発防止にはいいと思っているのです。
よくも悪くもこの業界は優秀な人材はいくらでも転職できるのです。だからまず、例え命じられようが、一個人としてまず考えましょう、と。そういうのは会社の研修ではなかなか言えないので、イベントの場で言ったらいいんじゃないかなと思います。

ーイベントごとは、そういうメッセージを伝えることに向いていますね。

はい。アドテックは、そういうのをぜひ啓蒙して欲しいと思います。あともうひとつ、たとえばアメリカ人って、こういう業界のカンファレンスに来るときって、頭の中の1/3か4割くらい、次の転職先とかのこと考えていますよね。僕はそれが一個人としてとても健全だと思うのです。でも日本人は真面目なのか、なぜかそこまでの気持ちではないです。まあ、アドテック事務局としてはそういうことは言いにくのかもしれないですけど(笑)。

ーいいえ。自分の価値上げる場として、もっと使ってほしいなと思っています。ありがとうございました。


田端信太郎
LINE株式会社
上級執行役員
コーポレートビジネス担当

1975年10月25日 石川県生まれ。 1999年3月 慶應義塾大学 経済学部卒業 株式会社リクルートにて、フリーマガジン「R25」の立上げを行い、創刊後は、広告責任者を務める。 その後、株式会社ライブドアにて、ライブドアニュースの責任者を経て、執行役員メディア事業部長に。 ポータル、ニュース、ブログなど広告を主な収入源にするメディア事業部を統括し、ライブドアのメディア事業の再生をリードした。 2010年5月には、コンデネット・ジェーピーにて、カントリーマネージャーに就任。ウェブ部門を統括。 2012年6月 NHN Japan株式会社(2013年4月LINE株式会社に商号変更) 執行役員に就任。広告事業部門を統括。 2014年4月、LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。法人ビジネス全般を統括。現職。


日本を代表するイベント「ad:tech tokyo」が今年も2017年10月17-18日にかけて開催されます。このイベントの総勢40名の業界リーダーで構成されるアドバイザリーボードのインタビューを連載形式で掲載しています。

【ad:tech tokyo 2017 概要】
日時:2017年10月17日-18日
場所:東京国際フォーラム
参加人数:15,000+
LINE 田端氏も登壇するセッション詳細はこちら
キャリアについて考える”アドキャリ”はこちら

Interviewed by 古市優子 (ad:tech tokyo)

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