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「Ready Player One」というVRの世界をテーマにしたSF小説がある。作者はアーネスト・クライン氏。世界中で高い評価を受け、スピルバーグ監督による映画化も決まった(封切りは2018年)。邦題は「ゲームウォーズ」。このラノベのように軽率なタイトルにより、多くの日本人がこの本から遠のいていると思うと本当に残念だ。心から残念に思う。
なぜならこの本は、日本のカルチャーとVRの関係性を驚くようなトーンで描き切っているからだ。1980年代からのアニメや特撮、ゲームといった誰もが知る文化がVRを通じてつながってくる、心からワクワクさせられる作品だ。昨今、賑わいを見せるVRブームとも完全にシンクロするばかりか、VRの未来像すら見えてくる内容だ。人類の行く末を予見するキーワードも沢山ちりばめられている。
ただ、安心して欲しい、本文は日本語でも素晴らしい内容のままだ。翻訳も実に巧みで安心して読了できる。傑作中の傑作なのは間違いない。世界中で人気1位となった価値はそのまま日本語にも置き換えられている。
この本の舞台は西暦2041年の現実世界。深刻なエネルギー危機に陥り、世界的な混乱を迎えている時代。その中で人々は逃げ込むようにVRネットワークの世界に没頭するという話だ。VRネットワークの中にある情報の価値が、現実とリンクし、時にはVRの世界の価値が現実世界をひっくり返すほどのパワーを持つ、そんな世界観である。
だからこそ、VRについての描写はリアルで示唆に富んでいる。VRグラスからハプティック(触覚)グローブやウェア、体をささえるVR用デバイスなども精密に描写されており、その品質が没入感とどう影響があるのか、ネットワークを通じて人と人とが結びつくことの素晴らしさやその危険性を多様な角度から描き切っている。VRの今後はどうなるか、どういった可能性があるのかを思索するには欠かせない作品となるだろう。
この作品のおもしろさは、物語の鍵として8ビットマイコンの話題や「人造人間キカイダー」「マグマ大使」「ガンダム」「エヴァンゲリオン」「メカゴジラ」「ウルトラマン」「パックマン」などアニメや特撮、ゲームなど日本発で世界に轟いたカルチャーのオンパレードが続くところ。1980年代前後にこれらをリアルタイムで楽しんだ人にとっては、興奮抜きには読めないだろう。
物語のキーポイントにウルトラマンのベータカプセルが出てきて、変身したウルトラマンが3分の危機を迎える。あくまで空想の作品をモチーフにした演出だが、実際はVR空間の先にいる人と人との関係が、“仮想”ではなく現実に近しいものになるということを伝えてくれる感動作になっている。
【関連URL】
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僕は1970年代生まれで、物語に登場する日本のギークカルチャーはリアルタイムに触れており、すべてのモチーフがなつかしくて興奮した。一方でVRの未来についての考察が十分に成されているようで、デバイスからソフト、文化的な側面までも色々と示唆を得られた。
VRの没入感はハンパない。逃避するのも無理はない。じゃあ、そうなったらどうなるか? 逆に没入し切るのはマイナスか? 現実がこんなに悲観的なのに? VRの世界に、現実にはない本物を知る機会があったら?などということも考えさせられた。テーマは人と人。仮想ではない。
全ての日本人に読んで欲しい作品だ。