2009年に初開催され、今や全世界から5万人以上が集結する欧州最大規模のデジタルマーケティングカンファレンス「dmexco」が、2017年6月・9月の開催に先立ち公式サテライトイベントを東京で開催した。
イベントに先立ち、ファウンダーであるバブリシス・グループのハーリングハウゼン氏が来日。欧州のデジタルマーケティングトレンドと同氏から見た日本のマーケティング市場での課題について聞いた。
「アドフラウド(Ad Fraud/広告詐欺)?いや、別に問題になっていないよ。働き過ぎ問題?そんなに大きな問題じゃないね」。「今活用しているペルソナは、将来的に不要になる」。日本の一歩二歩先を行く欧州マーケティング事情を紐解くインタビューをお届けする。
ペルソナマーケティングはもう間もなく不要になる
―今欧米で話題のトピックはなんだろう?
“オートメーション”だね。これはここ1年ばかり、至る所で話題になっている。
人の労力でできる最適化は限られている。だからAIなどもとても注目されていて、dmexco のステージでも、AIあるいはマーケティングテクノロジーが組み込まれていないピッチはもう絶対勝てない。
例を挙げてみよう。PublicistはPeople Cloudを使っている。People Cloudは各国の人々のネットワークだ。ここでは、従来のペルソナ、「女性、24歳、子供2人、東京在住」は将来的に不要になる。その時、ペルソナは犬の散歩をする人、Uberドライバー、共働きの夫婦などになるんだ。
リアルタイムで、時間とブランドのタッチポイントに触れた人のコンビネーションでペルソナを判別する。さらにエモーショナルトラッキングで、その人はハッピーか、ストレスを感じているかなどを判別し、その人、その人の感情、時間に合わせて最適なコンテンツを提供するという風になる。
消費者とのコンタクトを図るための要素が今よりもっと増える。要素が増えれば、テクノロジーは不可欠だよね。
―dmexcoはそんな中で、デジタルテクノロジーによる変革を起こす媒介となってきたよね。
企業が新たな世界へ突入することを助けるのが僕らの役割だ。大手ブランドから、エージェンシー、テクノロジー企業がdmexcoには集まってきているけれど、今例に挙げたオートメーションであれば、企業がオートメーション化するにあたり適切なパートナーを探す手助けや、それについて学ぶ機会をカンファレンスを通して提供している。BMWの例で言えば、彼等はそれぞれのタッチポイントにおいて、ペルソナを判別し、適したコンテンツを提供するということに取り組んでいる。それも最適なタイミング、最適なチャンネル、そして最適なデバイスでね。dmexcoはこういった企業のステークホルダーを集めて、彼らが求めるテクノロジーを見つける手助けをしているんだ。“人、テクノロジー、そしてメディアのつながり”それがdmexcoだよ。
――dmexcoがグローバルイベントに成長した理由はなんだろう?
グローバル企業をたくさん招聘したところだね。スピーカーとして登壇機会を提供したり、展示会にもグローバルのトップ企業を呼んで新しいテクノロジーを発見する場と提供した。そうやって徐々にグローバルのトップが集まるようになると、他のみんなも集まってくる。例えばWPPのマーチン・ソレルは2回以上dmexcoに来ているし、facebookのシェリル・サンドバーグも登壇したことがある。2年前にはTwitterのCEOも登壇している。
最大の成功の秘訣は、参加費が無料だったこと。誰でも参加できた。今は、100ユーロくらいの参加費を取っているけれど、その分質を重視するようになってきた。昨年は、5万5千人が参加。海外参加者の比率は今では55%。多くはヨーロッパや北米から参加している。ここ数年はアジアからの参加も増えつつある。
デジタル改革を進めるには、一にも二にも人材
―欧州企業に起こっているデジタル面での変化がまだまだ日本には足りないかもしれないね。
日本企業は特に遅れてはいないと思うけれど、もし質問に答えるとしたら、僕は企業体質を変えるに必要なことは2つあると思っている。
一つ目は、“有能な人材”。適した人材をアサインできなければ、適したマインドセットは作れない。適したマインドセットがないと、最適なビジネスモデルは作れない。
二つ目は、社員を変化の軌道に乗せてリードしていくことだ。社員には、コンフォートゾーンを越え、見たことも聞いたこともない変化を、オープンに受け入れていけるように、マインドセットしなればならない。
企業のビジョンを持つことはいいことだが、それを実現するためのプロセスは変化し続ける必要がある。「今の人材は適切か?」、「今の戦略は正しいか?」「今の野望は時代にあっているか?」こういうことを毎年見直さなければならない。そういったプロセスを毎年行うには、そのことができる人材が欠かせないということだよね。
人材確保は欧米でも課題となっている。いい人材をキープしておくことはとても難しい。Googleですら平均勤務年数は大体3年くらいで、ある程度フレームワークを学ぶとみんな転職したり、起業したりする。AmazonやFacebookは割とうまくやっているほうだと思う。これは、Googleに限らず、これは大企業の大きな課題。BMWなどの歴史のある会社の従業員は、有能な人材はある程度集まるが、数年働くとみんな変化のなさに飽きてしまう。
というのも、大企業体質でなかなか思うほど早く変革が進まないから。
有能な人は、数年先の変革について語るのではなく、“今”変革を起こしたいと思っているんだよ。
アドフラウドの話題が去った欧州
―昨今問題視されているアドフラウドについての見解を聞きたいんだけれど。
ヨーロッパではもうアドフラウドについて議論されることはほどんどない。アメリカではまだすこし議論がされているけれど、ブランドやテクノロジー側が問題定義しているというよりは、エージェンシー側が話題にしていることが多い。
一つはデリバリーの問題がある。データを提供している側が正しい数字を提供していないことが多い。グーグルもよくダブルカウントしているしね。この問題に終焉はない。完全な透明性を得ることは不可能なんだよ。
唯一できる対策としては、自社でトラッキングする体制を整えること。例えば、Google AnalyticsとAdobe Site Catalyst など2つのシステムを使い数字を比べる。ひとつの数字をうのみにしてはならない。最終的にはこれもあまり重要ではないんだけれどね。
というのも、成功を測定するには、初期投資がいくらかとそれに対する報酬がどれくらいあったかということが指標になるから。CPO(cost per order) 、リード、CPXなどがその指標にあたるよね。
だから僕の個人的な考えでは、将来的にアドフラウドがこの業界の行く先を左右する優占な問題ではないと思っているんだ。この問題はもう常に付きまとうものだから。みんないかにお金儲けするか考えるから、こういう問題は多かれ少なかれこれから先もずっと存在する。
だから例えば、プログラマティックのサービスを持っていてパフォーマンスを提供する会社だとすると、CPX(Cost per exposure)が10%競合より安いとか言ったことが論点になる。その次に、リードの定義。目的の場所へ誘導するリードなのか、オーダーしたリードなのか。これは結構難しいタスクだ。ビジネスがパフォーマンス寄りになり、近い将来もっとこの現象が加速する中では、アドフラウドについての議論はそんなに多くなくなる。どうやって結果を測定するかの議論のほうがはるかに重要視されるよね。今後5年でそうした変化が進むだろう。
「有能な人材を保持したければ、疲弊させてはならない」
―アドフラウドと並んで、日本ではマーケティング業界で労働時間が長いことが、ネガティブな話題としてホットトピックになっているんだよね。大手広告代理店でも、不幸な自殺者が出ていたり。
これもヨーロッパではそんなに大きな問題じゃないね。僕らはアメリカの影響を大きく受けていて“ワークライフバランス”を重要視している。よく言うのは、「有能な人材を保持したければ、疲弊させてはならない」ということ。働く場所はほかにも沢山あるからね。有能な人材は自分が何をできるかわかっている。だから12~15時間の長時間労働なんてさせないようにしないといけない。日本に関していえば、文化的な違いもあると思うけれど。
人々はエンターテイメント性のある職場環境にいるほうが幸せそうに見える。例えばGoogleやFacebookのオフィスがそうだよね。こういう環境だと、社員は会社にいたいと思う。同僚とゲームをしたりしてチームが家族になり、会社がだんだん家みたいになっていく。多くのヨーロッパの企業はこのような環境を従業員に提供しようとしている。だから労働環境が大きな問題としてあがることはあまりない。
最大の問題は、個人のスキルアップの時間がないこと。仕事はだんだん複雑化していくから、いつまでも同じ知識レベルではいい仕事はできない。
オーバーワークしている環境下では、個人が自分のスキルアップのために割く時間がない。個人のスキルアップは結果として会社へ利益をもたらすので必要不可欠だよ。これは先に話した企業のマインドセットと深くかかわっている。適切なマインドセットがないとビジネスはスケールできない。ワーカー個人としても、学びたいという野望がなければ、エージェンシーのみならずどこに行っても失敗すると思うよ。
(以上)
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