サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

大崎弘子、新しい組織=「オオサカンスペース」を育て上げた小さな指揮者 @maskin

2012年1月、当時まだ珍しいコワーキングスペースが大阪・本町に誕生しました。

その名も「オオサカンスペース」。

この施設は、今や世界を駆けるスタートアップ企業として名を知られるようになった「ChatWork(当時はEC Studio)」社の100%子会社として誕生しました。ChatWork社長の山本敏行氏は「創業期からITツールを駆使した働き方を身につければ日本は変わる」と儲け重視ではない信念をもってこのプロジェクトを立ち上げました(大阪「本町」に本格的なコワーキングスペース「オオサカンスペース」を1月16日にオープンします!)。

「起業当初は、ヒト・モノ・カネなど、ないないづくしです」(ChatWork 山本氏)。そんな中、誰かに相談でき、自分にはないスキルを持つ人に外注したり、立地の良いオフィスを安く借りられる。そんな起業家にとって夢のような環境を実現することを目指し「オオサカンスペース」は始まったのです。

中でも重要ポイントとして掲げられたのが「番頭さん」の存在。入居メンバーとのシナジーを生み出しコラボを促進し、ビジネスの後押しをできる専門家のバックアップを受けられるようにする。このミッションを受けたのが大崎弘子さんでした(現在、株式会社 Kaeru 代表取締役社長)。


すべて未経験、無茶なチャレンジの先に見えた一体感

社長としての経験はもちろん、人や組織を指揮する経験もなし。
「自分にはマネジメントはできないと思っていました」と大崎さんは語ります。

「開業からは時間と体力の勝負。常に人が行き交う施設ですから、目も手も足も足りません。
まったく余裕はありませんでした。

2年間、このスペースを一人で運営するのは無茶でした。
だから、早くスタッフとして動いてくれる人を雇わなければいけない。
けれども余裕がないから何もできないんです。

スペースの運営はもちろん
広報活動
デザイナーとエンジニアをつなげるといったマッチング全般
コミュニティ同士の連携
サイト制作やSEO対策
などなど

お金もなかったけど、時間もない、人を雇っても教育する時間もない。
そもそも、自分がやっている仕事をほかの人にやってもらう自信もなかったんです」(大崎さん)

変わってきたのきっかけとなったのは、入居メンバー(利用者)との関係だったといいます。

「無我夢中に、自分ができることをなんでもやりました。
ランチ会とか各種イベントなどは本当に頻繁にやってますね。
仕事を受注したメンバーをがいたらお祝いしたり、本当に小さいことの積み重ねです。こういったチャレンジがが続けられたのは、多様な人が常にこのスペースに来てくれているからなんだと思うんです。

一緒に活動することにより、互いが互いのことを知ることができるようになる。次第に、私が手が届かないところやスキルがないところを補完するように、メンバーの方々が手伝うよといってきてくれるようになったんです。

そういったことを続けていくうちに、自分がやっていることのどの部分をまかせるかを考えることができるようになりました。まずは、受付にいてもらうだけでいいや、から始まり、集中してここだけはまかせるなどあらゆるパターンを試しました。

しかし、私は人にものを教えたことがありませんでした。そこで再び手を差し伸べてくれたのがメンバーでした。彼ら彼女らがスタッフを教育してくれることも増えるようになりました」(大崎さん)。

「オオサカンスペース」は、メンバー同士のシナジーを構築して成長するミッションを掲げながら、運営チーム自らがメンバーに支えられて育っていったのです。

メンバー同士の協業率60%、「新しい組織」の誕生

「オオサカンスペース」の常時利用メンバーはおよそ120名。創業初年度から40人、60人、120人と順調に増えています。その後の5年間は、120人をほぼ維持して運営されています。

大崎さんはメンバー同士の交流支援やマッチングイベントなどに注力し続け、自らも共同で仕事を受注したりプロジェクトを立ち上げるなど関与をすることで、現在ではメンバー同士が仕事で協業する割合で60%を超えるようになったといいます。

「オオサカンスペースメンバー間にある一体感には大きく助けられました。私自身はオオサカンスペース運営で多くの手助けを受けましたが、メンバー同士も例外ではなかったのです。

手伝ってあげるよ、から、手伝ってよという連鎖が生まれていきました。一緒に仕事をやったり手伝ったりしてもれうことで、誰がどれくらいのクオリティを発揮できるのかが理解できるので、メンバー同士の受発注も増えていきました。最近では、誰かのところに来た案件をみんなでチームを組んで受注しようという話が増えているんです。

つまり、メンバー同士が一緒に仕事をしているんですね。フリーランスだったり企業だったり、いろいろな立場のメンバーがいますが、一つのプロジェクトにみんなが一緒に仕事をしているんです。わからないことは一緒に勉強し、うまくいった、うまくいかなかったを共有する。それで仲良くなるし、信頼関係が生まれるんです。もちろん秘匿性がある事柄があればメンバー同士でNDA(秘密保持契約)を結ぶなどリスク管理もきちんとしています。

こうしてメンバー同士が助け合い、価値を生む構造があるため事業が伸びてないという話はきいたことがないほどです。また、ITエンジニアからデザイナー、飲食店経営者、不動産、人材などなど多様な業界業種のメンバーがいるため、それぞれの得意分野を活かして連携するということが得意となり、「ITなんて外とまじわらないと価値を生み出さない」とさえ思います。そんな空気があるから、たとえばこんなサービス誕生へとつながっていくんです。

「駐車場のシェアリングサービスakippa株式会社」
https://www.akippa.com/

駐車場のシェアリングサービスakippa株式会社の代表取締役 金谷元気さんはオオサカンスペースのオープン当初からいる初期メンバー(会員番号24番)です。経営について考える時間や情報交換するために利用しはじめました。新しいアイデアがあっても作る開発者リソースが社内にないということで、オオサカンのメンバーであるエンジニア矢野勇さん(会員番号38番)に依頼することで、あきっぱが誕生しました。

また、akippa社の新入社員である広報担当の森村優香さん(会員番号197番)をオオサカンスペースのメンバーとして登録し、メンバーと交流しながら広報経験者に仕事の進め方を相談したり、コツを聞いたり、ときには会員相互でプレスリリースを添削したりと新人教育の一貫としてして活用することもありました」(大崎さん)

でっかい親戚

「オオサカンスペースのメンバーは好奇心のある子どものような人ばかり」と大崎さんはいいます。
何か疑問や課題があれば、「うーん、それはこうやれば解決できるかも」というアイディアが飛び交うのです。

ある利用者が、「本を出したいけどISBNを取るのに自宅の住所公開したくない」と発言したことがきっかけになり、ブレストがはじまりサービスの企画がはじまりました。その中で生まれたのは「MyISBN」というサービスです。約半年の開発期間を経てサービス誕生。開始から4年目に入り着実に成長していて、2017年2月には出版数が1,000冊に達する見込みとのこと。

こういった連携はいいければ、仲良しグループでは対外的にクオリティが高い仕事はできないんじゃないの?と勘ぐってしまうのですが、実はそうではない雰囲気がオオサカンスペースにはあるというのです。

「ただ、人があつまるだけでいいのなら、カフェでいいと思うんです。
オオサカンスペースが掲げるミッションの実現に徹するなら、考えが違うからとか仲が悪いといったことをも許容して、コラボしたりシナジーを発揮しないといけないんですね。私の仕事は、オオサカンスペースという「でっかい親戚」コミュニティの大縄跳びで、縄を回し続けるということなんです。

オオサカンスペースの5年間は、0から1の仕事でした。
振り返ってみるとオープン当時に重要視していたことは叶っているように思います。
売上も利益は伸びてて問題がない。
正直言って、やりつくしました。

今は、ここを守り、ここで生まれる事業を続けること。
そして快適に過ごせるコワーキングスペースを増やすために、国内外の既存の施設コミュニティとの交流をしていければと思っています」(オオサカンスペース運営管理 株式会社Kaeru 大崎弘子)。

運営チームも正社員が1人、アルバイト5名となった

オオサカンスペースのメンバー(2014年撮影)

【関連URL】
・大阪スタートアップ黎明期を支えたコワーキングスペース「オオサカンスペース」が5周年 @maskin
http://techwave.jp/archives/oosakan-space-5th-anniv-24739.html
・5周年 オオサカンEXPO
https://www.osakan-space.com/osakanexpo

蛇足:僕はこう思ったッス
 オーケストラの指揮者
今でこそたくさんのコワーキングスペースが全国に普及したが、その中でもオオサカンスペースは独特の雰囲気がある。その場に行かなくてもそのメンバーに染みた理念が伝わってくるのだ。本当に不思議なコミュニティだが、互いが互いを認め合い、業界業種を越えオープンに対話をすることで新たな価値が生まれていく様はジャムセッションをやるオーケストラのよう。大崎さんはその中の指揮者のような存在だが、本人も起業家であり、オルフェウス楽団のような指揮者のないコミュニティオーケストラのようなイメージがある。いずれにせよ、こうしたフラットでシナジーがある空間は日本ではとても珍しく、それをゼロから作り上げた大崎さんの功績はもっともっと注目されてもいいように思う。
モバイルバージョンを終了