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[書評] リポDから生まれた「レッドブル」はどのように翼を授け続けたのか?  【@maskin】


[読了時間: 2分]

 アスリートやモータースポーツ、そしてアート、スタートアップといったハイパフォーマンスを要求されるシーンにおいて絶妙な存在感を醸す高級エナジードリンク「レッドブル」。

 赤い雄牛のロゴを有した刺激的な飲料水は、そもそも世界で初めてタウリン含有ドリンク「リポビタンD」の成功を目にした創業者ディートリッヒ・マテシッツ氏がタイの飲料をベースに考案したもの。

 オーストリアに本社を置くその飲料メーカーの実態は生産工場はおろか、倉庫も流通網も保有しないマーケティング企業である。高額なエナジードリンクのリーディング企業として世界の70%のシェアを獲得する。

 本書「レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか」は2013年10月24日に日経BPから発売されたもので、スイス在住の辛辣なジャーナリストヴォルフガング・ヒュアヴェーガー氏による渾身の作品である。







 秘密主義を通したレッドブルにまつわる情報は極めて少ない。売上すらジャーナリストの徹底した取材によって明らかになってきてはいるものの(本書についてレッドブル社から公式に修正依頼は出ていないとのこと)、その実態は謎に包まれた部分も多い。

 だからこそ本書に書かれた情報に価値がある、ということもできるのだが、そもそもレッドブルという企業の在り方やディートリッヒ氏のビジョンや経営手腕についての記述には一つ一つ驚かされる。

 「儲けた金だけ投資をする」「飲料ではなくエキサイティングな体験を売る」「契約書を交わさない」

 このようなキーワードは、スモールスタートが不可欠なITスタートアップの経営やマーケティングにも共通する考え方といえる。

 中でも印象的なの「消費主義」という言葉だ。

 ニーズを埋めるのが「資本主義」だとすると、消費主義では消費者のイデオロギーや価値観に訴えかけてくる。ドイツ人コミュニケーション思想家のノルベルト・ボルツ氏によればレッドブルは「精神的付加価値」を提供しているという。

 レッドブルは着実にプールした潤沢な資金で、F1チームやサッカーチームを買収したりしているが、多くのアスリートやアーティストやミュージシャン、タレント、有名人などに愛され信頼されているという事実がある。打算的なPRではなく、ブランドの理念を愛する人が連鎖的に波及していっているのだ。

 ただ、こういった強みが、特定のタレントを巻き込むといったありがちな手段に起因しているかというとそうではなく、小さなマーケティング的施策の積み重ねによるものだということがレッドブルの強さを表している。

 たとえば、プルリングに施された雄牛のロゴ。

 これは、空き缶回収義務(デポジット制)に対する効率的解決とブランディングを融合させた結果によるもの。平均的発想の企業なら「コストがどうだ」とか「デポジット対象とならない製品には不要だろ」という打算的発想に陥るのだが、レッドブルはこれをブランディングの協力な価値醸造装置として逆に仕掛けるあたりが大きく違う。

 こうしたリスクテイキングをレッドブルならではの理念の上で実行に移したからこそ、多くのカリスマがこの信頼していったといっても過言ではないだろう。仮にこれをPRをして仕掛けるのだとしたら、莫大な予算がかかる、マテシッツ氏はそのことを十分に理解したいたのだ。

 だからレッドブルは、直接的な消費者などとの接点となるイベントなどの開催も代理店に丸投げではなく、自社で手がけることを徹底している。日本でもキャンペーンが展開されているが、イベントとブランドの融合度合はその辺のイベントとは比較にならない。

 何より圧倒的にエキサイティングな体験の数々に圧倒される。スポーツも音楽も中途半端なイベントは皆無。すべてにおいて突拍子もない、まさに翼を授けられたと思わせるようなストーリーがそこにはある。

 当然ながら数々の失敗はあるが、本書を読んでいるとなぜか勇気と元気が湧く。そしてまた、レッドブルを飲もうという気持ちになってしまうから不思議なものだ。





【関連URL】
・レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか
https://www.amazon.co.jp/dp/4822249840/

蛇足:僕はこう思ったッス
特にマーケッティングをテクノロジーとしてとらえているTechWaveにとってレッドブルは世界トップクラスのブランドとして注目していた。本書に書かれていることの多くのは断片の集合体ではあるのだけれど、ジャーナリスト氏のシニカルかつ猛烈な探求心によるレッドブルという巨像の真実にストレートに向っているように感じた。起業家にとって、こうしたリスクの取り方、ブランドの構築の仕方は受け入れがたい部分もあるかもしれないけれど、僕は生き方と経営が一本に集約されるこうした企業こそが世界を変えていくのだと思う。

(お詫び) 本社をスイスと表記しましたが、正しくはオーストリアです。スイスにあるのは生産パートナーの企業などです。大変失礼いたしました!

著者プロフィール:TechWave 編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング → 海外技術&製品の発掘 & ローカライズ → 週刊アスキーなどほとんど全てのIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ブログCMSやSNSのサービス立ち上げに関与。坂本龍一氏などが参加するグループブログ立ち上げなどを主導した。ネットエイジ等のベンチャーや大企業内のスタートアップなど多数のプロジェクトに関与。生んでは伝えるというスタイルで、イノベーターを現場目線で支援するコンセプト「BreakThroughTogether」でTechWaveをリボーン中 (詳しいプロフィールはこちら)

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